骸街SS

垂直二等分線

5話 売買

 「では、改めて初めまして。つまり雑魚BもしくはC。」
 「雑魚BもしくはCやめろ!雑魚BもしくはCやめろ!」
 中判あたりでキャラ立った途端死ぬタイプだ、満面の笑顔で少女(?)はそう続ける。





骸街SS

1日前

 「ふぁーあ……おはよう……。」
 「おお、早い……って程でも無いな孤白。」
 俺は9階の自分の部屋から出た後、同階の多目的ルーム("その"の後に続く数字は忘れた)で他の構成員6人と共に朝食を摂っている拓男に挨拶し、多目的ルール内に入って自身の朝食を待つ。
 因みに拓男はなぜか鮫の帽子をかぶっていた。
 化物と戦ってから数日後、俺はすっかりSのアジトでの生活に慣れた。
 どうやら拓男はあの時、俺に走馬灯を見せてでも悔いの無い人生の選択をさせたかったみたいだった。
 確かに走馬灯(?)のお陰で俺は生存意義を自分の中で確立できたし、化け物に負けて死んだ場合も悔いは残らないだろう。
 しかし、やり方が強引すぎやしないだろうか。
 「……それにしても暇だな……。」
 俺はそう独り言で愚痴る。反政府組織と言うと、もう少し「堅い」イメージがあったのだが、実際入ると意外とそうでも無いらしい。しかし、やる事が無さ過ぎて少し暇なのだ。
 「ああ、それについてだが、今日の午後、お前の部屋にPCでも設置しようと思っている。お前の役職は「情報収集員」だからな。膨大な量の情報を管理するにはPCか何か無いと不便だろ?」
 拓男がコッペパンを口に詰め込みながらそう喋る。PCの設置?それは有難いが、この組織は資金的にそんな事をしている余裕があるのか?
 「ただし、こっちで売る為の情報はちゃんと集めておけよ。」
 謎解決。
 「ああ……感謝する。それと、この組織は裏社会での情報屋もやっているのか?」
 俺の質問に対し、拓男はこう答える。
 「活動資金の為だからな。情報屋意外にも、暗殺業や兵器商業、風俗業にコンピューターウィルス屋、金貸しに……あと機械とかの修理もやってるな。」
 「OK、もう良い。ここがどんな組織なのか、もうだいぶ分かった。」
 ……かなり資金を得られる手段が多いな。下手に組織ぐるみで会社を立ち上げて足がつくリスクを高める、なんて馬鹿な真似は拓男はしないだろうし、恐らく商業系の殆どは組織そのものとしては末端でしか無いのだろう。
 「……んで、俺の朝食はまだなのか?」
 拓男等は既にコッペパン2個を食べ終えているというのに。
 「朝食ぐらい自分で買え。1番近い売店は6階、食堂は5階だ。」
 自分で買うんかい!今俺金持ってないぞ。
 「あ、そうだ。新人恒例の白兵戦の訓練があるから、10時には地下2階の自主訓練様闘技場に来い。」
 「りょ、了解……。」
 食事が摂れないと知った俺は、とぼとぼと多目的ルームから出て行った。





 カァンッ!
 俺が振り下ろした鉄の棒は、当然の様に拓男に防がれる。
 「はぁ……はぁ……」
 「おお、どうした?もう息が上がっているじゃ無いか。」
 ここは壁、床、天井一面が真っ白い少し大きな部屋。俺はそこで拓男に戦闘訓練を受けている。
 ……というか、白兵戦の訓練って言ったが、これでは擬似戦闘では無いか!?
 「おい拓男!技術を何も教えずに最初から実戦闘訓練に入るのはどうかと思うのだが!」
 拓男が次々と振り下ろすスコップを横に躱しながら俺はそう言い放つ。すると、拓男はスコップを俺の方へ突きつつこう答える。
 「何を言っている、実戦に勝る戦闘経験は無いというだろう。」
 ……くっ!何て奴だ!実戦と平然と言って除けているが、当然実戦は負傷や死等のリスクを伴う。
 この訓練で死ぬ確率は・・・・・実戦のそれとは程遠いとはいえ、負傷の危険性は大いに有る。さっきから拓男は俺の骨を折る程度の行為なら厭わない様子だ。それを毎日なんて……。しかも俺は数日前に肋骨を折っているんだぞ。
 そんな事を考えながら拓男のスコップ連続攻撃を避け続ける。すると、拓男はまた口を開く。
 「……それに、戦闘技術なんてものは個人の個性を最大限に活かしてこそ伸びるものだ。毎日俺と戦い、個性を見つけろ。時間は掛かるが、1番良い方法だ。」
 その瞬間、俺の腹に鈍い衝撃が走った。見ると、拓男の右手が俺の腹へとめり込んでいる。
 「がはっ……」
 くそ!スコップ攻撃を躱した後の一瞬の隙を狙われたのか!……というか、拓男ってあの化物より強い気が……。
 腹の痛みで床に座り込んだ俺が拓男を見上げると、拓男は俺の武器を拾って遠くに投げ捨てた後に俺を見下ろしてこう言う。
 「……避けるばっかりでは隙が多い上に相手に動きを見切られる。これからは受ける事も視野に入れておけ。」
 「……了解。」
 ……自身の価値が決まったのにも関わらず俺が武器で反撃出来ない様にした拓男が凄い。
 この男はかなりの数の"実戦"の経験があるのだろう。そうで無ければ武器を使った白兵戦試合で手加減して勝つ・・・・・・・のは容易では無い筈だ。俺なんかとは年季が全然違う。
 「此間の怪我もあるだろうし、今日はこのぐらいにしようか。帰っていいぞ。」
 「……ああ。」
 こうして訓練を終えた俺は未だに腹を空かしたまま部屋に帰って行ったのだった。

 「……と言ってもなぁ……流石に毎日数時間の模擬戦闘じゃ、技術を習得するのにも結構な時間が掛かるよな……」
 部屋の椅子に座って俺はそう呟く。実戦に勝る戦闘経験は無いとは言っても、様々な角度から実戦に"劣る"経験をするのも悪くは無いだろう。訓練時間を減らすわけでも無いし。
 ……って事で、こいつを使ってみますか。
 いつ設置されたのか、俺の机には拓男の言っていたノートPCがセッティングされていた。今これを使わない手は無い!
 俺は閉じていたPCを開き、電源スイッチを入れる。すると、今まで真っ暗だった液晶に青白い光が灯る。
 電子機器の液晶画面に映し出されるモノは、様々な色と明るさの光の集合体だ。しかし、我々が普段視覚している光景も、反射した光を眼が感じ取り、眼の神経に運ばれた情報を脳が正確性を隠したまま感じ取っているだけに過ぎない。その2つの光の違いは、発光する恒星の光と日光を反射する月の光程度の違いでしか無い。
 そんな事だから、この世界がどうなっているのか、はたまた「この世界」というものが本当に存在するのかどうかすらも、我々が眼と脳で光を感じとるという感覚に頼っている限りは証明出来ないだろう。
 そんな感覚に頼る"人間"という悲しい存在の1個体である俺は、今日もまたある光をPCの液晶画面というモノと仮定して見ている。そして、俺は液晶が文字を用いてでも伝えたい情報を即座に理解する。
 『パスワードを入力して下さい』
 この文字は俺の脳が勝手に作り上げた偽情報に違い無い。本当は違うことが書いてあるはずなんだ。





 「……は?パスワード解除?俺はパスワードなんて設定してないぞ。」
 拓男は言う。どうやらあのPCは中古品らしい。前の使用者のデータを消し忘れたのか?一瞬心の中で拓男を責めようとした事を謝ろう。
 「……まぁ、別に問題は無い。簡単なハッキング程度なら俺でも出来るからな。」
 前言撤回。それって俺のPCが実質拓男の管理下にあると言う事だろ。
 「……パスワードの件は置いとくとしてだな……。」
 すると、拓男が何か言い始めた。俺としては置いとかないで欲しいのだが。何を言い出すのだろうか。
 「今やお前は正式な構成員だ。毎週10,000円の給料が出るが、その代わり自身に使う金は自身で負担しろ。」
 それは今このタイミングで伝えなければいけない事なのだろうか。
 「……ああ、金の入手方法については分かった。それよりさっさと……」
 「俺は用事があるからさようなら。」
 俺の言葉を遮って拓男はその場を去ってしまった。……本当に都合の良い性格をしているなぁ。では、俺もこの場を去るとしよう。

 「……って……あれ?」
 俺が部屋に帰ると、机の上のノートPCが開かれ、電源も入っていた。
 画面を見ると、どうやら初期化されている様だった。
 「……仕事速いな。」
 拓男を称賛しつつ俺は椅子に座り、PCと向かい合う。
 「……さてと…検索サイトは……。」
 ブラウザーを開くと、俺はマウスを動かし、検索サイトをダブルクリックで開く。すると、画面には真っ白い背景にロゴと、端に虫眼鏡マークのついた検索バーが現れた。
 「『格闘技 防御』検索っと。」
 俺はカタカタと小気味良い、使用した事のない一部の学生等はアニメでしか聞く機会が無い音を立ててキーボードを指で叩き、検索バーに文字を打ち込む。
 「ほうほう……『亀になる』か……。細身で小柄な俺にはまず向いていないな。俺だったら防御に専念するのは片腕にしてもう片方は臨機応変に…………」
 俺は右手操るキーボードとマウスで調べて得た情報や自身で考えた事を、左手操るペンでメモ帳に書き写してゆく。
 「………ふぅ……次に中距離戦だ。」
 俺はサイトを移動して検索サイトに戻り、別のワードで検索をかける。
 軍の兵士は基本的に戦闘時には銃を所持している。そして、敵である生身の人間相手にそれを使う事を奴等が躊躇う事は無い。撃つぞ、という台詞が有言実行される事は俺の実体験・・・・・が証明してくれる。
 「……難しいな……。」
 相手が余程の実力者でも無ければ、重厚の向きに注意してさえいれば、機敏に動く事で銃弾は回避できる。それも実体験が証明してくれている。
 しかし、大量の敵と銃を相手にする状況となると話は別だ。盾になる物を所持していない場合は、逃亡どころか生存する事すら困難だろう。
 「……さて、どうするか。」
 とにかく俺はサイトを開こうとマウスに手をかける。
 その時、机から落ちかけていたメモ帳に気を取られた俺は、ただの不注意でマウスに触れる手を滑らせ、画面横に映し出されていた謎の広告をクリックしてしまった。まあ、良くある事だろう。
 すると、画面に一瞬「読み込み中」を表すぐるぐるマークが表示されたかと思うと、ブラウザ内に新たなタブが現れる。
 俺が画面を確認すると、広告と新しきタブの内容は、画面に映し出されたロゴからしっかりと理解出来た。
 『“T. S. F. M.” 〜日本初の政府公認人身売買サイト〜』
 そんなもん検索サイトの広告で出すな。
 まあ、開いてしまったものは仕方が無い。俺は検索サイトに戻ろうとマウスを動かす。
 すると、突然画面にサイト内の広告の様なものが表示されたので、俺は驚いてその広告をクリックしてしまった。
 流石に焦った俺がクリックした場所を確認する。すると、画面内のその場所にはこんな文字が書かれたボタンが表示されていた。
 『ランダムで商品を購入』
 ……俺の見間違いだろうか、何やらまずい事が書いてあった様な……
 俺は恐る恐る、再度画面を確認する。
 『ランダムで商品を購入』
 はい終わった。
 ……と言うか、なんでそんな事をわざわざサイトのページのスペースいっぱいに表示するのか理解出来ないのだが。
 因みに、今回の様な悲劇はPCのブラウザーに俺のアカウントが設定されていなければ起こらなかった筈なのだが、どうも拓男が調子に乗ってアカウントまで作成したらしい。要するに拓男が悪い。
 「……しかし全く……これはどうするべきか……。」
 その後一日中俺は途方に暮れたまま生活していたが、購入取り消しは不可能らしく、サイトの連絡先に電話しようにも偶然今日は休業日で繋がらず、何も良い案が浮かばずに時間は夜になり、最終的に俺は就寝した。





そして今日

 「……おい孤白、お前宛に商品・・が届いたぞ。」
 「気のせいだろ。」
 「いや、気のせいじゃ無いんだなこれが。」
 朝、昨晩の事で俺は、寝起きに自身の部屋にて早々に拓男に詰め寄られていた。T. S. F. M.さん……お届け早いっすね……。
 「……まあ、気のせいだろうとそうで無かろうと関係無い。お前がこの件にどう関わっているにせよ、商品はお前のネットアカウントで購入されていたのは変わらないな。」
 拓男がずんずんと俺に詰め寄りながらそう言う。自身の頭の上の鮫の帽子がずれている事に拓男は気付いていないが、その中にある筈の黒い存在がかなり少なく感じられるのも気のせいだろうか。
 「………つまり何が言いたい……。」
 俺は慎重な面持ちで言う。すると、拓男は予想通りの答えを返す。
 「つまり、商品の代金800,000円分を俺が払う代わりに今日から孤白の給料80日分が無かった事にされるという事だな。」
 「ああ、理解はしたが了解はして無いぞ馬鹿野郎。」
 残念ながら80日間収入が無ければ俺は生きていけない。
 「まあまあ落ち着け。金ぐらい少しは自分で稼げるだろう。お前の情報が金になれば追加料金が貰える訳だしな。」
 拓男が俺へと諭す様にそう言う。確かに、街中を情報収集で走り回るのも暇潰しになるかも知れない。意外と悪い話じゃ無さそうだ。
 「……まあ、確かにな。俺に損は無い訳だし、そうしてもらう事にするよ。今日から忙しくなりそうだ。」
 俺がそう言うと、俺へと詰め寄っていた拓男は一歩後ろに下がり、こう言う。
 「分かってもらえて何よりだ。しかし、お前の言う通り忙しくなりそうだな。お前も、俺も・・。」
 そう言って拓男は部屋から出て……って、「俺も」?
 「……おい、拓男。「俺も」って……」
 俺が聞くと拓男は振り返ってこう言う。
 「忘れたのか?お前が何を購入したのか。俺的にはお前のモノになる筈だった80万円で支出不必要な新たな構成員を増やせる・・・・・・・・・・・・・・・・・のは嬉しいがな。」
 「……は?」
 俺が拓男の言葉を理解出来ない内に、拓男は部屋を出て行ってしまった。
 「……俺が何を購入したか、人身売買サイトだから人間に決まって………面倒臭い事態になって来たなコレ。」
 俺は気付いた。俺が購入したソレはこの組織に所属し、ソレの収入を支出するのが拓男で無い事に。
 俺がそんな事を考えていると、突然俺の近くでゆったりとした歩調の足音が聞こえる。
 そして、そのすぐ後に何者かが部屋の扉に手を掛けたのが分かる。
 拓男だろうか?いやしかし、足音から察するに、扉の向こうに居るその人物は拓男では無いらしい。と言うか、俺よりも小柄な人物だと思われる。
 次の瞬間、扉が開かれる。そして、奥からは何者かが姿を現す。
 「……こんにちは、購入者バイヤー。」
 何者かは部屋の扉を閉めると、俺へ顔を向けてそう言った。これが拓男の言っていた"商品"だろうか。
 その人物は小柄な俺よりも更に一回り小柄で、体形も華奢だった。また、肩まで伸ばされた整えられていない黒髪や身に着けているぼろぼろの上着とその中から覗くやはりぼろぼろのTシャツと半ズボンが売人らしくもあった。
 しかし、その顔は可憐な少女のそれであり、俺はその顔と雰囲気にどこか懐かしい友人の面影を感じた。
 「……お前が件の商品とやらか。」
 「そんな事僕が知る訳無いでしょ馬鹿野郎。因みに購入者バイヤー、貴方を何と呼べば良いですか?」
 口調と性格には面影が見られなかった。
 少女(?)は気が早い性格なのか、少し不機嫌そうに俺へそう言う。……売人って皆こんなものなのか?
 「俺の名前は隅川孤白すみかわこはく。隅川でも孤白でも好きに呼べ。あと敬語は会話時間の無駄だ、俺相手に使う必要は無い。」
 俺は自己紹介を終えると、もう1度少女の方を見る。
 少女は俺のベッドに無断で座り、部屋が暑かったのか上着を脱ぎ始めた。上着を脱いだ事で露わになった腕には幾つもの痣や切り傷が見え、売人時代の生活を何となく俺に想像させた。
 俺が椅子に座ってPCと向かい合うと、ある疑問が頭に浮かぶ。
 そういえば、売人って戸籍が必要だっけ?どうだっけ……。まあ良いや。俺も戸籍が無い訳だし。でも名前ぐらいはっきりさせた方が良いよな……。
 「……お前の名前は何だ?」
 俺がそう聞いた時には、少女はいつの間にか俺のベッドに寝転がっていた。少女は俺の質問に対して難しい顔をし、一時の静寂の後にこう返す。
 「……僕には売人以前の記憶が無い。別に売人としては珍しい事でも無いし、むしろ普通の事だよ。だから名前も無いって事になる。」
 寝転がりながらそう言った少女はどこか暗い顔をしていた。まるでその記憶を取り戻す事を拒む・・・・・・・・・・・・・様に。
 「ふーん、そうなのか。それなら新しい名前が必要だな。後で考えておくか。」
 俺がそう言うと、少女はどこか嬉しそうな表情になったかと思うと、すぐに別の事について質問して来る。
 「ところで、この組織・・・・について僕は何の説明も受けていないんだけど。」
 本当に偉そうな質問形式だな。
 「この組織は反政府組織の1つ"S"で、鮫帽子のおっさんが首領やってる組織だ。因みに俺は数日前にここに入った。」
 俺が質問に答えると、少女は突然ベッドから起き上がり、じっと俺を見つる。そして、束の間の沈黙の末にこう言う。
 「では、改めて初めまして。つまり雑魚BもしくはC。」
 「雑魚BもしくはCやめろ!雑魚BもしくはCやめろ!」
 中判あたりでキャラ立った途端死ぬタイプだ、満面の笑顔で少女はそう続ける。
 そういえば、こいつの名前を考えないと。どうするべきか……。
 すると、開いていたサイトの別の記事のタイトル俺の目に止まる。
 『伸尾北街・松江市でトラックで輸送中の織物が強盗組織に奪われる』
 「……お前の名前は……松江織まつえおりだ。」
 「適当過ぎる気がするのは気のせいかな。」
 俺は断じて気のせいだと主張する。少女は不満そうだが、そんな事はどうでも良い。
 「……まあ、名前決まっただけ良いだろ。」
 「うん、名前貰ったは嬉しいけどね。」
 俺がそう言うと、少女は意外にも明るい口調で答えた。
 「……しっかしな……女性用の服が必要か?俺は拓男にいくつか服を貰っているが、残念ながらお前は俺の保護下にあるそうだ。拓男には用意してもらえないだろう。」
 俺の予備を着せるという手もあるが、そうするかどうかは目の前の少女もとい松江織本人が決める事だ。
 「……何言ってるの?僕は男だけど……。」
 え……?そうなの?
 確かに誰も性別については話してなかったけど、この見た目だったら女だと勘違いしても不思議では無いだろう。
 ……何はともあれ一瞬で衣服問題は解決した。それは喜ぶ事だ。
 「そうなのか、じゃあ問題は無いな。俺の予備を着ろ。」
 「……あ、うん。分かった。」
 松江はどこか不機嫌そうな顔をしてまたもや俺のベッドに寝転がった。
 それにしてもこいつが部屋に居るのは邪魔だ。しかし、全ての原因は勝手にアカウントを作った拓男だ。
 「……新しい部屋が必要だな……。」
 こうして俺は、拓男に松江用の部屋を要求しに行くのだった。

【6話に続く】

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