勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る
123話 すでにあるものを利用するより更地から始めたほうが早いこともあるよね回
「勢いでいけるかなと思ったのよね」
なんでまだ本格的に『魔王領への侵攻』が始まっていないうちから戦後のことについて話し合う必要ができているのかといえば、『思ったより勢いがなかった』というのがもっとも端的な説明になるだろう。
現在、人類の国家元首はリッチである。
リッチというのは死霊術の使い手であり、死した女王ランツァをアンデッドにして操り、逆らう者すべからく殺すべしという恐怖政治による独裁を布いている支配者だ(ここまですべて間違い)。
女王ランツァはアンデッドとなっており(※注1)、リッチに生命線を握られ(※注2)、その傀儡となっている。
※注1 死霊術でアンデッドにはなりません。
※注2 リッチは視界に入れただけで相手を殺せるので全人類が生命線を握られています。
リッチの権力はかように強く、その号令に逆らうことはすなわち『死』であり、下手をするとアンデッドにされて傀儡にされる(※されない)と思われている。
それゆえ、リッチの名前で『魔王領に大攻勢をかける』と述べれば、それに逆らう者は無視できる程度の数しか存在しないだろう、と思われたのだ。
ところがそうもいかなかった。
ここに来て急に現れたのは『リッチの傀儡と化した女王を解放し、国家を人類の手に取り戻そう』という勢力である。
せめて魔王を倒すまで黙ってろと言いたいところではあったが、どうにもこの勢力は『人類の手で魔王を倒すこと』を至上理念においているようで、大攻勢を邪魔してその旗頭を人類にしないことには気が済まないようなのだった。
ちなみに彼らの述べる『女王ランツァの解放』は『死ね』という意味である。
この勢力がどうして生まれたかというと、ロザリー殴り隊 (※注3)、新聖女親衛隊(※注4)などの『時代の流れの中で生まれたがなんやかんやで活動目的を見失って宙に浮いていた人たち』が、新しい目標を見つけて集まってしまったせいなのだった。
※注3 以前レイラが担ぎ上げられて出来上がった勢力の残党。全員リッチに殺されて『肉体』に保存されたが、いらないので元の体に戻されていた。
※ 注4 かわいい女の子が歌ったり踊ったりするのを熱く応援していたロリコンの群れ。主にフレッシュゴーレム戦役の時に活動していた。
この人たちは活動時のトップがころころ方針転換をしたり行方不明になったりしたせいで自然消滅気味にはなったが、そのせいで消化不良であり、行き場のないエネルギーを持て余していた。
そのエネルギーの次なる発散先として『国家を人類の手に取り戻す』という目標を見つけてしまい、そのありあまるエネルギーで『魔族殲滅大号令』に反発している、というわけであった。
「っていうかまあ、十中八九、魔王の仕込みなのよね……」
存在アピールのタイミングなどがうますぎる。
完全に『魔王軍への本格侵攻を邪魔しよう』という意図を持った何者かが扇動していると見て間違いなく、そんなことをしそうで、なおかつできそうなのは、魔王以外にいない。
だから、王城内、謁見の間━━
ここに集った女王ランツァ、死霊術師クリムゾン (クリムゾンではない)、リッチ、聖女ロザリーの四名で話し合っている『誰が魔王を倒したことにしようか』という議題は……
「『ロザリー殴り隊』、『新聖女親衛隊』、『偽死霊術崇拝派』、『とにかく革命したい人たち』……この国の次の国家元首はどの勢力に任せるのがいいかしら」
ランツァは問いかける。
それは魔王を倒したあとに自分は玉座を降りるという宣言であり、言うまでもなく戦後の革命容認を意味していた。
そしてランツァの問いかけはようするに『誰が対魔王軍大侵攻の軍団長をつとめるべきか?』ということでもあった。
なぜなら『魔王を倒すなら人類であるべきだ』という主張でまとまっているさまざまな勢力は、魔王戦のあとでバラバラになり対立するのが目に見えている。
そうして対立したあとにもっとも強い発言力を持つのは、『対魔王』の戦いにおいてもっとも武功を挙げた勢力に違いないのだ。
だからこの質問は『どの勢力の者をこれから始まる大攻勢の名目上の代表者にしようか?』というものでもあるのだが……
しかし集めた人たちの人選を間違えていて、場の誰もがそういった政治的方針について『ここで意見を出すのは自分の役割ではない』みたいな顔をして静かにしていた。
ランツァはクマの濃い目もとをヒクつかせてから、言い方を変える。
「これまで出てきた大小さまざまな勢力で、一番嫌いなのはどれ?」
「偽死霊術崇拝派は滅びるべきだね! 学ぼうという意思もないくせに都合よく死霊術の看板だけ利用しようとするあの連中は、絶対に滅ぼすべきだよ!」
リッチが勢いよく言った。
クリムゾンもそうだそうだとうなずいています。
すると二人の意見を聞いたロザリーがため息をつき、
「やはり叩き直すべきは『新聖女』の派閥でしょう。あれは聖女ではありませんでした。間違った教えがはびこる原因になりうる……取り除くべきです」
ここの人たちは基本的に『勘違い』と『解釈違い』に厳しいので、まあ予想できた意見ではあった。
「じゃあ次の政権は『ロザリー殴り隊』にとらせましょう。規模も思想の過激さもちょうどいいし」
『政権』とかいう言葉が出るとみんな一様に押し黙るのだった。
ランツァは一応、ロザリーへ問いかける。
「ロザリーはそれでいい?」
「神はあなたの行いを見守っていらっしゃいます」
紫の瞳を持つ美しい聖女は、にっこりと目を細め、顔の前で手をこまねいてしとやかに祈るような所作をした。
動作、立ち姿、顔立ち……なにもかもが美しい。
紫色の髪からは燐光が舞うかのようでさえあった。
なにも知らない者が見れば息を呑むほどの聖性を感じさせる様子であったが、ここにいる全員は神を持ち出す時のロザリーがただ単に『考えるのが面倒なので、自分が気に障らないようにうまくやっておいて』という意味で発言しているのを知っているから、みんなで無視した。
ランツァは玉座の肘掛けに尻を乗せつつ、
「は〜〜〜〜………………ほんと、このタイミングで軍の再編とかね! 死ぬわよ、わたし! 事務作業で!」
「そもそも首脳のランツァが一人で全部やってるのがおかしいんじゃないかな」
かつて死霊術研究一人で全部やってたリッチが眼窩をランツァの背中に向けつつ言う。
ランツァは跳ねるように玉座の肘掛けから立ち上がって、そのまま二回転半してリッチの方へ向き直ると、バン! と肘掛けを叩いて、
「かかわる人を増やしたら! 漏れるでしょ! 計画が! 魔王に!」
「漏れてるから現状のようになってるのでは?」
「それは本当にそう! ねぇどうして? ここまで細心の注意を払って進めた計画をどうしてこんないいタイミングで邪魔できるの? 内通者でもいるの!?」
「なんか、ごめんね」
ランツァが疲労からくる妙に高いテンションからのブチ切れをしているので、リッチはみじんも自分が悪いとは思っていないがとにかく謝った。
コミュニケーション能力が育ってきているので、人と人との関係性は『謝罪』と『お礼』によって成り立っていることをなんとなく察し始めたリッチである。謝罪することにためらいはないし、誠意もない。
「というかランツァ、魔王は基本的に不定形の生き物じゃないか。あの人族形態で安定しているだけで、本来の姿は手のひらにひとすくいの黒いなにかだっていう話だろう? っていうことはさ、壁のスキマとかにひそんでる可能性があるのでは?」
「そういう見解は早めに言ってよ!」
「ごめん」
「エルフ! エルフー! ちょっと城内を洗い直して! 掃除的な意味で!」
呼びかけると玉座の裏にいたエルフがスッと顔だけ出してうなずき、そしてまた玉座の裏に戻った。
エルフ同士は独自ネットワークで情報のやりとりができるため、このエルフ一人に言うとすべてのエルフに伝わるのだ。
今ごろ城内大掃除作戦が始まっていることだろう。
「あの〜」
と、ここで口を開いたのは、リッチの発言にうなずくしかしていなかったクリムゾンである。
ヨレヨレの白衣を着てそのポケットをパンパンにした赤髪の獣人少女は、猫背気味の姿勢のまま力なく片手を挙げた。
「なに!」
ランツァはリッチとの言い争いの勢いのまま水を向ける。
クリムゾンはちょっとだけムッとしたが、すぐにため息をついて感情を無にして、
「ランツァは女王をやめるの? そのあとどうするの?」
「女王でも始めるわ」
「わかりやすく言ってよ」
「魔王領が空くでしょ。そこで国を興すの。っていうかね! この国! 作り替えにくすぎるから! もう最初から始めるわ! 本来は歴史の中で生まれた思想とか勢力とかを受け入れつつ大過なく次代につないでいくのが王族かもしれないけど! いい土地と扱いやすそうな民がまるまる手に入るチャンスがあるのにやってらんないわよ!」
それは少女の癇癪のようにも思える発言だったが、たしかにこの国は内乱やら革命やらが起こりすぎだし、人々の思想が自由すぎだし、少ない割合で行動力のある人もいるし、乗りこなしにくい。
その乗りこなしにくい国でかつてお飾りの少女王をやらされ、また戻ってきて腐敗を洗い流し、一人で軍事計画から政治計画まで立て、さまざまの演出を交えながら民衆の思考誘導やらもがんばったが……
「ほんとね! 人は信じたいものしか信じないのよ! 理屈じゃないわ、人! だからね、無理! 王、やめます。やめた!」
という感じでそろそろストレスが限界なので、人のいない土地でゆっくり静養するのは確かに必要そうではあったし、このあと魔王領が人のいない土地になるのでちょうどよかった。
必要なら蘇生させればいいし、人。
「わたし、無人の荒野で王になります。学園王国にします。人に学びと理性を与えます。そうしましょう。そうすべきです。はい」
「はい」
ランツァからわけのわからない迫力が出ているので、クリムゾンはうなずくしかなかった。
そういうわけで、『参加者から抽選で国家プレゼント企画』はこうしてだいたいまとまり……
軍の再編をして、いよいよ魔王領へと侵攻することになる。
なんでまだ本格的に『魔王領への侵攻』が始まっていないうちから戦後のことについて話し合う必要ができているのかといえば、『思ったより勢いがなかった』というのがもっとも端的な説明になるだろう。
現在、人類の国家元首はリッチである。
リッチというのは死霊術の使い手であり、死した女王ランツァをアンデッドにして操り、逆らう者すべからく殺すべしという恐怖政治による独裁を布いている支配者だ(ここまですべて間違い)。
女王ランツァはアンデッドとなっており(※注1)、リッチに生命線を握られ(※注2)、その傀儡となっている。
※注1 死霊術でアンデッドにはなりません。
※注2 リッチは視界に入れただけで相手を殺せるので全人類が生命線を握られています。
リッチの権力はかように強く、その号令に逆らうことはすなわち『死』であり、下手をするとアンデッドにされて傀儡にされる(※されない)と思われている。
それゆえ、リッチの名前で『魔王領に大攻勢をかける』と述べれば、それに逆らう者は無視できる程度の数しか存在しないだろう、と思われたのだ。
ところがそうもいかなかった。
ここに来て急に現れたのは『リッチの傀儡と化した女王を解放し、国家を人類の手に取り戻そう』という勢力である。
せめて魔王を倒すまで黙ってろと言いたいところではあったが、どうにもこの勢力は『人類の手で魔王を倒すこと』を至上理念においているようで、大攻勢を邪魔してその旗頭を人類にしないことには気が済まないようなのだった。
ちなみに彼らの述べる『女王ランツァの解放』は『死ね』という意味である。
この勢力がどうして生まれたかというと、ロザリー殴り隊 (※注3)、新聖女親衛隊(※注4)などの『時代の流れの中で生まれたがなんやかんやで活動目的を見失って宙に浮いていた人たち』が、新しい目標を見つけて集まってしまったせいなのだった。
※注3 以前レイラが担ぎ上げられて出来上がった勢力の残党。全員リッチに殺されて『肉体』に保存されたが、いらないので元の体に戻されていた。
※ 注4 かわいい女の子が歌ったり踊ったりするのを熱く応援していたロリコンの群れ。主にフレッシュゴーレム戦役の時に活動していた。
この人たちは活動時のトップがころころ方針転換をしたり行方不明になったりしたせいで自然消滅気味にはなったが、そのせいで消化不良であり、行き場のないエネルギーを持て余していた。
そのエネルギーの次なる発散先として『国家を人類の手に取り戻す』という目標を見つけてしまい、そのありあまるエネルギーで『魔族殲滅大号令』に反発している、というわけであった。
「っていうかまあ、十中八九、魔王の仕込みなのよね……」
存在アピールのタイミングなどがうますぎる。
完全に『魔王軍への本格侵攻を邪魔しよう』という意図を持った何者かが扇動していると見て間違いなく、そんなことをしそうで、なおかつできそうなのは、魔王以外にいない。
だから、王城内、謁見の間━━
ここに集った女王ランツァ、死霊術師クリムゾン (クリムゾンではない)、リッチ、聖女ロザリーの四名で話し合っている『誰が魔王を倒したことにしようか』という議題は……
「『ロザリー殴り隊』、『新聖女親衛隊』、『偽死霊術崇拝派』、『とにかく革命したい人たち』……この国の次の国家元首はどの勢力に任せるのがいいかしら」
ランツァは問いかける。
それは魔王を倒したあとに自分は玉座を降りるという宣言であり、言うまでもなく戦後の革命容認を意味していた。
そしてランツァの問いかけはようするに『誰が対魔王軍大侵攻の軍団長をつとめるべきか?』ということでもあった。
なぜなら『魔王を倒すなら人類であるべきだ』という主張でまとまっているさまざまな勢力は、魔王戦のあとでバラバラになり対立するのが目に見えている。
そうして対立したあとにもっとも強い発言力を持つのは、『対魔王』の戦いにおいてもっとも武功を挙げた勢力に違いないのだ。
だからこの質問は『どの勢力の者をこれから始まる大攻勢の名目上の代表者にしようか?』というものでもあるのだが……
しかし集めた人たちの人選を間違えていて、場の誰もがそういった政治的方針について『ここで意見を出すのは自分の役割ではない』みたいな顔をして静かにしていた。
ランツァはクマの濃い目もとをヒクつかせてから、言い方を変える。
「これまで出てきた大小さまざまな勢力で、一番嫌いなのはどれ?」
「偽死霊術崇拝派は滅びるべきだね! 学ぼうという意思もないくせに都合よく死霊術の看板だけ利用しようとするあの連中は、絶対に滅ぼすべきだよ!」
リッチが勢いよく言った。
クリムゾンもそうだそうだとうなずいています。
すると二人の意見を聞いたロザリーがため息をつき、
「やはり叩き直すべきは『新聖女』の派閥でしょう。あれは聖女ではありませんでした。間違った教えがはびこる原因になりうる……取り除くべきです」
ここの人たちは基本的に『勘違い』と『解釈違い』に厳しいので、まあ予想できた意見ではあった。
「じゃあ次の政権は『ロザリー殴り隊』にとらせましょう。規模も思想の過激さもちょうどいいし」
『政権』とかいう言葉が出るとみんな一様に押し黙るのだった。
ランツァは一応、ロザリーへ問いかける。
「ロザリーはそれでいい?」
「神はあなたの行いを見守っていらっしゃいます」
紫の瞳を持つ美しい聖女は、にっこりと目を細め、顔の前で手をこまねいてしとやかに祈るような所作をした。
動作、立ち姿、顔立ち……なにもかもが美しい。
紫色の髪からは燐光が舞うかのようでさえあった。
なにも知らない者が見れば息を呑むほどの聖性を感じさせる様子であったが、ここにいる全員は神を持ち出す時のロザリーがただ単に『考えるのが面倒なので、自分が気に障らないようにうまくやっておいて』という意味で発言しているのを知っているから、みんなで無視した。
ランツァは玉座の肘掛けに尻を乗せつつ、
「は〜〜〜〜………………ほんと、このタイミングで軍の再編とかね! 死ぬわよ、わたし! 事務作業で!」
「そもそも首脳のランツァが一人で全部やってるのがおかしいんじゃないかな」
かつて死霊術研究一人で全部やってたリッチが眼窩をランツァの背中に向けつつ言う。
ランツァは跳ねるように玉座の肘掛けから立ち上がって、そのまま二回転半してリッチの方へ向き直ると、バン! と肘掛けを叩いて、
「かかわる人を増やしたら! 漏れるでしょ! 計画が! 魔王に!」
「漏れてるから現状のようになってるのでは?」
「それは本当にそう! ねぇどうして? ここまで細心の注意を払って進めた計画をどうしてこんないいタイミングで邪魔できるの? 内通者でもいるの!?」
「なんか、ごめんね」
ランツァが疲労からくる妙に高いテンションからのブチ切れをしているので、リッチはみじんも自分が悪いとは思っていないがとにかく謝った。
コミュニケーション能力が育ってきているので、人と人との関係性は『謝罪』と『お礼』によって成り立っていることをなんとなく察し始めたリッチである。謝罪することにためらいはないし、誠意もない。
「というかランツァ、魔王は基本的に不定形の生き物じゃないか。あの人族形態で安定しているだけで、本来の姿は手のひらにひとすくいの黒いなにかだっていう話だろう? っていうことはさ、壁のスキマとかにひそんでる可能性があるのでは?」
「そういう見解は早めに言ってよ!」
「ごめん」
「エルフ! エルフー! ちょっと城内を洗い直して! 掃除的な意味で!」
呼びかけると玉座の裏にいたエルフがスッと顔だけ出してうなずき、そしてまた玉座の裏に戻った。
エルフ同士は独自ネットワークで情報のやりとりができるため、このエルフ一人に言うとすべてのエルフに伝わるのだ。
今ごろ城内大掃除作戦が始まっていることだろう。
「あの〜」
と、ここで口を開いたのは、リッチの発言にうなずくしかしていなかったクリムゾンである。
ヨレヨレの白衣を着てそのポケットをパンパンにした赤髪の獣人少女は、猫背気味の姿勢のまま力なく片手を挙げた。
「なに!」
ランツァはリッチとの言い争いの勢いのまま水を向ける。
クリムゾンはちょっとだけムッとしたが、すぐにため息をついて感情を無にして、
「ランツァは女王をやめるの? そのあとどうするの?」
「女王でも始めるわ」
「わかりやすく言ってよ」
「魔王領が空くでしょ。そこで国を興すの。っていうかね! この国! 作り替えにくすぎるから! もう最初から始めるわ! 本来は歴史の中で生まれた思想とか勢力とかを受け入れつつ大過なく次代につないでいくのが王族かもしれないけど! いい土地と扱いやすそうな民がまるまる手に入るチャンスがあるのにやってらんないわよ!」
それは少女の癇癪のようにも思える発言だったが、たしかにこの国は内乱やら革命やらが起こりすぎだし、人々の思想が自由すぎだし、少ない割合で行動力のある人もいるし、乗りこなしにくい。
その乗りこなしにくい国でかつてお飾りの少女王をやらされ、また戻ってきて腐敗を洗い流し、一人で軍事計画から政治計画まで立て、さまざまの演出を交えながら民衆の思考誘導やらもがんばったが……
「ほんとね! 人は信じたいものしか信じないのよ! 理屈じゃないわ、人! だからね、無理! 王、やめます。やめた!」
という感じでそろそろストレスが限界なので、人のいない土地でゆっくり静養するのは確かに必要そうではあったし、このあと魔王領が人のいない土地になるのでちょうどよかった。
必要なら蘇生させればいいし、人。
「わたし、無人の荒野で王になります。学園王国にします。人に学びと理性を与えます。そうしましょう。そうすべきです。はい」
「はい」
ランツァからわけのわからない迫力が出ているので、クリムゾンはうなずくしかなかった。
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