骸街SS

垂直二等分線

8話 初戦


 ある日の朝、俺は目を覚ます。まあ、目を覚さなければこんな文章を脳内で打つ事など出来ないのだが。
 ベッドから降り、右目を擦りながらすぐ側の机につき、PCと向かい合う。
 早朝の静けさの中、俺はキーボードを叩き、カタカタという表現が似合う音を立てる。
 「………やはり進展無いな……。」
 昨日スラム街に仕掛けておいた盗聴器にもめぼしい情報は入っていなかった。幸いな事に機材が見つかったわけではなさそうだが。結構な値段がしたんだが、無駄金だったか?
 ……まあ、今はどうでも良い。俺にはそれより優先すべき事がある。
 「……悪いな、付き合ってもらって。」
 俺は一言呟くと椅子から降り、自室から出る。
 部下2人はまだ子供だ、今からなら間に合う。有無を言わさず「人生」に貢献して貰うには純粋な人格者が必要だ。
 利用するだけ利用しよう、その後の事は後で考えよう。今は一つの事に専念するだけで良い。俺は単純だからな。
 自室の扉が閉まる音を背に、俺は階段を降りる。





骸街SS

 「…………」
 拓男を始め複数人の構成員ががとある部屋のモニターの画面を凝視している。
 モニターには、大勢の人間が屋内で何やら揉めているのが見えた。
 「……これは?」
 俺が聞くと、答えたのは拓男では無い別の構成員だった。彼の名は寺尾奈々良。地味顔で特徴が無い見てくれだが現場指揮官としての能力は高いらしい。
 「ああ、Sの支部が軍基地に攻めてる様子だ。こうやって、まずは俺等の存在を一般社会に認知させるんだよ。」
 なるほど。拓男等の目的は社会改革、それを実現するには良くも悪くも社会に名が知れ渡らないといかないな。
 ……拓男は、日銭を稼ぐ為に情報を集める俺とは全くといって良い程に違う。
 この組織で大原拓男という人物を見る限り、その男には能力、経験、人望が全て揃っている。だから、こんな組織を立ち上げる事すらできたのだろう。
 俺には到底真似出来無い事にも思えるが、そうで無い人間もやはりいるものだな。
 「……双方の被害は?」
 拓男がそばに居た寺尾へとそう聞く。
 「割合でいうと敵が前者で1.6、2.3程度だな。」
 拓男は返答を聞くと少し考えるような顔をして言う。
 「押されてるな……いや、こっちの数自体は相手の1/4程度だ。数の被害はこっちの方が少ないか……。」
 拓男がそう呟いても、構成員達の表情には変化が一切見受けられなかった。拓男も全く表情を変え無い。
 経験の差というものだろうか。俺もいつか、その「差」を埋めるだけの経験と技量を得られるだろうか。
 「……少し救援が必要だな。」
 すると突然、拓男がそう呟く。救援が必要?なぜ?
 「なぜこの状況で救援が必要なんだ?」
 俺がそう聞く。しかし、拓男達は、その疑問が可笑しくてしょうがないと言わんばかりにゲラゲラと笑い出す。
 「……何がおかしい?」
 俺が問うと、構成員の誰かが笑いながら答えを返してくれた。
 「小規模な支部基地の兵士が少ない時を狙って攻めているとはいえ、こんな簡単に日本国軍が押される筈は無いだろう。奴等は、負けた"フリ"をしているんだよ。直に戦況は悪くなる。」
 そうか、奴等は腐っても国軍。数で勝っているにもかかわらず反政府組織相手に負けるなど考え難い。
 「……そうだな、"四級"を15人程度向かわすか。」
 すると、拓男はそう言って俺の方を見た。
 俺はその一瞬で理解した。次に下されるであろう命令を。
 "S"では、基本的に構成員は6段階の階級で上下関係を決められている。下から順に「四級→三級→準二級→二級→準一級→一級」だ。級は実績によって上がっていくが、幹部等の特別な地位を貰うには級は関係無い。
 無論、俺は一番下の"四級"だ。
 新人への実戦経験のプレゼントか、はたまた使い捨てる気か……どの道俺には命令を拒否する選択肢などある筈も無い。
 「……分かった、今すぐ準備しよう。」
 俺はそう言うと次の指示も聞かずに自室へと戻った。
 「……で、今回はどうなんだ?」
 俺が部屋を出てすぐに、ある構成員が拓男へと問いかける。すると、拓男は少し苦々しい顔でこう答える。
 「最近の奴等は駄目だ、使い捨てにもなりゃしない。」
 続けて拓男はこう言う。
 「猪鼻は流され易い馬鹿だ。能力も無いから従順な兵士にもなりゃしない。倉骨はいい線いってるが、「見る目」が全く無い。あれじゃリーダーには向いていない。虫島に至っては論外だな。」
 すると、構成員の中の誰かが拓男に聞く。
 「あと2人、大原と隅川はどうなんだ?」
 その問いに対し、拓男は難しい顔でこう答えた。
 「隅川……あれは厄介だ。俺等、そして奴本人が思っている以上に"壊れて"いる。あの事件からじゃ無い、ずっと前からな。愛情に飢えている所を突いて落ち着かせているが、あれが覚醒したら……俺は殺されるかもな。因みにしおりの方は問題無い、安定している。」
 拓男はそう言うと再びモニターへと向き直る。その様子を見た構成員は、やれやれ、といった表情で溜息を吐いた。

 一方その頃、俺達は淡々と戦争への準備を進めていた。
 「……よし、準備は完了したな。持ち物に不足は無いか?」
 俺が部下達にそう声を掛ける。
 「持つ物なんてほとんどないでしょ……。」
 松江は気怠げな声でそう返す。
 俺達……仮称「孤白隊」では、その圧倒的資金不足による装備不足が問題となっている。本部から支給されたのは、生地が分厚い防火仕様の癖に隠密用途で色は黒い「防火パーカーユニフォーム」とSが独自製作&量産した9mm自動機関拳銃マシンピストル「STRGL-3」、そしてサバイバルナイフを3人分のみで、当然それ以外に俺等の装備など無い。
 俺は"とある理由"により「給料」がしばらく貰えない事になっているし、松江と独歌は俺が拾ってきたので「給料」の対象にはならない。投資の他に情報屋を始めてみたりもしたが、適当に気になる情報を調べに行っても全て無駄に終わった。
 しかし、今回の様な「戦争」では上層部から「ボーナス」が貰える可能性がある。今回は俺達の様な新人ばかりが増援に回されるらしい、チャンスは大きいだろう。
 とはいえ、俺はこの国の表社会のビジネスにはある程度順応しているが、戦争の経験などまず無い。
 訓練とは全く違う世界で、果たして俺は生きていけるのだろうか。
 しかも、最近の俺は、どこか成り行きで行動しているきらいがある。昨日の情報収集行動についても、行動に移した動機がいまいち思い出せない。
 何かがおかしい、しかし何がおかしいのかが分からない。
 そんな「見えない」不安が俺の中に渦巻く中、支部の戦争は激化していた。




 場所は東南中層南東街7区の国軍小規模監視基地。
 反政府組織Sはその地区を占領すべく、基地内の軍人の殲滅を目的とした小規模テロを起こしていた。
 基地は1000㎡程度の狭いもので、敷地内には余り大きく無い通信局舎や駐車場、見張塔と倉庫のみが置かれているが、そこかしこで響き渡る銃声や怒鳴り声、爆発音から、それら全てが現在、小規模な戦場と化している事が分かる。
 「いたぞ、追え!」
 司令局舎のロビーにて、日本国軍軍人のそんな叫び声が聞こえる。直後に、入口の扉に打ち当たる形でSの構成員が突き飛ばされる。構成員の口からは赤い液体が垂れている。
 「よくも!」
 他の勇猛な構成員達は仲間の仇を討とうと軍人に反撃を仕掛けるが、数と技量で負けている以上、戦況は悪くなる一方だ。
 Sの構成員2人が同時に軍人の方へと突撃する。が、直後にその2人は床へと崩れ落ちた。
 「……他愛無いものだ……。」
 軍人が「戦利品」を拾った後にその場を離れようとした瞬間だった。
 パシュッ、という音と共に軍人の頭部に衝撃が走った。彼は瞬時にその原因を突き止めた。
 ーー狙撃だ。
 しかし、気付いた時にはもう遅い。直後に軍人は、その床の冷たさを感じる事無く眠りについた。

 「……やはり乱戦状態の様だ、隠密に仕掛けるなら今しかない。」
 監視基地を目の前にそう言ったのはS"四級"構成員の1人、虫島垂むしじますいである。
 「そうですね、今なら狙撃の音が気付かれにくいし。」
 虫島に続いて狙撃用スラッグ銃片手にそう言ったのは脾野月日ひのつきみだ。
 「……そうか?乱戦なら流れ弾や最悪建物倒壊も有り得る、俺等"四級"は落ち着くまで待った方が賢明じゃないか?」
 俺がそう反論するが、虫島は聞く耳を持たずにこう言う。
 「何とでも言ってろ、新人は黙ってついて来い。お前は俺に経験で負けているんだからな。」
 全く、呆れるな。確かに俺はこいつ虫島に場数では負けているが、虫島は俺が見る限り、その場数の差を逆転する程に馬鹿だろう。
 「……んで、お前の仲間はなぜここに居ないんだ?」
 突然虫島バカが俺にそう語りかけて来る。……バカだな、遠距離でも指示ぐらい出せるわ。
 「……まぁ、お前の仲間なんてどうでも良い。どうせすぐ死ぬのがオチだからな。」
 「そうだな、もしかしたら死ぬかもな。その間にアンタは30回は死ねるだろうな。」
 露骨に煽る虫島を俺は煽り返す。すると、虫島は意外にも何も言い返さなかった。しかし、表情にはその怒りがはっきりと表れている上時折舌打ちもし始めたので挑発は成功したのだろう。
 「まぁまぁ、2人とも落ち着いて……。」
 俺等を鎮めたかったのか、脾野がそう言いながら俺と虫島の間に割って入ろうとした瞬間だった。
 そこに立っていた脾野が突然地に崩れ落ちる。
 「脾野ノツッ!?」
 突然の出来事に虫島は驚くが、俺はもう既に何が起こったのかは理解していた。
 「……流れ弾に当たったか。運が悪い……。」
 特に大きな反応も無く俺がそう呟くと、虫島は倒れた脾野のバックパックから持ち物を拾い上げ、自身のそれに入れ始める。
 「そういえば、あと2人・・・・はどうしたんだ?」
 俺が聞くと、虫島は少し間を置いた後こう返す。
 「武器庫だ。奴等の武器を奪い、敵の妨害を兼ねて装備を整える様指示しておいた。」
 やはり馬鹿だな、四級2人程度で武器庫の警備を撃破できると思うのか。
 「分かった、俺も向かう。」
 俺が返すと、虫島は何も言わずに頷いた。




 一方その頃、Sの構成員2人が件の武器庫の外で中の様子を伺っていた。
 「……中から変な感じがするけど、ここで正解みたい。」
 「それなら今すぐ入ろう。」
 そんなやりとりをしつつ倉庫の扉に手を掛けたのは四級構成員、胆沢いさわフクロと指葵さしあおいである。
 指が扉をゆっくりと開けつつ、胆沢が追加給料ボーナスで手に入れた突撃銃アサルトライフルを構え、警戒態勢を作る。その間、2人の近辺では緊迫感が空気に伝わり、2人はより一層気を引き締める。
 しかし、その緊迫的な雰囲気は、2人が倉庫の中のその異様な情景を視認した途端に一瞬にして崩れる。
 武器庫の造りを説明すると、まず倉庫一杯に広がる多目的スペースがあり、その上には簡素な階段を使って上り下りを行うと見れる、中央のスペースが存在しない2階があった。また、武器庫というだけあり、壁には大量の突撃銃、散弾銃、狙撃銃、PDW等々が取り付けられる形で保管されていた。
 しかし、異様なのは間取りではなく「状態」であり、倉庫内の至る所に血がこびり付き、1階の多目的スペースの中央辺りには1人の完全武装の国軍兵士と複数人の両手両足を縛られた捕虜らしき人間が見える。
 その武器庫らしからぬ「内装」に2人はしばらく呆然としている。
 すると、突然捕虜と思わしき人間の内1人が這って兵士に近付き、こう言う。
 「いい加減にして下さい、俺達が反政府組織では無いという事は、あなた達ならすぐに分かる筈です。」
 すると、兵士は肩を含め、呆れた様にこう返す。
 「お前等が何者か、など俺等は十分知っているつもりだが。労働力に性処理道具、転売用商品や実験台モルモットにしてもよし。「反政府組織にここで拷問されて殺された民間人役の役者」も当然よし。全く便利なものだよ。」
 言い終えると、兵士は近くに置かれていた電動鋸を拾い上げ、その電源を入れる。
 そして、泣いて喚いて叫ぶ捕虜の左足側の股関節辺りに鋸の刃を当て、皮を破り、肉を切り裂き、血を飛び散らせ、骨を砕くまで刃を回す。
 鋸の刃こぼれも捕虜の断末魔も無視して兵士は右足、両腕、胴体と身体のパーツを順々に切断してゆく。
 そして最後に首元へと刃がやられ、血飛沫と共に、捕虜の頭がごろりと床へ落ちる。
 そして、兵士は残りの捕虜達へと向き直り、鋸を振り上げる。
 その瞬間、鳴り響いた断末魔によって2人は我に帰る。
 兵士がこちらを向いていない事をチャンスと見て、胆沢は突撃銃の銃口を兵士へと向ける。
 次の瞬間、鋭い発砲音と共に兵士が床に倒れる。
 「……殺れたかな。でも油断は禁物、確かめに行くよ。」
 「了解、胆沢フク。」
 そう言って2人は武器を持つ手に力を入れ、警戒しながら倒れている兵士へと接近する。
 「…………」
 指がナイフでぐさりと兵士の左腕を刺すが、兵士はぴくりとも動かない。しかし、直後に顔を上げた指はある事実を発見する。
 「……胆沢フク、これ見て。」
 「何?」
 指が呼び、胆沢がそれを聞いて指の元へと向かった時だった。
 胆沢は気付いたら宙に「浮いて」いた。そして、彼女はすぐにその原因を知った。
 目の前に広がる兵士の手袋が、最期に彼女が見た光景だった。
 ぐしゃ、と何かが潰れる音と共に胆沢の「体」は倉庫の床へと落下した。
 「……ッ!?」
 瞬時に事態を飲み込めなかった指は、一瞬の隙を許してしまう。
 すると、その隙に兵士は指に急接近し、体を捻り回転する形で宙を舞う。
 直後に、鈍い音と共に回し蹴りを喰らった指が後傾姿勢になり、頭から先に地面へとダイブする。指は、自身の身に何が起こったのかを理解する間も無く意識を失う。
 そして、兵士は止めに指の頭を、体重をかけて足で踏み潰す。
 「……他愛無いな。弱いな、"S"にしては。準構成員か下級構成員のどちらかだな。」
 兵士は潰した指の頭を見て、そう呟く。
 しかし、直後に兵士はとある異変を察知する。
 「……誰だ?」
 兵士は思わずそう呟く。
 そう、この倉庫内に「人の」気配が感じられるのだ。
 息を潜めている所を見ると、敵に違いは無い。そう考え、兵士が威嚇用に撃つため突撃銃を構えた瞬間だった。
 あまり広く無い2階スペースの物陰から何者かの影が飛び出し、兵士の間近に着地する。
 兵士がその影に気付いた瞬間、影は既にナイフを手に持ち、兵士へと肉薄しようとしている。
 「……ッ!?」
 兵士がそれの攻撃を、突撃銃を盾にして咄嗟に防ぐが、攻撃の振動が伝わった直後には、影は既に兵士の視野の外に行っていた。
 兵士は一刻も早く攻撃の主の現在位置を特定するべく神経を集中させようとするが、自身の荒い息音のせいで上手くいかない。
 しかし、影の方も、最初の攻撃が防がれた事で状況が厄介になってしまったからか、物陰で息を潜めて機会を窺うしか無いらしい。
 「……出て来い。」
 兵士が突撃銃を構えつつ言うが、人影は一向に姿を現さない。なので、兵士がもう一度引き金に指を当て、威嚇発砲をしようとする。
 しかし、すぐに兵士はある事に気付いた。手に持つ突撃銃に、あるはずの弾倉マガジンが装着されていないのだ。
 一瞬の動揺により、兵士には無視出来ない隙ができる。影はそれを見逃さなかった。
 突然兵士の真正面から影が飛び出し、迷う事なく兵士へと一直線上に走って来る。
 兵士が咄嗟に突撃銃を捨て、拳銃を構える。しかし、直後に拳銃の射線を「何か」が遮る。
 「な……ッ!?」
 兵士は咄嗟に拳銃を発砲するが、撃ち出された弾はその「何か」に当たった。直後に「何か」の正体に兵士は気付く。
 そう、拳銃弾を影から守ったのは、切断された捕虜の頭部だった。
 頭部は拳銃弾の威力により兵士の数十cm前で床へと着地した。しかし、今の兵士にはそんな事を気にしていられる程の余裕など無い。
 しかし、兵士が体勢を整えるより早く、鳴り響く銃声と共に兵士の腕には鋭い痛みが走った。
 その直後に、兵士の喉は焼ける様な感覚に襲われ、口からは何やら生温かいものを吐き出してしまった。
 「ごぼ……」
 マスクの内側で装備や肌にそれが染み付く感覚が気持ち悪い、自身が吐き出したものを見て兵士はすぐに自身の敗北を悟った。
 直後に一瞬だけ銃声が聞こえた後に、兵士の意識は途切れた。
 「……これ・・をあと数万人か……。」
 影……隅川孤白こと俺は、フードを脱ぎ、ナイフと機関拳銃を持つ腕の力を抜いて、倉庫の天井を仰ぎながらそう呟いた。
 しかし、その直後に俺の数m先から何者かの声が聞こえる。
 「……助けてくれ……」
 その声の主、つまり捕虜はどうやら俺に助けを求めている様だった。
 俺はそのたった1人残った捕虜の「目」を見た。
 あの目は、相手を道具として見ているときの目だ。
 反政府組織の一員である俺を殺せば奨励金が貰える。あの人間は、俺を利用して拘束を解き、その直後に隙を見て俺を殺し、基地脱出後に奨励金を貰う気なのだろう。
 「全く……低級民如きが汚い手で助かろうなんてな……。」
 そう言いながら俺は助けを乞う捕虜に近付き、ナイフをその首筋に突き立てた。
 「ぐがぁぁっっ!?……お前に慈悲は無いのかぁ……!」
 捕虜が痛みに悶えながらそう聞く。俺にも慈悲はある。しかし、俺には捕虜を助け、かつ自身の身の安全を確保できる技量など無いだろう。
 「いいや。だが、俺は"弱い"からな。」
 俺がナイフを抜くと、捕虜は数十秒悶え続けた後、動かなくなった。
 「……悪いな……。」
 ひとまずの身の安全を確認した俺は、倉庫内の銃器や弾薬などを近くに転がっていた胆沢のバックパックに詰めれるだけ詰め、その場を後にしようと扉に手を掛ける。
 しかし、突如俺の意識は暗転してしまう。一瞬だけ背後に何者かの気配を感じた直後に。




 「……死者3人、生還者5人、内2人重症、行方不明者12人・・・・・・・・、結果は勝利……か。」
 S本部の会議室にて支部長の報告を受け取った拓男は、戦争の結果を呟き、再び部下の方へと顔を向ける。
 そして、拓男は部下に向けてこう言う。
 「いいか、今回は勝てたが、"領地が増える"は言い換えれば"既存の防衛力が薄く引き延ばされる"だ。今この瞬間に領地が取り返されている事も有り得る、決して油断するな。」
 拓男は言い終えると自身のノートPCを再び起動する。
 「……まさか、生存の可能性がある四級12人全てが何者かに誘拐された・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とはな……。」
 そう呟くと拓男は、PCを操作してプロジェークターに資料を映し、会議を本題へと導入する。

【9話へ続く】

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