Fog HOTEL

二重丸 大牙

第六章 選択の時間 ~1~








 誰もが何も言えずに、重い沈黙が滞留していた。
この状況をどう理解していいのか、これからどうなるのかを思案していた時だった。
快が涙を右手で拭くと、何故か微笑みながら口を開いたのだ。



「優君の話は、ほぼ正解だけど・・・・
一つだけ違っていることがあるんだよ・・・」



その言葉に誰もが快の動向に集中した。
そして、優も自分の答えの間違いを知りたいと快を睨みつけていた。
そんな視線を知り、快は皆の方に顔を上げると



「ゲストが屋敷に来てから、優君の言った通りに人間に戻るために模索しながら
皆を操作していたけど、ゲストがここに来ることすら僕は知らなかったんだよ・・・・」



その言葉に恵吾は驚いた顔をした。



「えっ、どうい事や?快は裏切者ってことやけど・・・
でも、ゲストは勝手にここに来たってことか?」



誰も快の言葉を理解できずに困惑していた。
優の説明は筋が通っている。しかしゲストがここに来たのは誰もが偶然ではないと思っていた。
快の話は果たして本当なのだろうかと困惑しながらも、真実を知りたいと強く思い始めていたのだった。

そんな仲間を見つめながら、快は更に言葉を続けたのだ。



「優君の過去の話は確かに僕だよ・・・・
でも、ゲストが前の彼女の生まれ変わりと知ったのはロザリオを見た時なんだ・・・・
それまで、僕は本当に何も知らなかった・・・
ロザリオを見た瞬間、神がチャンスをくれたと思ったんだ・・・・」



誰もの頭の中で衝撃と動揺が走った。
快の話が本当であれば、この謎はどうなっているのか・・・
すると、歩夢は意識を失っているゲストを見つめながら



「じゃぁ、誰が彼女を・・・まさか、この屋敷に偶然に来たのか・・・・」



歩夢には悲しかった。
彼女の運命を自分たちのせいでこのようになってしまった事を・・・
どれだけ、自分たちは人間を不幸にするのだろ・・・・
神は自分たちをいたぶるのだろかと・・・・



「その話が本当やとすると、神の悪戯でゲストは来てしまったんかもな?」



零士は重くなっている空気を少しでも明るくしたく、茶化すように言った。
だが、誰も笑う事は出来なかった。
そして、優は快の言葉を聞いて更に考え込み始めていたのだった。
すると、光は意識を失っているゲストを覗き込みながら



「快のことは何となく分かった・・・
それより、先ずはゲストやろ?優、彼女は助からんのか?」



意識のないゲストは今では身体まで腐り始めていたのだ。この姿に吸血鬼である彼らも嫌悪する状態だった。
そんな彼女を優は見つめると、突如口の端を上げると不敵に言ったのだ。



「それは大丈夫や!俺が牙に細工して腐っただけやから、ずっと上手く隠れている犯人をあぶり出したくってな!」



優の言葉に誰もが驚いた顔をしたが、直ぐに怒りに変わったのだ。



「お前の秘密主義はどうにかしろよ!!!!!!!!
付き合う方は、どんな気持ちか考えろよ!!!!!!!!」



恵吾は怒りながら優に詰め寄って行った。



「いやいや、お客を腐らせてその笑顔は絶対に許せんわ!!!!!!!!」



青空は呆れていた。



「俺は監禁室に入れられて、ゲストは腐らせて、どう考えても俺より勝手やんけ!」



感情を露わに怒りだし、優に詰め寄る零士



「お願い、早く早く彼女を助けて、もう息も途切れ途切れだよ・・・」



怒っている仲間に助けを求める歩夢



「助ける方法はあるから優はやったと思うで?だから、安心しろよ」



光は笑いながら鼻を擦りながら優を信じ切っていた。
そんな光に答えるために、目の前で怒りを露わにしている仲間に優は冷たい口調で



「落ち着けって・・・・」




そう告げると自分のポケットから小瓶を取り出した。



「助かるなんて当たり前やろ?俺はゲストを殺す気はないからな!」



そう言うなり、ゲストに近寄ると優が傷をつけた部分に小瓶に入っていた水をかけた。
すると、傷口から大きな蒸気が発せられると同時に強烈な痛みが襲いゲストは大声をあげると目を覚ましたのだ。



そして、ゲストの周りを囲んでいる吸血鬼たちを見て焦りながら



「えっ、な・・・なに?」



ゲストが言葉を発した事で吸血鬼たちは安心した顔を見せると、今度は優が持っていた小瓶が気になったようで、青空が優に近づくと



「それ、なんやの?すごい特効薬やん!」



そう嬉しそうに言って、口の開いた小瓶を触った時だった。優が急いで青空から取り上げ、腕を上げて触らせないようにしながら



「触るな!これは、聖水やぞ!」



優の一言で周りが凍り付いたのだ。



「アホ!これが俺らに少しでもかかったら灰になるやろが!」



これには、普段はのんきな光も許せずに大声で怒鳴った。
そんな、光の横から零士が嬉しそうに顔を出しながら



「これで、分かったやろ?一番の悪者は、優君かもな?」



そう言いながら、日頃の恨みを晴らすかのようにニヤニヤしていた。
しかし、優は少しも動揺する事もなく



「俺らには毒でも、人間には消毒や・・・これでゲストも元通りやろ?」



その堂々とした態度と言葉に誰もが呆れていた。
優に何を言っても無駄だと悟ったからか、快はやっと立ち上がると



「僕は、どうなるの?裏切者の末路は・・・」



そう言って、仲間の顔一人一人をゆっくりと見つめた。
自分の生末は仲間が決めると理解していたからだ。
すると、優が快の前に立ちながら仲間の方に向くと



「さて、時は早いが3つの選択はどれにする?」



優の言葉で誰もが思い出したのだ。



1・ゲストを殺して吸血鬼のままでいる



 2・ゲストの血を飲み自分たちは人間に戻る



 3・吸血鬼の力を使ってゲストを仲間にする



誰もがその言葉が反芻していた。



「選択の時間切れか・・・決めるには早い時間やけどな・・・」



光は困ったように頭を掻きながら言った。



「えっ、今決めなアカンの?それ、ほんまに早くない?」



突然の展開に困る青空



「そんな急にはなぁ・・・・」



快の生末や仲間の事を考えると、ただただ困惑する恵吾



「申し訳ないが、俺には決められない・・・ただ、彼女をこのまま帰して欲しい、お願いします・・・」



歩夢はそう言うと仲間に頭を深々と下げて頼んだのだ。



私は、今までの様子を何も言わずに見守っていた。
口を挟めるはずもなかったのも事実だった。
だが、私の心の中には先ほどまで見ていた夢が引っ掛かっていた。
彼女の思い、寂しさ・・・・そして願い・・・
それが私の胸を熱くしていた・・・・



そんな事を考えている私の前に優がやって来ると。
私を冷たい瞳で見つめ、ゆっくりと胸のポケットから一つの箱を差し出してきたのだ。



「アンタにも選択の時間やで、この箱の中にはロザリオが入ってる・・・
それは、これで俺らを殺して逃げる事も可能や」



彼の言葉に私は生唾をゴクッと飲み込むと、彼の手から箱を受け取った。
優の言葉は更に続いた。



「そして、黙ってこのまま屋敷を後にする事もな・・・・」



それだけ言うと、私に背を向ける颯爽と歩き出すと、ソファーに腰掛け皆を意地悪気に見つめると



「さぁ、選択の時間や!」



そう大きな声で告げたのだった。









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