先輩と私の美術部生活

哀乃

1-1 夢羅緑丘高校へ


 私は今、高校の正門の前にいる。

 山奥に位置する私立夢羅緑丘高校。
 偏差値はそこそこ高い。担任から無理だと言われるも、猛勉強し、合格することが出来た。
 私は小中学校の頃、ずっといじめを受けていた。だから受験者も少ないこの高校を志望したのだ。そして理由はもうひとつある。
 部活だ。
 噂によると、ここの高校の美術部は普通ではないそうで。なんと顧問、部員が明かされていないらしい。顧問の先生がわからなければ入部届けが提出出来ないので入部出来ない。
 しかし、そんなことがあるのだろうか?正直、私は信じていなかった。
 まあこれについては後々わかる事だが…
 変な噂がなかったとしても、私は絵を描くことが好きだ。たが、中学の頃はいじめのことがあり美術部で歓迎されなかった。
 高校では希望の部活に入り、自分の好きなことを堂々としたい。
 そう思い、この高校を志望することと美術部に入ることを早くも決めていたのだ。

「今日からは学校生活を楽しむんだ…!」

 小さくつぶやくと、私は正門を通った。



 校内を彷徨いながら何とか教室に着いた。          
 私の教室は1-1。
 基本、どの学年も3クラスまである。
 迷うことを想定して早めに家を出てきたので時間には余裕があった。それでも教室に入ると何人か人がいた。
 しかし、何れの人も本を読んだり、課題を進めたりと静かに過ごしていた。
 特に声をかける理由もないので私も静かに提出物の確認を始めた…。



 そうして高校生活初日は早々に過ぎていった。
 授業があったとしてもオリエンテーションなどで本格的に学ぶことは無かったが、やっと放課後である。
 入部届けは昨日の入学式で校内地図や校則などがざっとまとめてある冊子と一緒に配られている。配られた瞬間、記入をして鞄に入れたので忘れてはいないだろうが一応確認した。
 …うん、記入漏れもない。
 後は顧問の先生にこれを提出すれば晴れて美術部部員の仲間入りだが…問題はその顧問の先生だな。

「起立!」

と、ぐるぐると頭を働かせているといつの間にか担任の話は終わっていたようだ。
 学級委員の号令に慌てて立ち上がると、自然と大きな声で挨拶をする。
 そして大急ぎで冊子だけ手で持つと鞄を乱暴にからい、教室を出た。
  冊子には部活動の情報(顧問、部室、部員人数等々)も書いてあったが、美術部の欄には部室しか記されていなかった。
 確か部室は…第三美術室、だったような。
 壁の端によって確認する。しかし、足は止めない。
 やはり部室は第三美術室だった。
 顧問の先生はとりあえず部室に行けばわかるだろうか…?
 不安を持ちながら、今度は地図のページを見て第三美術室を探す。
 ところが……

「ない……」

 そう、地図には第三美術室という教室は載っていなかったのだ。
 ここで初めて私の足は止まる。
 もう一度端から端まで見るが、やはりない。
 頭が真っ白になった。
 やはり、噂は本当だったのか…。
 誰かに訪ねようとするも、ずっと冊子を見て歩いてきたため、ここがどこかもわからない。
 お次は視界が真っ黒になった。
 …いや、なりそうだった。

「…、!」

 見えたのだ。
 第三美術室と書かれた教室案内のプレートが。
 また私の視界に色が戻ってくる。
 近寄ってよく見るが、やはりそこには第三美術室、と書かれていた。
 見つけた…!!
 心を落ち着かせると私はノックするためドアへ手を伸ばす。
 ああ、これで念願の美術部に…!
 しかし______

「失礼します…!1年1組の……」

 ドアの先にある光景は決して部室、という感じではなかった。

「…おい、メイ。誰か来たぞ…って入部者かっ!?」

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