箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!
65・リザードマンの降伏
先程までキングとリザードマンたちが戦っていた広場に村に住むすべてのリザードマン族が集められていた。
精鋭のコボルトたちに伸されたリザードマンたちも今は目覚めて並んでいる。
長老ムサシを中心に左右にジュウベイ、ガラシャ、バイケン、インシュン、キリマルと並んでいる。
その後ろに村の住人である七十匹程度のリザードマンたちが綺麗に整列していた。
その中には女子供に老体も混ざっている。
外見は変わらないが、雄のリザードマンたちに比べて雌のリザードマンたちは少し小柄で細身である。
胸も若干膨らんで見えるし、腰も括れていた。
なんだかスタイルが若干エロイのだ。
どうやら屋根の上でコボルトたちと戦っていたリザードマンたちにも雌が混ざっていたらしい。
打たれた頭を濡れタオルで冷やしている者もいる。
ゴブリンやコボルトは雄のみが戦っていたが、リザードマンは雌も戦闘に加わる種族のようだ。
すべての雌は忍者のような黒装束である。
これをくノ一と呼ぶのかな。
着物を纏っているのは、戦闘に参加してなかった子供や老体の雌ばかりだった。
あと、ガラシャかな。
あの蛇のような眼差しのリザードガールだけが白い着物を着ていやがる。
一匹だけ清楚に着飾っているのだ。
まるでお姫様気取りなのが見て取れた。
ハートジャックが手を叩きながら声を張る。
「はいは~い、これでリザードマン族の皆様は全員ですか~」
賑やかに振る舞うハートジャックがリザードマンたちの人数を数えていた。
「ええ~~っと、全部で七十五匹ですね~」
思ったより少ないな。
俺は一歩前に出ると声を張った。
「よ~し、それじゃあ早速だが忠誠の儀式を開始するぜ。キルル、聖杯をよこせ」
『はい、魔王様』
キルルが魔王城から持って来た聖杯を両手で俺に差し出す。
「あれ?」
俺はキルルが差し出した聖杯の器を見て小首を傾げた。
「キルル、これ、いつもの聖杯じゃあないな?」
キルルが差し出した器はいつもの聖杯と違ったのだ。
なんだか安物の陶器のカップである。
最初っから使っていたいつもの聖杯と明らかに違う。
『これは新しい聖杯候補の器ですよ』
「聖杯候補?」
『アンドレアさんが、もっと聖杯を増やして一度に製造出来るポーションを増やしたいって言うから、新しい器を用意したのですよ』
「なるほど。聖杯を増やすのか。それでポーションの製造も増やすのね」
『はい、これは聖杯二号ですよ。ベータちゃんです!』
うわぁ……。
今度は聖杯に名前をつけ始めたぞ……。
「その器がベータってことは、前の器が……」
『アルファちゃんです!』
や、やっぱりか……。
「まあ、なんでもいいや……」
少し呆れながらも俺はキルルから新しい器を受け取った。
それは一度も使われていない新品のカップらしい。
陶器で作られたカップは何も飾りがない素朴なカップである。
ワイングラスのような形をしていた。
この器も俺の血を浴びていけば飾りが派手になり新たな聖杯に変化していくのだろう。
その器を片手に持った俺は、真横に逆の腕を延ばしながらキングに指示を出す。
「キング、軽く手首を切ってくれ」
「はい、エリク様!」
応えたキングが速い動きで光るシミターを引き抜いた。
そして、縦に一振り──。
その一振りで俺の片手の手首がザックリと切られた。
傷は深い。
手首からぷしゅ~~っと鮮血が飛び出す。
「「「ナッ!?」」」
その光景を見たリザードマンたちが驚いて目を剥いていた。
いきなり部下に手首を切らせたのだ。
そりゃあ驚いても仕方あるまい。
その驚くリザードマンたちの前で俺は切られた手首から流れ出る流血を新しいカップに受け止めた。
すぐにカップは俺の鮮血でいっぱいになる。
カップが鮮血で満ちるころには切られた手首の傷も塞がった。
「よしっと」
俺はムサシの眼前に鮮血で満たされたカップを差し出した。
赤い鮮血がカップに並々と注がれている。
ムサシは脂汗を流しながら鮮血の注がれたカップを凝視していた。
口角を吊り上げた俺が怪しく微笑みながら述べる。
「さあ、リザードマンたちよ、これを飲め。舐めるだけでも構わんぞ」
表情を強張らせたムサシが不思議そうに問う。
「な、何故ですか……?」
「これは忠義の儀式だ」
「忠義の儀式とな……」
俺に代わってキルルが説明を始める。
『魔王様の鮮血を口にした魔物は、新たなステップに進化します。肉体が強化され、新たな知恵も備わります。こちらのコボルトの皆様のように』
リザードマンたちがコボルトたちを見回しながら驚きを口に出す。
「ま、まことか……?」
逆三角形に鍛え上げられた胸の前で両腕を組んでいるコボルトたちも静かに頷いていた。
『元々彼らは痩せっぽっちで普通のコボルトさんでした。そのころの彼らは、とてもとても皆様リザードマンさんたちに勝てるような魔物ではなかったでしょう』
確かに、本来のリザードマンならば、リザードマン一匹でコボルト五匹を相手にしても負けないだけの戦力差があっただろう。
それが本来のリザードマンとコボルトの実力差である。
だが、今回の戦いでリザードマンたちはコボルト十匹に五十匹で挑んで壊滅させられた。
しかも高い位置から弓矢を使った不意打ちを仕掛けたのにも関わらず負けたのだ。
一匹で五匹のコボルトと戦えるはずのリザードマンたちが、一匹のコボルトに五匹で挑んで負けたことになる。
まさに立場が逆さまだ。
その差を生んだのが、この鮮血なのである。
「ぁぁ……」
ムサシが震える手を聖杯に延ばした。
そこで俺が言う。
「この聖杯を述べばパワーアップ間違いなしだが、それと共に条件が存在するぞ」
ムサシの手が止まる。
「じょ、条件とな……?」
俺は更に怪しく微笑みながら言う。
「俺の鮮血を口にすればパワーアップするが、俺に永遠の忠誠を誓わなければ、すぐさま石化するぞ。カチンコチンにな!」
「「「ッ!!??」」」
リザードマンたちが背筋を延ばして驚きを現していた。
「せ、石化とな……」
「そう、石化だ。しかも言葉だけで忠誠を誓っても無駄だ。心から誓わなければ石化する。俺の鮮血を口にした者が心中で裏切りを宿した瞬間に石化するんだ。自動の石化でな」
「要するに、我々に永遠の誓いを心から宣言しろと……」
「そうだ。だからテメーら得意の口八丁な嘘は通用しねえぞ!」
「「「ヌヌヌッ……」」」
多くのリザードマンたちが俯いた。
こいつらも心から多種に忠誠を誓えるか分からないのだろう。
「どうする、リザードマンたちよ!?」
俺の問いにムサシが頭を下げながら手を延ばす。
「よかろう、その申し出を受けようぞ!」
「父上ッ!?」
「親方様ッ!?」
ガラシャやジュウベイがムサシに声を飛ばした。
しかし、どうやらムサシの心は決まったらしい。
だが、更にムサシが問う。
「しかし、最後に訊きたい、魔王エリク殿!?」
「なんだい?」
「我々リザードマン族を魔王軍に引き入れて何がしたいのじゃ!?」
他のリザードマンたちも同じ疑問を抱いているのか、俺の回答を強い眼差しを向けながら待っていた。
俺は微塵の迷いもなく答える。
「まずはこの辺の魔物を束ねて国を作る!」
「国とな……」
『魔王国ですね!』
「そして、人間界に打って出る!」
「世界制服が目的かぇ!?」
俺はしらけた顔で返した。
「世界なんで興味はねえよ」
「じゃあ、何故じゃ……?」
「俺の目的は、破滅の勇者を倒すことだ」
「破滅の勇者とな……?」
リザードマン全員が首を傾げた。
「俺がこの世界に転生する前に女神アテナに言われたんだ。この世界に転生した者の中から破滅の勇者が現れる。そいつは、この世界を崩壊させるってな」
ムサシが述べる。
「勇者が世界を崩壊させるとな……?」
ガラシャが続く。
「勇者ガ世界ヲ破滅トハ、ナンタルアベコベナ……」
ジュウベイも続く。
「勇者トハ、ソノ種ノ英雄ノハズ。ソレガ種ヲ裏切ルノデゴザルカ?」
俺は傲慢そうに微笑みながら返した。
「だから、その勇者をぶっ倒す。それが俺の最終目標だ!」
「ま、魔王が世界を救うつもりかぇ……」
「そうだよ。不死身の魔王だって死にたくない。流石に世界が崩壊して無に帰ったら不味そうだろ」
『魔王様は一人ぼっちになりたくないんですよ』
「キルル、お前は一言多いぞ!」
「それを我々に手助けしろと……?」
「そうだ!」
「くくくぅ……」
「うぬ?」
長老ムサシが長い顎髭を撫でながら笑い出す。
皆の視線がムサシに集まった。
「カッカッカッ、面白い。長生きするものじゃわい」
「何が面白いんだ?」
「この異世界にリザードマンとして転生してきて数十年。人ならざる第二の人生を歩んでこそこそと森林の沼地で隠れるように過ごしていたが、まさかまさかの新展開じゃ!」
「新展開?」
「ここに来て儂の大冒険が始まった思いじゃわい!」
老体の蜥蜴面が悪ガキっぽく笑っていた。
こいつに取って青天の霹靂なのだろう。
「じゃあ、俺と来るかい、ムサシ?」
ムサシが再び深く頭を下げる。
「お供しましょうぞ、魔王エリク様、どこまでも!!」
ムサシの言葉を聞いたリザードマンたちも深く頭を下げた。
一族揃って心が決まったらしい。
「それならば、その鮮血を頂かせて貰いますぞ!」
するとムサシが素早い動きで俺から聖杯を奪い取る。
そして、鮮血を一気に飲みほした。
「あ、バカ。その一杯で全員分なのに!!」
「ぐがががぁがぁかぁがぁかぁぁあ!!!!」
そして、ムサシの変身が始まった。
ツルツル鱗肌の色がザラザラの砂漠色に変わり始めた。
前進がゴツゴツしたイグアナのような姿に変わる。
腕も足も太くなる。
胸板も厚くなる。
「うがぁぁああああ!!!」
変貌したムサシが天に向かって遠吠えを上げた。
老体を模倣するほどの細身の体型だったムサシの身体が筋肉で膨れ上がっていた。
切られたはずの尻尾も生え変わる。
更に表情から老けた皺が消えていく。
歳が十歳は若返ったように見えた。
もう老体には見えない。
中年ってぐらいかな。
何より威厳が溢れる戦士の体型だ。
そして、一呼吸置いたムサシが俺の前に片膝をついて頭を下げた。
「リザードマン村の村長ムサシ、魔王エリク様に永遠の忠義を誓いますぞ!」
こうしてリザードマン族が魔王軍に加わったのである。
ついでに酒も手に入った。
これで楽しい祭りが主催できるだろうさ。
精鋭のコボルトたちに伸されたリザードマンたちも今は目覚めて並んでいる。
長老ムサシを中心に左右にジュウベイ、ガラシャ、バイケン、インシュン、キリマルと並んでいる。
その後ろに村の住人である七十匹程度のリザードマンたちが綺麗に整列していた。
その中には女子供に老体も混ざっている。
外見は変わらないが、雄のリザードマンたちに比べて雌のリザードマンたちは少し小柄で細身である。
胸も若干膨らんで見えるし、腰も括れていた。
なんだかスタイルが若干エロイのだ。
どうやら屋根の上でコボルトたちと戦っていたリザードマンたちにも雌が混ざっていたらしい。
打たれた頭を濡れタオルで冷やしている者もいる。
ゴブリンやコボルトは雄のみが戦っていたが、リザードマンは雌も戦闘に加わる種族のようだ。
すべての雌は忍者のような黒装束である。
これをくノ一と呼ぶのかな。
着物を纏っているのは、戦闘に参加してなかった子供や老体の雌ばかりだった。
あと、ガラシャかな。
あの蛇のような眼差しのリザードガールだけが白い着物を着ていやがる。
一匹だけ清楚に着飾っているのだ。
まるでお姫様気取りなのが見て取れた。
ハートジャックが手を叩きながら声を張る。
「はいは~い、これでリザードマン族の皆様は全員ですか~」
賑やかに振る舞うハートジャックがリザードマンたちの人数を数えていた。
「ええ~~っと、全部で七十五匹ですね~」
思ったより少ないな。
俺は一歩前に出ると声を張った。
「よ~し、それじゃあ早速だが忠誠の儀式を開始するぜ。キルル、聖杯をよこせ」
『はい、魔王様』
キルルが魔王城から持って来た聖杯を両手で俺に差し出す。
「あれ?」
俺はキルルが差し出した聖杯の器を見て小首を傾げた。
「キルル、これ、いつもの聖杯じゃあないな?」
キルルが差し出した器はいつもの聖杯と違ったのだ。
なんだか安物の陶器のカップである。
最初っから使っていたいつもの聖杯と明らかに違う。
『これは新しい聖杯候補の器ですよ』
「聖杯候補?」
『アンドレアさんが、もっと聖杯を増やして一度に製造出来るポーションを増やしたいって言うから、新しい器を用意したのですよ』
「なるほど。聖杯を増やすのか。それでポーションの製造も増やすのね」
『はい、これは聖杯二号ですよ。ベータちゃんです!』
うわぁ……。
今度は聖杯に名前をつけ始めたぞ……。
「その器がベータってことは、前の器が……」
『アルファちゃんです!』
や、やっぱりか……。
「まあ、なんでもいいや……」
少し呆れながらも俺はキルルから新しい器を受け取った。
それは一度も使われていない新品のカップらしい。
陶器で作られたカップは何も飾りがない素朴なカップである。
ワイングラスのような形をしていた。
この器も俺の血を浴びていけば飾りが派手になり新たな聖杯に変化していくのだろう。
その器を片手に持った俺は、真横に逆の腕を延ばしながらキングに指示を出す。
「キング、軽く手首を切ってくれ」
「はい、エリク様!」
応えたキングが速い動きで光るシミターを引き抜いた。
そして、縦に一振り──。
その一振りで俺の片手の手首がザックリと切られた。
傷は深い。
手首からぷしゅ~~っと鮮血が飛び出す。
「「「ナッ!?」」」
その光景を見たリザードマンたちが驚いて目を剥いていた。
いきなり部下に手首を切らせたのだ。
そりゃあ驚いても仕方あるまい。
その驚くリザードマンたちの前で俺は切られた手首から流れ出る流血を新しいカップに受け止めた。
すぐにカップは俺の鮮血でいっぱいになる。
カップが鮮血で満ちるころには切られた手首の傷も塞がった。
「よしっと」
俺はムサシの眼前に鮮血で満たされたカップを差し出した。
赤い鮮血がカップに並々と注がれている。
ムサシは脂汗を流しながら鮮血の注がれたカップを凝視していた。
口角を吊り上げた俺が怪しく微笑みながら述べる。
「さあ、リザードマンたちよ、これを飲め。舐めるだけでも構わんぞ」
表情を強張らせたムサシが不思議そうに問う。
「な、何故ですか……?」
「これは忠義の儀式だ」
「忠義の儀式とな……」
俺に代わってキルルが説明を始める。
『魔王様の鮮血を口にした魔物は、新たなステップに進化します。肉体が強化され、新たな知恵も備わります。こちらのコボルトの皆様のように』
リザードマンたちがコボルトたちを見回しながら驚きを口に出す。
「ま、まことか……?」
逆三角形に鍛え上げられた胸の前で両腕を組んでいるコボルトたちも静かに頷いていた。
『元々彼らは痩せっぽっちで普通のコボルトさんでした。そのころの彼らは、とてもとても皆様リザードマンさんたちに勝てるような魔物ではなかったでしょう』
確かに、本来のリザードマンならば、リザードマン一匹でコボルト五匹を相手にしても負けないだけの戦力差があっただろう。
それが本来のリザードマンとコボルトの実力差である。
だが、今回の戦いでリザードマンたちはコボルト十匹に五十匹で挑んで壊滅させられた。
しかも高い位置から弓矢を使った不意打ちを仕掛けたのにも関わらず負けたのだ。
一匹で五匹のコボルトと戦えるはずのリザードマンたちが、一匹のコボルトに五匹で挑んで負けたことになる。
まさに立場が逆さまだ。
その差を生んだのが、この鮮血なのである。
「ぁぁ……」
ムサシが震える手を聖杯に延ばした。
そこで俺が言う。
「この聖杯を述べばパワーアップ間違いなしだが、それと共に条件が存在するぞ」
ムサシの手が止まる。
「じょ、条件とな……?」
俺は更に怪しく微笑みながら言う。
「俺の鮮血を口にすればパワーアップするが、俺に永遠の忠誠を誓わなければ、すぐさま石化するぞ。カチンコチンにな!」
「「「ッ!!??」」」
リザードマンたちが背筋を延ばして驚きを現していた。
「せ、石化とな……」
「そう、石化だ。しかも言葉だけで忠誠を誓っても無駄だ。心から誓わなければ石化する。俺の鮮血を口にした者が心中で裏切りを宿した瞬間に石化するんだ。自動の石化でな」
「要するに、我々に永遠の誓いを心から宣言しろと……」
「そうだ。だからテメーら得意の口八丁な嘘は通用しねえぞ!」
「「「ヌヌヌッ……」」」
多くのリザードマンたちが俯いた。
こいつらも心から多種に忠誠を誓えるか分からないのだろう。
「どうする、リザードマンたちよ!?」
俺の問いにムサシが頭を下げながら手を延ばす。
「よかろう、その申し出を受けようぞ!」
「父上ッ!?」
「親方様ッ!?」
ガラシャやジュウベイがムサシに声を飛ばした。
しかし、どうやらムサシの心は決まったらしい。
だが、更にムサシが問う。
「しかし、最後に訊きたい、魔王エリク殿!?」
「なんだい?」
「我々リザードマン族を魔王軍に引き入れて何がしたいのじゃ!?」
他のリザードマンたちも同じ疑問を抱いているのか、俺の回答を強い眼差しを向けながら待っていた。
俺は微塵の迷いもなく答える。
「まずはこの辺の魔物を束ねて国を作る!」
「国とな……」
『魔王国ですね!』
「そして、人間界に打って出る!」
「世界制服が目的かぇ!?」
俺はしらけた顔で返した。
「世界なんで興味はねえよ」
「じゃあ、何故じゃ……?」
「俺の目的は、破滅の勇者を倒すことだ」
「破滅の勇者とな……?」
リザードマン全員が首を傾げた。
「俺がこの世界に転生する前に女神アテナに言われたんだ。この世界に転生した者の中から破滅の勇者が現れる。そいつは、この世界を崩壊させるってな」
ムサシが述べる。
「勇者が世界を崩壊させるとな……?」
ガラシャが続く。
「勇者ガ世界ヲ破滅トハ、ナンタルアベコベナ……」
ジュウベイも続く。
「勇者トハ、ソノ種ノ英雄ノハズ。ソレガ種ヲ裏切ルノデゴザルカ?」
俺は傲慢そうに微笑みながら返した。
「だから、その勇者をぶっ倒す。それが俺の最終目標だ!」
「ま、魔王が世界を救うつもりかぇ……」
「そうだよ。不死身の魔王だって死にたくない。流石に世界が崩壊して無に帰ったら不味そうだろ」
『魔王様は一人ぼっちになりたくないんですよ』
「キルル、お前は一言多いぞ!」
「それを我々に手助けしろと……?」
「そうだ!」
「くくくぅ……」
「うぬ?」
長老ムサシが長い顎髭を撫でながら笑い出す。
皆の視線がムサシに集まった。
「カッカッカッ、面白い。長生きするものじゃわい」
「何が面白いんだ?」
「この異世界にリザードマンとして転生してきて数十年。人ならざる第二の人生を歩んでこそこそと森林の沼地で隠れるように過ごしていたが、まさかまさかの新展開じゃ!」
「新展開?」
「ここに来て儂の大冒険が始まった思いじゃわい!」
老体の蜥蜴面が悪ガキっぽく笑っていた。
こいつに取って青天の霹靂なのだろう。
「じゃあ、俺と来るかい、ムサシ?」
ムサシが再び深く頭を下げる。
「お供しましょうぞ、魔王エリク様、どこまでも!!」
ムサシの言葉を聞いたリザードマンたちも深く頭を下げた。
一族揃って心が決まったらしい。
「それならば、その鮮血を頂かせて貰いますぞ!」
するとムサシが素早い動きで俺から聖杯を奪い取る。
そして、鮮血を一気に飲みほした。
「あ、バカ。その一杯で全員分なのに!!」
「ぐがががぁがぁかぁがぁかぁぁあ!!!!」
そして、ムサシの変身が始まった。
ツルツル鱗肌の色がザラザラの砂漠色に変わり始めた。
前進がゴツゴツしたイグアナのような姿に変わる。
腕も足も太くなる。
胸板も厚くなる。
「うがぁぁああああ!!!」
変貌したムサシが天に向かって遠吠えを上げた。
老体を模倣するほどの細身の体型だったムサシの身体が筋肉で膨れ上がっていた。
切られたはずの尻尾も生え変わる。
更に表情から老けた皺が消えていく。
歳が十歳は若返ったように見えた。
もう老体には見えない。
中年ってぐらいかな。
何より威厳が溢れる戦士の体型だ。
そして、一呼吸置いたムサシが俺の前に片膝をついて頭を下げた。
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