真夏生まれの召使い少年
下校と小説①
「・・・疲れたな」
「ああ。くたくただよ」
「疲れた疲れた・・・・・校内清掃なんて、もう一生やりたくないぜ」
「残念ながら、これからの人生で百回以上は校内清掃を経験する機会があると、僕は推理するな」
「推理とか、大袈裟なこと言ってんじゃねぇよ。分かってるよ、んなもん。始業式には、またしても大規模な校内清掃があるしな」
「はあ。だりぃー・・・」と、顔をしかめるソウ。
下校時、帰り道を緩々と歩きながらの、ソウとの会話である。
校内清掃を終えた僕たちはその後、渋々ながらも、現在の夏休みの宿題の進捗状況を鯉川先生に報告した。単に口頭で報告するだけでなく、実際に課題を見せながら報告しなければならなかったという点が、特に厄介だった。
見せられるところなんて、何もないって。
見せるも何も、真っ白なんだから。
「課題ノートを見せながら報告とか、徹底してるよな。僕たちのことを、どれだけ不真面目だと思ってるんだろ?まったく、失礼なもんだよな」
「とびきり不真面目な奴が、今、俺の目の前にいるけどな。お前、鯉川の奴に相当怒られたんじゃないのか?」
「滅茶苦茶怒られたよ。『課題ノートに名前すら書いてない奴なんて、さすがにお前くらいだ!』って、よく分からない怒り方をされたな。むしろ、呆れられてたかもしれない。鯉川先生をあそこまで怒らせたのは、最近じゃ、僕くらいだろうな」
「なんの自慢にもなんねぇよ・・・」
「別に、自慢してるわけじゃないけどな・・・。ソウ、お前の方はどうだったんだよ?さぞ、ベタ褒めされたんだろうな」
「課題をこんなに早く終わらせたのは、お前くらいだ!偉いぞ!」、とか。
先生をあそこまで怒らせたのが僕だったのならば、先生を最も上機嫌にさせたのは、ソウなのかもしれない。
しかし。
「おいおい、ミリ。そんなわけねぇだろ。あのおカタい鯉川が、その程度のことで生徒を褒めるかよ」
「?・・・そうなのか?」
「俺の方も、そこそこ怒られたよ。お前ほどじゃないにせよ、な」
「はあ?」
課題をまったくやっていなかった僕が怒られるのは当然だとしても、課題を完璧にやっていったソウが怒られるのは、そりゃおかしな話だろう。なんだ?答えを丸写しにでもしていたのか?・・・・・いや、意外にも真面目なソウに限って、それはないだろう。
「なんだ?字が汚かったのか?お前の書く字、殴り書きにも程があるもんな」
「そうじゃねぇよ。俺の字は確かに汚いが、読めないほどじゃねぇ。・・・要するに、『やり過ぎ』って奴だ。課題をやり過ぎたんとさ、俺は」
「・・・それに、なんの問題があるんだよ」
「あいつの言い分じゃ、こんなに早く課題を終わらせちまったら、始業式の休み明けテストまで覚えてられないだろうって話だ」
「勝手な言い分だな」
「だよな。アホか、って感じ。覚えてられないも何も、そんなもん、テスト前に見返せばいいだけの話じゃねぇか。そんな言い方じゃ生徒がやる気なくすって、あいつ、分かってねぇのかな?」
「知識がきちんと身に付かない、とか言いたいんだろうさ、どうせ。バランス良く、ペース配分を考えてやれ、みたいな。どっちにしろ、勝手な理屈であることは、間違いないけどな」
「そう考えると、牧華クラス委員長様のやり方は、理想的なのかもな。ちょうど、半分終わらせてるっつーのは。バランスね・・・・・、俺には真似できねぇやり方だな。終わらせられるもんは、さっさと終わらせちまった方がいいんじゃねぇのかな?」
「まったくだな。同情するよ」
「サンキュ・・・・・いや、同情する前に課題をやれよ」
「バレたか」
まあ、それはソウの言う通りだ。そろそろ課題ノートの名前くらいは書かないと、本当に課題が終わらなくなる。帰ったらひとまず、課題ノートを机の上に置くことから始めてみよう。
とは言いつつ。
僕とソウは本日、まっすぐ家に帰るつもりはないのである。僕たちは町の少し外れたところにある、書店を目指していた。勉強に目覚めて、新たな参考書を買いに行こうとしている・・・わけでは、もちろんない。抱えている課題に加えて、さらに自主学習をしようなんていう心がけは、残念ながら僕の中にはなかった。
目的は単純で、今日がお気に入りの小説の、新刊の発売日だったからだ。僕の好きな作家が書いている小説の続編で、ずっと発売を待ちわびていた。下校するついでに、買っていってしまおうという話になったのだ。ちなみにソウの目的はといえば、小説の新刊を買いに行こうという理由ではない。僕は推理小説やらSF小説やらライトノベルやら、とにかく小説であれば様々なジャンルのものを読むけれど、ソウはほとんど小説を読まないらしい。こいつはマンガ派だ。故に、書店に赴く理由も、「気になっていた漫画を一気に買ってしまおう」というものだった。
漫画を大人買い。
買う冊数にもよるけれど、それって結構な金額になるんじゃないのか?
中二のくせに、贅沢な奴だ。
まとめ買いをするならば、古本屋の方がリーズナブルな価格で購入できるんじゃないかとも思うが、まあ、本は新しいに越したことはない。多少、値が張っても、紙資源の有効活用に貢献できなくとも、新品の本というのは、なんとなく気持ちがいい。おそらくはソウも、本は新品で買いたいタイプの人間なのだろう。
というわけで、書店に到着。
町の外れとはいっても、この町自体がそれほど大きくないので、歩いて三十分足らずで到着した。町で一番大きな本屋が町の外れにあるというのは、些か立地条件が悪いような気がするけれど・・・・・まあ、大きな本屋があるだけ、まだマシか。この本屋がなくなったら、僕はどうやって小説の新刊を手に入れればいいのだろうか?
ネット注文とか、かな?
まだ使ったことないけど。
「あ、しまった・・・」
「?・・・どうしたんだよ」
「漫画をまとめ買いするなら、町中の古本屋の方が良かったかもしれねぇな・・・」
「おい」
それ、言っちゃ駄目なやつ。
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