病名(びょうめい)とめろんぱん
病名とめろんぱん その9
連絡を受け、沖さん、僕、信条さん(「なんで私なんだよ・・・ったく、面倒くせえな・・・」)は、『シンデレラ教会』へと赴くことになった。
信条さんは、かなり嫌がっているようだ。いや・・・ただ単に、面倒くさいと思っているだけなんだろうけど。
そんなことを言ったら、僕にだって面倒くさいという気持ちはあるのだ。
お葬式とかは、身内だけでやってほしい。
ただ、あの人と直接対決した人間としては・・・まあ、行かないわけにもいかないのだろう。
あとは、『シンデレラ教会』のリーダーである機桐さんが、そう簡単に死ぬとも考えられないので、真相を確かめたいという興味もある。
あの人が、そう易々と殺されるのか?
娘の成長を誰よりも楽しみにしていた、あの人が?
一体、誰の手によって殺されたのだろう?
だが、それらを考慮したとしても、次の一言がなければ、僕は行かなかったかもしれない。
草羽さんの、あの一言がなければ。
「柳瀬さん。あなたには、必ず来ていただきたいのですが・・・よろしいですか?」
「え?えっと・・・」
「よろしいですね?」
有無を言わせない彼の口調に、僕は、「は・・・はい」と答えるしかなかった。
あの礼儀正しそうな草羽さんに、そこまで言わしめるとは・・・一体、何があったというのだろう?「よろしくないです」と、言える雰囲気ではなかった。
・・・仕方ない。
行くしかないか。
そんなわけで僕は渋々、出発の準備を始めるのだった。
「あのー・・・柳瀬さん。ちょっといいですか?」
「ん?・・・なんだい?」
出発準備を急ぐ僕の背中に、声をかける人物がいた。
炉端さんだ。
炉端丈二さん。
男らしい名前ではあるが、彼女は正真正銘、女性である。
女子高生である。
いや、高校には通っていないだろうから、女子高生ではなく、制服を着た女性、ということになるのだろうか。
露骨に言ってしまえば、コスプレである。
・・・そういえば、彼女はいつでも制服を着ているような気がする。あまり、他の服を着ているところを見たことがないのだ。
しかも、毎回違うデザインの制服である。
どれだけ制服を持っているのだろう?この子は。
「ごめん、炉端さん。僕、今から外出しなくちゃいけなくてさ。あんまり、長い話はしてられないんだけど・・・」
「『シンデレラ教会』へ、行くんですよね?」
どうやらすでに、炉端さんは知っているようだ。
情報収集は得意分野、だったっけ。
「それも信条さんと一緒に、でしょう?いいなぁ・・・」
いいなぁって・・・。
ああ、そういえばこの子は、信条さんに憧れているんだった・・・。
「じゃあ、代わるかい?本当は、行きたくないんだよね・・・」
「そういうわけにもいきませんよ・・・というか、相当行きたくないんですね。少し、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・だとは思うよ。多分」
さっさと帰ってこよう。
なるべく早く。
とにかく早く。
「でも、それならやっぱり、これは伝えておいた方がいいと思います」
と、真剣な顔で頷く炉端さん。
うん?
機桐さんが殺されたことと、何か関係のある話題なのか?
「『シンデレラ教会』の殺人事件と、直接関係のあることではないかもしれないんですが・・・。柳瀬さん。沖さんから、粒槍伝治のことは聞きましたか?『白縫グループ』のことを」
「うん。それは聞いたよ。『白羽病院』の患者・・・・・じゃなくて、職員だとかなんとか・・・」
「そうです。それに関係した話なんですが、『白縫病院』から、脱走者が出たそうなんです」
「脱走者・・・?」
それは、どういうことなのだろう?
脱走者って?
「病院から抜け出した患者がいた、みたいな意味かい?」
「まあ・・・そうですね。その解釈で、良いと思います」
秘密組織からの脱走者か。それも、『病持ち』に関わる組織からの脱走者。
あんまり、穏やかな感じはしないな。
「これが、伝えておきたいことの一つ目なんですが」
「一つ目?」
「はい。二つ目があります」
と、彼女は指を立てる。
ピースの形である。
「二つ目。実は最近、変な犯罪者が出てきているという情報を耳にしたんです」
「犯罪者は大概、変な奴じゃないのかい・・・?」
まともな性格をした犯罪者なんて、いないだろう。
犯罪を起こしているだけで、異常者である。
「中でも変、ということです。なにせ、その犯罪者は、『柳瀬優』を名乗っているそうですから」
「・・・・・は?」
それは、確かに変だ。
だって、僕はここにいるのだから・・・同姓同名の犯罪者、ということはないだろう。
「一応聞いておきますけど柳瀬さん、最近、犯罪とか起こしてます?」
「起こしてないよ・・・」
「最近、何してる?」みたいなノリで聞かれても。
「いえ、分かってはいるんですけど・・・。一応、です。どうやらその犯罪者は、柳瀬さんが関わってきた事件と、関係のある事件を起こしているみたいなんです」
「僕が関わってきた事件・・・というと?」
「たとえば、マンションへの放火。それに、少女の誘拐。どちらの事件でも、犯人は『柳瀬優』を名乗っていたことから、同一犯の可能性が高いです」
・・・・・確かに、僕に関係のある事件だ。僕が住んでいたマンションは火事になったし、少女の誘拐は、莉々ちゃんの誘拐との関係性を匂わせている。
だけど、なぜそんなことを?
僕の名前を名乗りながら犯罪って。
嫌がらせにも、程があるだろう?
「犯人の目的は、よく分かりません。罪をなすりつけたいのかもしれないし、そうでないのかもしれません。ただ・・・・・他にも、奇妙な点があるんです」
「他にも?僕の名前を使っていること以外にも、かい?」
それだけでも奇妙だというのに、他にも何かあるというのか?
「ええ。というのも、両方の事件で、被害者は全く出ていないんです。放火は小規模なものでしたし、誘拐された少女も、無傷な状態で発見されたそうです。さっぱり、犯罪の意図が分からない」
「うーん・・・・・ただ単に、犯罪を起こしてみたかっただけ、とか?」
「愉快犯、ですか。それだけならいいんですが・・・」
それだけ、ということは、まあ、ないのだろうな。と、僕は思う。
愉快犯の犯行に、僕の名前を使わないでほしい。
ぜひぜひ、やめていただきたい。
「それで、ここからが一番の問題なんですが・・・」
「まだあるのかい?問題が?」
少し、げんなりしてしまう。
ここまででも、かなりの問題だと思うのだが。
「一つ目の、『白縫病院』の脱走者。二つ目の、『柳瀬優』を名乗る犯罪者。そして、『シンデレラ教会』のリーダー、機桐孜々を殺した者」
それらが全て。
同一人物である、ということなんです。
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