伝説の男、黒崎天斗!

ノベルバユーザー550627

第3話

あれから俺は清水に何も言えないまま時間だけが過ぎた…ずっと清水のことばかり考えてきたが、いよいよ新学期がやって来てしまった。
学校の門の前まで来て

「ヨシ!今日から俺は普通の黒崎天斗だ!」

そう自分に言い聞かせ校内へ向かう。職員室の中をそーっと覗く。確か…あれが担任の田中先生だったか…俺は担任の所へ歩いていく。

「おぉ、おはよう黒崎。宜しくな!」

そう言って田中先生が握手してきた。

「宜しくお願いします」

俺もお辞儀をした。

「じゃあ、始業式終わってから教室入っくれ。その方がゆっくり紹介出来るしな。」

「はい」

俺は始業式が終わるまで職員室の客間のソファーに座って待っていた。
だったらこんなに早く来ること無かったのになぁ…
待つのは長い…待ちくたびれてウトウトしてしまう…回りがザワザワ騒がしくなり生徒達が教室に戻る気配がする。いよいよかぁ…なんか緊張するなぁ…担任の田中先生が

「ヨシ黒崎!行こうか!」

「はい」

担任と2年3組の教室に向かう。教室のドアを担任がガラガラと開け先に入って行った…

「えぇ、今日から新しいクラスメートが加わる。T高校から転校してきた…黒崎…天斗君だ」

担任が俺を手招きする。
俺はゆっくり教室に入り担任の横に立つ。

「自己紹介して」

担任が促す

「えぇと…黒崎天斗…よろしく…」

なんて無愛想な挨拶になっちまったんだ!
ほんとに俺はここぞというときダメな男だ…
その時全員がザワザワとざわついた…な…何だよ…この異様な空気…ま…まさかとは思うが…ここに来てまたあの本物ヤンキーと間違われるってやつか?何かみんな俺から目を反らしてるような…

「去年N県から転校してきた重森薫(しげもりかおり)君と同じ出身だ。同郷だから仲良くしてやってくれ」

そう担任が言った。
同郷?ってもしかして…清水の言ってた従姉妹ってあいつか?

「丁度重森君の隣の席が空いてるからそこに座れ」

そう言われて俺は重森という女子の隣の席に向かった。横を通ろうとする度にすれ違う奴等がビクッと避けていく…もしかして…俺を本物と勘違いしてるのか?こんなところまで伝説は広まってんのかよ…初日から先が思いやられる…俺は嘆いた…

「よろしく…」

隣の重森薫に挨拶したがこちらには目も合わせず黙って前を向いている。
何だよこの無愛想な態度は…って俺も人のこと言えないか…
後にこの女子こそが俺の運命を大きく変えることになる…

あれから数日…誰も俺に話しかけて来ない…
てか、みんな俺から目を反らす…俺は黄色い女子の声がキャーキャー聞こえてくることを期待をしていたが、理想と現実は全く違った…男子も女子も俺を敬遠してるかのような態度だ。
ある日俺は気付いた。重森がクラスメートの誰とも話をしたところを見たことがない。
みんな彼女がこのクラスに存在してないかのように無視している。俺は清水を思い出した。清水もほとんどのクラスメートから無視されていた…こいつらってそういう体質なのか?
そしてある時俺は目撃してしまった。重森が教室を歩いていると女子が一人重森に足をかけた。重森はつまずいて転びそうになったがそのまま何事も無かったかのように去っていく。ここでもイジメが…
俺はその日の授業が始まる前、まだ担任が教室に入ってくる前に教壇に立ち机を両手で思いっきりバァーン!と叩いた。両手がジンジンするのを必死に堪え

「俺は!イジメが大っ嫌いだ!弱いものイジメが大嫌いだ!」

思いっきり大声で言ってやった…全員がシーンと静まり返りビビってるように見えた。当然内心は俺もビビってる…それからみんな俺に気を遣って話しかけてくるようになった。凄くぎこちなく…
相変わらず重森はツンとした態度だが…だけど重森に対しての嫌がらせは完全に無くなった。俺の勇気ある行動は無駄じゃなかった。
新学期が始まってから一ヶ月もすると徐々にクラスのみんなとも打ち解けるようになっていた。相変わらず重森を除いては…
そして俺の相棒とも呼べるほど仲がよくなった小山内清(おさないきよし)、これがまためちゃくちゃ喧嘩なれしていて実質この学年の番長的存在だった。彼のお陰で一気に俺の仲間は増えた。仲間想いの人徳のある奴だ。
俺はいつも小山内とつるんで行動した。みんな俺が本物黒崎と思い込んでいるから俺にかなり気を遣ってる感じだが…
ある日…俺は小山内と二人きりで学校の屋上で校庭を眺めていた。

「あのさぁ…ちょっと相談したいことが…」

珍しく小山内が神妙な面持ちで切り出してきた。

「ん?どした?」

「俺さぁ…実はちょっと気になる娘がいるんだわ…」

「ほうほう」

「誰にも言ってないんだ」

「わかった、誰にも言わん」

「実は俺…重森…………」

えーーーーー!?重森~~~!?あの何考えてるか全く読めない重森~~~!?
小山内が凄い照れてる…よりによって重森かよぉ~~~

「マジか?」

「うん…」

「ど…どこがいいのさ?」

「ん?………何考えてるかわからん所…」

どういう趣味だよ!
多分、重森は清水の従姉妹なはず…そこをきっかけに切り出して話が出来ないわけではない…けど、やっぱりあの取っ付きにくい重森と話すのはなぁ…相談には乗ってやりたいとこだけど…

「黒崎さん何か話したことある?」

「いや…一度も返事されたことも目を合わせてもらったことすら…」

「そうか…どんな男がタイプなのかなぁ…」

うーん…普段何も喋らんし、誰とも仲良くする気もないみたいだし…得体の知れない女だからなぁ…

「黒崎さん…さりげなく聞いてみてくれよ…」

「そ…そりゃ無理な相談でしょう!目すら合わせてもくれないのに…でも、あぁいう大人しいタイプって意外にけっこう強い男に惹かれるんじゃないかな?」

「ちょっと俺に力貸してくれないか?」

「何すればいいのさ?」

小山内が俺にある作戦を打ち明けた。

数日後
重森はいつも一人で行動する。
俺は彼女をつけて行った。
一人きりになるところを声かけてみるからだ。重森は図書室に入っていった。重森が本を手にして席に座った。俺も隣に座って重森の顔を横から覗く。

「あの…」

重森は迷惑そうにこっちを見た。

「あの…ちょっと頼みがあるんだけど…」

重森はジーっとこっちを見て

「何?」

あからさまに迷惑と言わんばかりのオーラで返事した。

「あの申し訳無いんだけど今度ちょっと付き合ってくれないかな?」

「何で?」

マジでつんけんするよなぁ~この女…ほんと絡みずれぇ~

「あのさ…俺…好きな娘にプレゼント買いたいんだけど…女の子の好みってよくわからんくてさ…それでちょっと付き合って欲しいなぁ~って…」

重森はしばらく考えているのか沈黙している。

「いいよ、いつ?」

え!?マジで!?意外にこいつ良いやつだな。
思わぬ反応に拍子抜けしてしまった。

「じゃ、じゃあ…今度の日曜日とか空いてる?」

「いいよ、何時にする?」

「午前9時頃に○○○駅でどう?」

「わかった」

おぉ~ーー!重森のこと俺ちょっと思い違いしてたのかなぁ…
こんなに素直に頼み聞いてくれるなんて、イメージが完全に引っくり返ったわ。

「ありがとう!じゃあまたね」

そう言うと重森はすぐに本を開き読み始めた。さっそく俺は小山内の所に走って伝えに行く。
小山内、小山内、小山内…おっ…居た居た。
廊下で待っている。

「おぉーい!」

俺は興奮して息を切らして小山内の下へ駆け寄った。

「黒ちゃんどうだった?」

俺にヒミツを打ち明けた小山内はすっかり俺に心を開いてる。

「OKだったぞ!」

俺は興奮を隠せない。あの重森があんな反応するとは想像しなかったから。
そして小山内もまた目を見開き両手拳を胸の辺りに持ってきて天高く突き上げながら

「よっしゃあ~~~!」

大声で叫んだ。回りに居た生徒全員が一斉にこちらを振り返る。

小山内の作戦はこうだ。
まず俺と重森が待ち合わせ場所で合流する。
そして途中で小山内の仕掛けた不良グループと俺達が遭遇する。俺と重森が絡まれて困ってる所へ小山内がバタバタバタと不良グループをブッ倒す!
そして強さを見せつけた小山内に重森が憧れる。とこういう算段だ。いたってシンプルな作戦だが先ずは重森が強い男に興味があるか確かめる。

日曜日午前9時

俺は待ち合わせ場所に先に到着していた。
わりと栄えている駅前、しかし少し脇道に入れば割りと人通りが少ない路地に入る場所を予め確認していた。当然小山内もその人気の少ない路地のちょっとした空き地に隠れて待機している。
9時を少し回り重森が到着。女子なのにわりとボーイッシュな服装でこちらに向かって歩いてくる。

「おぉ、悪いなせっかくの休みなのに」

「別にいいよ」

相変わらず素っ気ない。俺達は歩きながら

「女子ってさぁ、何プレゼントしたら喜ぶかな?」

「うーん…どんなタイプの人?」

そう言えば重森って清水の従姉妹なんだよな?もし清水と繋がってるなら俺は清水に凄く酷い仕打ちをすることになるな…てか、もしかして俺が清水にプレゼント選ぶとか思ってんのかな?うーん…どうしよう…俺も変な安請け合いしちまったな…ここは適当にやり過ごしゃいいか…

「え~と…なんつーか色白でわりと可愛くておとなしくて陰でずっと密かに見てくれてる感じ…」

「ふーん…想われてんだ?」

「いや…ま、まぁ…多分想われてんのかな?」

「じゃあ何もらっても喜ぶんじゃない?」

「とりあえずデパートに付き合ってよ」

そう言って重森を誘導する。あれだけ無口で素っ気ないやつだったのにここに来て意外と普通に話してくれる…このよくわからんところが清水に似てるなぁ。不良グループと遭遇する予定の場所まで二人で歩く。予定では三人がそこで待っている。事前にルートを確認しリハーサルもして作戦は念入りに組んでいた。重森も素直に付いて来てくれてる。全ては予定通りだ。
そして細い路地に入った時、いかにもガラの悪そうな連中に出くわした。おっ…コイツらか…マジで悪人面!でも、予定人数よりも多いぞ…それに…待ち合わせの場所よりけっこう手前だ…予定変更なら前もって言っといてくれないとなぁ…俺は予定通り重森に

「ちょっとここは戻ろう」

そう言って振り返り来た道を戻ろうとした。重森は特に動揺するでもなく黙って俺に付いて来ようとする。
その時

「オイ!ちょっと待てや!」

不良集団6人に絡まれた。あっという間に囲まれて集団の一人が重森の腕を掴もうとする。

「なぁ、姉ちゃんちょっと俺達に付き合えよな?」

柄の悪い不良グループの一人が重森を強引に連れ込もうとする。
ヨシ!小山内来い!
予定ではここで小山内が割って入ってくるはずだが…不意にみぞおちに激痛が走る…は…話が…違う…俺は意識が遠退いていく…

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