真夏生まれの召使い少年
朝ごはん③
反省って言ってもなぁ。
いや、まあ、一応考えてみるけど・・・。
そもそも、カップラーメン自体が、朝ごはんには不向きな食品である。それを反省するとなると、僕の一連の行動が間違っていたということになってしまう。
あれが、ベストな判断だった。
カップラーメンを作るという以上に、とるべき行動は見つからなかった。
「えっと・・・・・口にお合いしませんでしたでしょうか?」
反省を促してくるということは、カップラーメンが嫌いだったのだろうかと考え、僕は質問した。
またしても、よく分からない敬語を口走ってしまった気がするけど。
「いえ、口に合わなかったわけではありません」
ゆっくりと、彼女は首を横に振る。
「しかし、そこの・・・それは」
と、空っぽになったカップラーメンの器を指差す。
「あまりにも、体の健康を害してしまうような気がしましたので・・・・・何というのですか?」
「・・・え?」
「そこのそれは、何という食物なのですか?」
「そりゃ・・・カップラーメンですけど」
「?・・・タップカーテン?」
「カップラーメンだってば・・・・・ですよ」
タップカーテンって、なんだそりゃ。
タップダンスを踊りながら、カーテンでも振り回すのか?
しかし・・・この少女の様子から察するに、本当に、カップラーメンのことは知らなかったようだ。
(そういえば・・・いまいち、会話が噛み合わなかったときがあったよな)
出前やカップラーメンのことを知らず、僕のことを当たり前のように召使い扱いし、習慣であるかのように朝ごはんを要求し・・・・・。
(・・・常識かのように、人を殺した)
このシイという少女は、どういう子なんだ?
僕の理解の及ばない、常軌を逸した子どもであることは分かる。一般常識の通じない相手であることは分かる。
(そんなの、何も分かっていないのとおんなじなんだけど・・・)
「ふむ。そのカップラーメンとやらを作ったのは、召使い、間違いなくあなたなのですよね?」
「あ、うん・・・そうですけど」
実際には、工場の従業員の方々だ。
僕は、お湯を注いだだけ。
「だとすれば、人工的な添加物を入れすぎですね。入っている具材も、人の手が加えられているようですし・・・・・」
「ちょ、ちょっと」
「味付けも、濃すぎる気がします。こんなものを食べ続けて、塩分過多にはならないのですか?」
「ちょっと待って・・・ください」
「何です?いちいち話の腰を折るのは無礼ですよ、召使い」
いや、そっちの常識がなさすぎるのだ。
そりゃ、話の腰も折りたくなる。
でも、そうか。カップラーメンを知らないということは、それが工場で作られる大量生産食品であるということも、この子は知らないということになるのか。
なんか・・・面倒くさい子だ。
「その・・・確かに、カップラーメンを作ったのは僕なんですけど・・・本当は、買ってきただけというか」
「・・・うん?」
「それ、お湯を注ぐだけで出来上がるようになっている食品なんです。買ってきてお湯を入れたら、後は待つだけ。みたいな」
「つまり・・・これは、緊急用の携帯食料ということですか?」
「いや、緊急用っていうか・・・」
ああ、もう!
通じないな、話が・・・・・別にカップラーメンは、そんな、緊急事態用の食べ物ではないんだけど。
「この家が、それほどまでに食糧難の状態にあるなど、思いもしませんでした。貴重な食料を、消費してしまいましたね」
「・・・・・」
僕の話を聞いていたのか、いなかったのか、そんな受け答えをする少女。
うん。
間違えてはいない。
僕たちの家が現在、食糧不足であることは間違いない。飲み物や調味料以外、食べ物が枯渇していることは、厳然たる事実なのだ。
戦時中でもないのに。
さっさと買い物にいきたい。
「では、買いに行きましょう」
「え」
「食料を調達しに行きましょうと、そう言ったのです。召使い」
僕の心でも読んだのか?いや・・・単に、「食料がないのならば買いに行こう」という、そういう発想か。
そのくらいの常識は、あるということなのか。
「私は買い物という行為をしたことがないので、その辺りの知識は、あなたに頼ることになりそうですが・・・よろしいですね?」
「は、はぁ・・・まあ、大丈夫、ですけど」
まさか、こんな展開になろうとは思いもしなかった。こんなにもあっさりと、「買い物に行く」という展開になろうとは。
(これはこれで、好都合・・・ってことになるのかな?)
この子が一緒とはいえ、ひとます、家の外には出ることができる。馬鹿正直に助けを呼ぶことは出来ないかもしれないが、それでも、この状況に対する何かしらの打開策には辿り着けるかもしれない。
・・・っていうか、買い物もしたことないのか、この子。
どれだけの温室育ちなんだ?王様の子どもか何かなのか?
「それで、買い物に必要なものはなんです?私が持っていくべきものがあるならば、教えなさい」
「えっと、じゃあ・・・・・ああ、いや、何も持って行かなくて大丈夫です。僕が全部、持って行くんで」
「ふむ、そうですか。では、二階から、リボンだけ持ってくるとしましょう」
「ええ。そうしてください」
わざわざリボンをつけていく理由も分からないけれど・・・まあ、この子なりのオシャレということなのかもしれない。
「その間にあなたも、準備を進めておきなさい。準備が終わったら、すぐに買い物にいきますよ。お兄さん」
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