Fog HOTEL

二重丸 大牙

第五章 犯人 ~1~







 ロビー奥にある部屋では、猜疑心と不安が入り混じった重い空気と吸血鬼達の吐き出す感情で埋め尽くされていた。



「裏切者がいるって、どういう意味なの・・・・誰かが僕たちを騙していたってこと?」




快は、優が何故そんな事を言い出しの理解できず、不安に襲われていた。
これまで、どんな困難も支え合って来ていた仲間が疑う事が信じられなかったのだ。



「なぁ、何がどうなっているかちゃんと話してくれないと、もっと混乱してしまうで」



青空は焦り始めている仲間を心配し優に説明を求めた。
しかし、光はだけはこの状況すら楽しいのかニヤニヤしながら



「優には、全て分かっているんやと思うで・・・こいつはホンマに性格が悪いからなぁ・・・」



その言葉の意味を知り快と青空はため息をついたが、優は毅然と黙ったまま見つめていた。


自分の考えは正しが、それが今まで一緒に過ごしてきた仲間の未来を壊すことになるのかもしれないのだ。
自分の行動で、今までのように過ごしていけないのかもしれない
しかし、このままでは何も前には進めない・・・
時として、困難にぶち当たると分かっていても、その道に進むことでしか未来を手に出来ない時がある。
その先の未来は自分が想像しているより輝いていることもあるかも知れない・・・
それを信じるしかない・・・・
そう優は思うと、ゆっくりと口を開いた。



「今は待て、裏切者が自ら名乗り出る・・・・」



優はそれだけ告げると、口を閉じソファーに深く腰をかけた。
その姿を見ると、誰も何も言えなくなっていた。
しかし、今から起こる事に不安が大きくなっていたのだ。



そこへ突如扉が大きな音をたて、零士と恵吾が駆け込んできたのだ。



「ちょ、零士は監禁室やろ?」



光は二人を見て驚いたように言うと、恵吾は少し困ったように頭を掻きながら



「あんなぁ、突然、零士が変な事を言い出してさ・・・」



そう言いながら荒い息で呼吸を整えている零士を見た。
すると、光は鼻を擦りながら



「強烈な臭いがするなぁ・・・みんな覚悟した方がええかも、大きな嵐が来るで」



そう言うと苦笑いをしたのだ。



光の言葉を聞きながらも、零士は荒い呼吸を少しずつ整えながら話し始めたのだ。



「俺らは、最初は6人やったんや!でも、ここに来て7人になった!」




それは優の推測と合致したからか、零士の言葉に優の瞳が赤く怪しく光る。そんな優を見ながら零士は言葉を続けた。



「みんなは忘れているかも知れないが、一人増えてるんや!」



その言葉に光も快も青空も驚いていた。
零士が言っている意味が分からない。
そんな様子を見せていたが優が冷静な声で



「その増えた7人目が裏切者や・・・・」



そう言った優の声は冷たく部屋に響くと零士だけは強く頷いていて返事をしたが、恵吾は納得がいかない様子で



「俺には分からんねんけど、なんで零士だけ思い出したんや?
俺には、そんな記憶があるようなないような感じの霧がかかっているみたいやのに」



それだけ言うと、疲れた顔で首を振って分からないという様子を見せた。



「まぁ、俺にも嫌な臭いがあるけど、7人の記憶はない・・・・
人間の時の記憶なんてないしな・・・・」



光は相変わらず、この状況でも楽しさを感じているかのように嬉しそうに笑っていた。
すると、ソファーに座りながら考え込んでいた優が



「神であるゲストの血を歩夢が飲んで、それを零士が飲んだ・・・・
だから、零士に奇跡が起きているとしか考えられんな」



優の言葉に動揺が走った。




「やっぱり、あの女の血が原因なん・・・・」



青空はそう言うと驚きながら零士を見つめた。
零士も驚きながら自分の中に巡っている血の流れを感じ、体中を見つめていた。


そして、誰も今起こっている出来事を信じられずにいたのだ。













 ゲストは自分の意識が朦朧とする中で闘っていた。
優に噛まれた箇所からジワジワと腐っていき既に身体の右側は動かせなくなっていた。
強烈に発する痛みと混沌とする意識の中で歩夢に抱き上げらどこかに連れていかれていた。



「・・・・何故、腐っていくんだ・・・・俺たちが噛んだからといって
こんな事が起こるなんて・・・・何が起こっているのだ・・・・」



歩夢は、自分の腕の中で衰弱していくゲストを感じながら必死で走っていた。

ゲストは時々痛みに耐えられずに小さい声を漏らす。
それが歩夢の焦りを募らせるが、そんな歩夢を安心させようとゲストは微笑むのだ。



「・・・・ごめんなさい、大丈夫だから・・・・」



そう消えそうな声で言うゲストに歩夢はキッと唇を噛みしめると



「必ず助けるから、今度こそ・・・・」



そう、何度も呟くように言うと、硬く決心していた。
そんな歩夢の声を聞きながら、ゲストは激痛に耐えかね意識を失ってしまっていた。





歩夢は走り続け、皆がいるであろう奥のロビー奥の部屋へと向かっていた。
部屋の前に来ると、両手で彼女を抱えている為に扉を開くことが出来ず、扉に体当たりをして仲間に助けを求めたのだ。
そう、歩夢はそれだけゲストを助けるために焦っていたのだった。



部屋に居た恵吾はその音を聞いて驚いたように扉を開けると
今まで見た事のない歩夢の表情を見て更に驚いた。



「歩夢、どうしたんや!って、そのゲストは・・・・!」



恵吾は歩夢に抱かれているゲストの様子に気づいた。
しかし、恵吾の側にいた零士はバツが悪そうに顔を下に向けていた。
そんな中に青空が扉の方に近づきながら



「えっ、歩夢がゲストを喰ってもうたん?何があったんや?」



誰もが歩夢に抱かれているゲストが意識を失っていることに気が付いていた。
その事に悲しみ歩夢は悲しみを浮かべると




「殺したりしてない・・・・でも、腕が・・・・・また、俺のせいで死を迎える事になるなんて・・・・」




そう言う震える声をだしながら、ゲストの腕に傷をつけた優を見つめた。
その時だった・・・・・




『な、なんで・・・なんでこうなった・・・・
なぜ、神が腐ってきているの・・・・この呪いから解き放たれる時が
やっと来たのに・・・・・』



そうある者が呟くと、フラフラとしながら力なく膝を落としたのだ。
その言葉に誰もが驚き衝撃が走っていた。
その姿を見るなり



「裏切者はお前やったんか・・・」




そう優は寂しそうに告げたのだった。








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