お前らが憧れる催眠術の現実を教えてやる

有坂優音(アリサカユウト)

第1章 第5話 - 笑わせる!?

「さて……と、だいぶ時間が過ぎてしまったわね。今日は、あと一つやって終わりってところかしら。」

町田さんが、そっと教室内の時計に目をやると、4時半をとっくに超えていた。外の風景も薄暗く、月が薄っすらと見えている。

「最後は……一体何をするの?」
「そうね……相手を笑わせる催眠術……それで行こうかしら。」
「わ、笑わせる?」

そう、笑わせる。そう町田さんは呟くと、突如として空のペットボトルを取り出した。

「今から貴方には、このペットボトルを見るだけで、可笑しくてたまらないようになってもらうわ。」
「ペ、ペットボトルに!?」

そう、ペットボトルよ。町田さんは、ハッキリと伝えた。

「そのためにはもう一度、貴方の意識を落とす必要があるわ。大丈夫、さっきすんなりと行ったから、二度目以降はそう難しくないわ。」

町田さんは、もう一度私の肩を掴み、優しく体をゆらしていく。

「さあ、思い出して……。意識がゆーっくりと落ちていく……その感覚……。」

さっきのように、深呼吸をしていないにも関わらず、私の意識は容易く、少しずつ遠くなっていく。

「(う……この感覚……まだ何もしていないはず……な……に……。)」



またしても、真っ暗な闇の中。何も聞こえない、何も見えない、何も感じない、無の世界を、私はまたしても感じている。
そこに響き渡る、町田さんの声。

「(今から3つ数えると、貴方は目の前のペットボトルが、可笑しくて、可笑しくて、可笑しくてたまらなくなるわ……。)」
「(1つ……2つ……3……)」

「3つ」と言われる前に、私の意識は一気に光が差し込んだ気がした。



「……。」

私の目の前には、空のペットボトル。水すら入っていない、正真正銘の、空のペットボトル。

「……。」

それを見ても、私は何も感じなかった。ただそこに、何も入っていないペットボトルがあるだけ。
そうとしか、思えない。

「あら……おかしいわね。ペットボトルでは、本当は面白いとは思えなかったのかしら……。」

町田さんは、訝しげに首を捻って、一息つくと、すぐに私の肩を掴む。

「それなら……そうね、もう一度眠ってもらうわ。」

ゆさゆさと、心地よい揺れが伝わり、私の意識はまたしても途切れる。



「(城山さん、今度は違うものにするわ。よーく聞いて頂戴。)」
「(貴方は、私の顔を見ると……それが可笑しくてたまらなくなるわ。)」



「……。」
「……。」

目が覚めると、町田さんの顔が目の前にあった。さっきまで何度も見ていたはずの、町田さんの顔。

「……(クスッ)。」

ふと、町田さんがうっすらと笑った。ただそれだけだった。

「……ぷっ……ふふっ……あ、あはははははは!!」

私は、まるで何かが弾けたように、笑いが抑えられなくなった。お腹を抱えて、私はゲラゲラと笑い転げる。

「あははははははははは!!あはははははははは!!や、やめて!!お、おかし……!!あははははははははは!!」

歯止めが効かない位に、私は只々お腹を抱えて笑い転げる。町田さんの顔が可笑しくて可笑しくて、仕方ない。

「……今度は笑いすぎって位笑ってるわね。」

目の前の町田さんが、若干呆れ果てているけど、私はそんなのお構いなしに、笑いが全く止まらない。

「仕方ないわ。城山さん、止めるわよ。よーく聞いて。」

パンッ!!

町田さんが手拍子を1回打つと、私の笑いが少しずつ収まってくる。

「あーっ……あははは……あー、可笑しい……!あーっはははは……。」
「幾らなんでも笑いすぎよ……城山さんが適正あるとは言っても。」

笑いすぎて、お腹が痛かった。



「あはは、何かあれだけ笑ったのって久しぶりかもしれない。」
「そう……まあ、それだったら良かったのだけれど。あ、そうだわ。今日の催眠だけど、ちゃんと解くものはちゃんと解いたわ。だから帰り道で急に笑い転げるなんて無いから、安心して頂戴。」
「あ、うん。分かった。」
「それにしても、城山さんって本当に催眠術に対する適正が高いって分かったわ。これなら、今度は掛け手側になれる適性も高そうね。」
「え!?私がかける側!?」
「えぇ、かける側よ。それについては、また明日教えるわ。」

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品