ギミックハウス~第495代目当主~

北きつね

第四話 城塞村?


「メイ。おはよう」

 狐人の姉妹は、引っ越しを終えて、魔王城の地下での生活をスタートさせた。
 姉であるメアは、ルブランの配下になっているが、他の者たちと同じで、モミジや四天王から、いろいろなことを教わりながら生活をしている。
 妹のメイは、カプレカ島にある学校で午前中を過ごして、午後は、学校の仲間と、魔王が定めた領域の外側に出来た城塞村で、ギルド員としてお手伝いをしている。子どもたちなりに、自分たちで出来ることを探しているのだ。過保護な魔王が、護衛役を付けているのは知られている。
 護衛役が居なくても、子どもたちは、モミジや四天王に鍛えられて、最低限の自衛は出来る状態になっている。そもそも、自衛が出来なければ、カプレカ島から外に出ることを許可されていない。

「お姉ちゃん。おはよう」

「ほら、顔を洗って、ご飯にしよう」

 メアには、生活費の代わりとして、ポイントが渡されている。面倒になった、魔王がセバスたちに丸投げした結果、丸投げされたセバスたちも、配下にした者たちに丸投げした。
 通貨として、帝国通貨を利用している。帝国の貨幣を使ったのには、理由はない。攻め込んできた者たちが大量に持っていた。そして、賠償金として金貨を大量に取得したのだ。

 メアたち、幹部になった元奴隷たちは、ポイントも渡されているが、金貨も渡されている。かなりの”ざる”状況だ。必要なら持っていけというスタンスになっている。

「うん!」

 メアたちの食事は、食堂で提供されている。
 食堂は、契約を結んだ元奴隷たちが運営している。食材の買い出しから調理まで担当をしている。この食堂は、お風呂の近くに作られた施設だ。魔王の契約者だけが使うことが許されている。

 メアとメイは、転移部屋を使って、食堂が作られている場所に移動する。

 転移部屋は、魔王が利便性を考えて作った部屋だ。
 各地に繋がる転移罠だけを設置している。4-5人が入られる部屋を並べているだけだが、意外と便利に使っている。特に、いろいろな場所に出向く必要がある。元奴隷たちには好評だ。

「おはよう」

「あっメアとメイ!今日は、パンとチーズがおすすめだよ。スープは、いつもどおり!」

「ありがとう。あと、メイにソーセージをお願い。私は、ベーコンを貰う」

「わかった」

 最初は、戸惑いもあったが、食堂での振る舞いにも慣れてきた。
 元奴隷や奴隷の家族たちは、皆が魔王との契約を望んだ。あまり、契約者が増えても、ポイントにはならないので、魔王は子どもたちと次に捕らえた200名弱の奴隷たちとその家族(関係者を含む)を契約者にするだけに留めた。

「お姉ちゃん。メイね。今日は、城塞村に行くの!」

「そう。ヒカと一緒?」

「うん!あとね。ドワーフのえぇーと。そう!ヒラガ様と一緒!」

「そう・・・。ヒラガ様が一緒だと、ギルドに行くの?」

「ううん。商人さんが持ってきた鉱石を受け取る!あと、帝国?で売られている防具を持ってきてくれる!」

「へぇ防具。確かに、ヒラガ様ならメイのサイズに加工してくれるね」

「うん。私とヒカでサイズを調整して、子供向けの防具を作ってくれる!」

 メイが話で上げた、ヒラガはドワーフのリーダーをやっている。
 防具を作るのが得意だ。武器が苦手ではない。防具を作るのが好きなので、防具専門のようになっているだけだ。メイやヒカの子供のそれも年少組の防具を作るのは、魔王からの指示だ。子供向けの防具がなかった。それでは、子供が狩りに行けないと考えて、ヒラガに命じたのだ。

 ヒラガも、子供が好きなので、二つ返事で受け入れた。

 ドワーフたちの作る武器や防具が、元奴隷たちに行き渡ると、余剰分をカプレカ島で売りに出した。ダンジョンにアタックしていたギルド会員たちの目に止まった。買い上げた、ギルド会員は探索者に転売した。これが、飛ぶように売れてしまって、問題になってしまった。
 ギルドから、魔王ルブランにお願いという形で、城塞村にカプレカ島で販売している武具や道具や食事を提供して欲しいと依頼があった。

 ルブランは、自分たち(モミジと四天王)の判断で、販売に踏み切った。増えてしまった、元奴隷たちの働く場所の確保という目的もあった。徐々に増えて、現在では100名ほどが城塞村で、武具やポーションや道具を販売している。食堂も近日中にオープンする予定だ。

「あっそう言えば。城塞村の食堂に出向するのですよね?」

「食堂だけは、ギルドが仕切るらしくて、私たちは、レシピを教えるだけだよ。だから、こっちのシフトを変えて対応する」

「え?レシピを教えちゃうの?」

「うん。モミジ様も、今、食堂で出している物は、カプレカ島か魔王城でしか作っていない加工品を多用しているから、レシピを広めても問題はないとおっしゃっていた」

「へぇー。知らなかった。言われてみると、ベーコンも美味しいから、いい肉を使っているのかと思ったけど、違うの?」

「うん。私は、よく知らないけど、加工組の子が、使っている肉は、普通に街で買える物よりも劣っているって言っていたよ」

 日本から取り寄せた本を、メアやヒカたちが翻訳している。ひらがなとカタカナは覚えたのだが、漢字の壁は高かった。スキルを併用することで、翻訳をスムーズにすすめている。
 メアにしてみたら、レシピは”魔王様”から頂いた物だ。”魔王様の知識を譲り渡すなんて・・・”と、いう感情が先に来てしまっているのだ。しかし、”魔王様の素晴らしさ”が伝わるのなら、そして、”魔王様の知識が必要な状況”になるのなら、いいのかもしれないと考えを変えた。
 メアだけでなく、元奴隷にしたら、”魔王様”は自分たちを救っただけではなく、自分たちを大切にしてくれている人なのだ。神に等しいとさえ思っている。

「へぇそれなら、加工品を売るの?」

「うん。それは、武器や防具を売っている店で売ることになったみたいだよ」

 これは、商人からの要望だ。
 レシピだけを渡された商人が、知らない加工品があり、知らない器具があり、レシピだけでは再現が難しいと考えて、ギルドを通して要望を上げてきた。魔王ルブランの返答は、城塞村での販売を許可する物だったが、ギルドに”知的財産の保護”を約束させた。商人たちも、賛同した。商人たちは利用料を支払うことに拒絶反応を示したが、魔王ルブランの武力の前に屈した形になった。また、一部では神聖国でしか精製されていない”砂糖”がより品質を向上させて、神聖国の5分の1程度の価格で提供させたことも影響している。
 他の食品や道具に関しては、格安で提供している。
 武器や防具やスキルを併用した道具は、割高になっているが、機能や性能を考えれば、十分に安い値段設定になっている。

 魔王ルブランからの布告で、商人の仕入れは認められないが、小口で購入した物を”転売”するのは認めた。ただし、転売先は”帝国”が認めた場所に限定された。領主のティモンと帝都の宰相が認めた土地での運用になった。

 帝国は、城塞村を使って、物資を”輸入”している。
 不均等が発生しそうだが、魔王ルブランは帝国に”奴隷の購入”を依頼した。城塞村で得た利益のほとんどが、奴隷の買付に利用された。

「お姉ちゃん!」

「あっごめん。私も、今日は、城塞村に行くから、メイと会うかもね」

「本当!」

「うん。ルブラン様からのご指示で、”店舗を見てくるよう”に、言われているの」

「へぇメアは、すごいね」

「え?」

「城塞村では、メアが魔王の側近だって噂になっているよ?」

「えぇぇぇ。違うよ。ルブラン様の・・・・。えぇぇぇ。辞めて欲しいな」

「ふふふ。でも、帝国やギルドの乱暴な人たちがおとなしいのも、狐人や兎人や猫人たちが、ルブラン様に徴用されているからだよ。だか、メアたちのおかげだね」

「ルブラン様たちのお役に立てたのなら嬉しいな」

 城塞村は、規模では”街”で間違いは無いが、元奴隷たちは、城塞村と呼んでいる。ルブランが”村”と呼んでいるからだ。帝国やギルドが訂正をしても、”村”と呼び続けるだろう。元奴隷たちは、魔王こそが絶対的な存在なのだ。自分たちの命を賭けて守るべき存在なのだ。

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