元最強のおっさんすべて失ったけどもう一回世界荒らします

外典

俺という名


「ここが次元流道場かでけえ・・・」

 古風なお屋敷といった感じだ、広さはスーパーくらいはあるだろうか。

「待っていたよ真田君」

 俺がどうやって入るかちらちらしていると門の奥から井上が出てくる。

「もう試合終わりそうだけどね」

 嘘だろ!?少し道迷ったけどまだ30分くらいしかたってないぞ。
 俺は道場内に入り、稽古場に案内されると目を疑う光景が飛び込んでくる。30人ほどの大人が全員倒れているのだ、道着を見るにこいつらも次元流の人間だろう。その中央には一人たたずむ金髪の少女がいた。どうやらたった今試合がおわったみたいだ。

「すごいなあいつ、これルールはどうなってんの?」

「念力などのシックは禁止、使えるシックは次元流の本領斬撃波のみの勝負ですね、どうせお嬢のことだ、まとめてかかってこいとかいったんですよ」

 この女あの強力な念力だけが取り柄だと思っていたが違うようだ。

「お嬢はあの念力だけでも十分強いけど、それ以外にも彼女の剣士、次元流士としての実力も卜伝先生に次ぐ実力だよ、次期【剣聖】を継ぐとも言われているね」

 まさに天才、これほど強い彼女を手ごまにできれば、武田達を倒すのもかなり楽になるだろう。というか彼女だけで十分倒せるんじゃないか?彼女と戦うにはまず宙に浮かぶあの剣をはじかなければいけない、あの量の剣を弾くのもかなりきついだろうが、もし弾けたとしてもその後は彼女自身の斬撃が飛んでくるということになる。これはかなりの至難の業だ、その戦闘を想像すると頭が痛くなる。彼女の相手をする奴は気の毒だな。

「さすがです、唯様!」

「お嬢様最強!」

 周りにいて、見学していた連中が彼女にむらがるように押しかける、立花はとって作ったような愛想笑いで対応している。しかしちやほやされる人気者も大変そうだ。
 稽古場の奥から一人の白髪老人が立花のほうに歩いてくる。

「相変わらず、強いのお、唯は」

 その老人は髭を触りつつ、立花を褒める。しかし立花唯はその言葉を無視する、やはり褒められても嬉しくなさそうだ。

「剣聖、塚原卜伝...」

 生でしっかりみるのは10年ほどで顔もかなり老けているがあの顔やまとうオーラは間違いなく卜伝だ。よくも俺や七海を地獄に落としておいてのうのうと幸せそうに生きているもんだ、すぐに俺を思い出させてやる、恐怖とともに。復讐心で血がたぎり、体が熱くなっていくのを感じる。

「すごい怖い顔してるけど大丈夫かい?」

 横で立花の様子をみていた井上に心配される。

「いや少し、気分が高揚してね、世の中にはこんな強い人がいるんだなって」

「全くだよ、昔はかわいいただの女の子だったんだけどね」

「そんな昔からの仲だったのか」

「ああ、幼稚園くらいの年からの仲でね、すごい可愛かったね、シックが発現した少し後からなぜからか冷たくなってしまってね、でも自分は次期【聖】とも呼ばれる彼女を誇りに思うよ・・」

 井上は言動とは反対に少し寂しそうに話す。

「好きなのか?」

「ま、まさかねそれよりどう?次元流に入ればお嬢みたいなこともできるかも!」

 井上は恥ずかしそうに話を変え怪しい宗教勧誘のようなことを言い始めた、それにしてもわかりやすい奴だ。だが気持ちはわからんでもない、あれほどの美貌と強さだ、惚れてしまうのも無理はないだろう。ライバルは多いだろうががんばれ井上。

「これなら次元流も安泰ですな卜伝殿、一時は次元流の稽古を嫌がってさぼっていた時はどうなるかと思いましたよ」

 俺が井上にエールを心の中で送っていた時、名前を知らない横の道着を着た60代ほどの男が卜伝と話しているのが聞こえる。年齢や風貌的に師範代といったところだろう。

「ああ、これでわしも思い起こすことなく逝けるというもんじゃ」

「ご冗談を」

 老人どもがくだらない会話をしている。じゃあさっさとくたばれや、ゴラァ!
 俺が老人談話を見ていると横から視線を感じみてみると、立花が俺を見ていた、俺という存在がそんなに物珍しいのか、見返し数秒目を合わせあってるとすぐ違う方を向いてしまった。はい、俺の勝ち~目そむけたお前の負け~。
 その後立花は師範代としゃべっている卜伝のほうをむき、何やら思いふけっているようだ。表情からしてあまりいいことではないらしい。視線を向けたのを感じたのか今度は彼女がこっちに向かってくる。

「井上試合始めるから審判やって」

「誰とやるんです?」

 また試合を始めるようだ。かわいそうにそいつはあまり機嫌のよくない彼女にストレス解消のサンドバックにされるのだろう。

「こいつと」

 彼女の指は俺を指さしている。えええええええええええええええええええええ。

「学園最強なんでしょ?」

「お、俺は意味のない戦いは好きじゃないんだ」

 俺は下手な煽りに乗らないクールな男だ、全くくだらない。

「まさかひよってんの?」

 ノリで学園最強なんて名乗らなきゃよかったと俺は心底後悔した。

「気を付けろよ、俺は女の顔でも平気で殴るからな」

「上等」

 彼女の目はきらびやかに燃えている、だんだんわかってきた、立花も真壁と同じ戦闘を楽しむタイプなのだろう。これは好機だ、挑んできた理由はわからないがここで戦えばもっと彼女のことを知れるるチャンス、戦闘の時ならいろいろ彼女の本音も聞けそうだ、その勝利に凝り固まった脳に俺という名を刻むがいい。


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