勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る
75話 能力の活かし方は人それぞれでその時代に合わない活かし方の能力は扱いが難しいよね回
のちに『勇者パーティー』と呼ばれる四人も、最初は『義勇兵』だった。
魔族との戦いが煮詰まり切っていた人族軍は慢性的な人手不足であり、これを解決するための義勇兵は常に募集されていた。
のちに勇者と呼ばれることになる男は、そこから始めたのだ。
また、魔族・魔物と呼ばれる者の人類領土内の拠点……いわゆる『ダンジョン』つぶしや、魔王と呼応していない、人類領土にもともと住んでいた魔物たちの巣をつぶすなどの役割も義勇兵の役割だ。
主に前線で戦う者を『義勇兵』と呼ぶ都合上、特に内地での戦争事業に従事するフリーランスのことは『冒険者』などと分けて呼ぶことが多い。
では正規兵はなんなのかと言えば、これは『金を払ってでも軍事教育を受けたい者たち』であり、その多くは士官候補生ということになる。
士官候補生のなにがすごいかといえばそれは上司からのパワハラであったり、残業代の出ない時間外労働であったりする。
そういったストレスを超え、なおかつ生き残り、さらに上官からの覚えがいい者が士官にまで上り詰めることができた。
それ以外のメリットは武装品の支給だ。
民間品よりちょっとだけ質がよく、あと、実家が田舎だったりすると『戦争で活躍したんだよ』とただ言っても信じてもらえないので、支給品の装備に勲章なんかを身につけるとお年寄りにも活躍の理解がしやすいとういう利点もある。
しかし、勇者はこの『理解のない親類にちょっと自慢しやすい』昇進ルートを選ばなかったようだった。
「俺たちは上まで行ける。より多くの人を救うことができるんだ」
それは神官向けの言葉であり、『多くの人を救う』などと言われても、死霊術師的には全然興味がなかった。
もともと人命をリソースとして重要視してはいたものの、『人を救う』という熟語で語られる『人』とは、誇りとか名誉とか尊厳のことで、それは死霊術的にいっさいの価値がない虚構だったからだ。
「上へのぼれば、金が入る。金が入れば、自由が手に入る。うまいものも食い放題だ」
それは戦士向けの言葉であり、やはり死霊術師の心が沸き立つものではなかった。
なぜならそこで語られる自由とは『金銭』とか『権力』とか、人の組織内部での力だからだ。
もちろん人の社会に否応なく組み込まれている認識はあるので、金銭や権力の重要性はわかっている。
だが、それらは倫理や常識を覆すことまではしてくれない。
特に『命』を『リソース』と翻訳する死霊術師の行為は、どれほど権力や金銭があろうが後ろ指をさされ、いわれない批判にさらされるもののようにしか思われなかった。
死霊術師は人の理性を信じていなかった。
彼にとって人というのは、よくわからない迷信を基準に行動する、まったく学術的ではない生き物なのだ。
ぶっちゃけてしまえば、世界の中に『冷徹に』『理性的に』『学問的に』『思考し』『検討し』行動する者は自分一人だけだろうな、とさえ思っていた。
それはもちろん傲慢であり人類そのものに対する見下しではある。
だが、それ以上に絶望であり諦念だった。
自分は謎の生き物のひしめく世界におり、永遠に同輩に出会うことはないのだろうという、孤独への確信なのだった。
その謎の生き物が作り出す社会構造の中でいくら『偉く』なっても、その先に自分の求める自由はないだろうというのは、もはや死霊術師の中ではほとんど確信と言えることだった。
勇者でさえも『同輩』ではなかった。
死霊術師は彼のことを『死霊術に理解があり、ある程度は理性的に行動をする生き物』と見てはいた。
だがそれは『原生生物変異種』ぐらいの認識であり、『同輩』かと問われると、『はい』か『いいえ』で即答することはできない相手だったのだ。
そして最後に、勇者は死霊術師に向けて、こう言う。
「上り詰めれば戦場で多くのことを差配できるだろう。そうすれば━━たくさんの命を左右できる立場になるんだ」
それは。
……目の前にあふれ、しかし自由には使えないリソースを自由に使えるのだと言われれば。
それはいかにも自分向きだった。
上り詰めるというのが、具体的にどういう方向かはわからないし、なにを目的にしているのか、その定義も詰められていない。
だが、とにかく━━
「俺たちの伝説はここから始まる。案内役は俺がつとめよう。お前たちはついてきてくれ」
彼についていけば、その先には求めるものがあるのだと、そう思えた。
だから神官も戦士も、死霊術師も、彼の下で十全に力を振るうことに迷わなかった。
意義がわからないことはしたくない。定義が不明瞭なものは目指したくない。
やりたいこと以外の一切をやりたくない。望まないことをやらされている時なんか呼吸をする手間さえもが面倒でたまらない━━
そういう自分たちは、勇者によってうまく転がされた。
そして、勇者に選ばれた者たちは、『やる気さえ出せば』無双の活躍ができる能力を持っている、という共通点があった。
そうでなければこの勇者は仲間に迎え入れなかっただろう。
……名もなき四人が『勇者とその仲間』と呼ばれるまで、さして時間はかからなかった。
死霊術師のささやきは多くの敵を一瞬で絶命させた。
神官の拳はあらゆる者を一撃で討滅した。
戦士の小柄な体が跳ね回ると地形が変わるほどの力がそこらで爆発した。
この三人はそれぞれが集団行動を絶望的に苦手としていて、その力を振るうのに『組織』というものが邪魔でしかなかったのだ。
勇者はチームワークを強要しないことでこれをうまく活かし、そして世間や社会といったものが仲間たちに牙を剥いた時━━あるいは向く前に、仲間たちをこの見えない力から守った。
仲間たちは勇者を信じ、頼り、それぞれに戦果を挙げていった。
ただし。
勇者以外のメンバーとの仲は、出会った当初から一貫して最悪だった。
というより、時を経るごとに悪くなっていったとさえ、言えた。
魔族との戦いが煮詰まり切っていた人族軍は慢性的な人手不足であり、これを解決するための義勇兵は常に募集されていた。
のちに勇者と呼ばれることになる男は、そこから始めたのだ。
また、魔族・魔物と呼ばれる者の人類領土内の拠点……いわゆる『ダンジョン』つぶしや、魔王と呼応していない、人類領土にもともと住んでいた魔物たちの巣をつぶすなどの役割も義勇兵の役割だ。
主に前線で戦う者を『義勇兵』と呼ぶ都合上、特に内地での戦争事業に従事するフリーランスのことは『冒険者』などと分けて呼ぶことが多い。
では正規兵はなんなのかと言えば、これは『金を払ってでも軍事教育を受けたい者たち』であり、その多くは士官候補生ということになる。
士官候補生のなにがすごいかといえばそれは上司からのパワハラであったり、残業代の出ない時間外労働であったりする。
そういったストレスを超え、なおかつ生き残り、さらに上官からの覚えがいい者が士官にまで上り詰めることができた。
それ以外のメリットは武装品の支給だ。
民間品よりちょっとだけ質がよく、あと、実家が田舎だったりすると『戦争で活躍したんだよ』とただ言っても信じてもらえないので、支給品の装備に勲章なんかを身につけるとお年寄りにも活躍の理解がしやすいとういう利点もある。
しかし、勇者はこの『理解のない親類にちょっと自慢しやすい』昇進ルートを選ばなかったようだった。
「俺たちは上まで行ける。より多くの人を救うことができるんだ」
それは神官向けの言葉であり、『多くの人を救う』などと言われても、死霊術師的には全然興味がなかった。
もともと人命をリソースとして重要視してはいたものの、『人を救う』という熟語で語られる『人』とは、誇りとか名誉とか尊厳のことで、それは死霊術的にいっさいの価値がない虚構だったからだ。
「上へのぼれば、金が入る。金が入れば、自由が手に入る。うまいものも食い放題だ」
それは戦士向けの言葉であり、やはり死霊術師の心が沸き立つものではなかった。
なぜならそこで語られる自由とは『金銭』とか『権力』とか、人の組織内部での力だからだ。
もちろん人の社会に否応なく組み込まれている認識はあるので、金銭や権力の重要性はわかっている。
だが、それらは倫理や常識を覆すことまではしてくれない。
特に『命』を『リソース』と翻訳する死霊術師の行為は、どれほど権力や金銭があろうが後ろ指をさされ、いわれない批判にさらされるもののようにしか思われなかった。
死霊術師は人の理性を信じていなかった。
彼にとって人というのは、よくわからない迷信を基準に行動する、まったく学術的ではない生き物なのだ。
ぶっちゃけてしまえば、世界の中に『冷徹に』『理性的に』『学問的に』『思考し』『検討し』行動する者は自分一人だけだろうな、とさえ思っていた。
それはもちろん傲慢であり人類そのものに対する見下しではある。
だが、それ以上に絶望であり諦念だった。
自分は謎の生き物のひしめく世界におり、永遠に同輩に出会うことはないのだろうという、孤独への確信なのだった。
その謎の生き物が作り出す社会構造の中でいくら『偉く』なっても、その先に自分の求める自由はないだろうというのは、もはや死霊術師の中ではほとんど確信と言えることだった。
勇者でさえも『同輩』ではなかった。
死霊術師は彼のことを『死霊術に理解があり、ある程度は理性的に行動をする生き物』と見てはいた。
だがそれは『原生生物変異種』ぐらいの認識であり、『同輩』かと問われると、『はい』か『いいえ』で即答することはできない相手だったのだ。
そして最後に、勇者は死霊術師に向けて、こう言う。
「上り詰めれば戦場で多くのことを差配できるだろう。そうすれば━━たくさんの命を左右できる立場になるんだ」
それは。
……目の前にあふれ、しかし自由には使えないリソースを自由に使えるのだと言われれば。
それはいかにも自分向きだった。
上り詰めるというのが、具体的にどういう方向かはわからないし、なにを目的にしているのか、その定義も詰められていない。
だが、とにかく━━
「俺たちの伝説はここから始まる。案内役は俺がつとめよう。お前たちはついてきてくれ」
彼についていけば、その先には求めるものがあるのだと、そう思えた。
だから神官も戦士も、死霊術師も、彼の下で十全に力を振るうことに迷わなかった。
意義がわからないことはしたくない。定義が不明瞭なものは目指したくない。
やりたいこと以外の一切をやりたくない。望まないことをやらされている時なんか呼吸をする手間さえもが面倒でたまらない━━
そういう自分たちは、勇者によってうまく転がされた。
そして、勇者に選ばれた者たちは、『やる気さえ出せば』無双の活躍ができる能力を持っている、という共通点があった。
そうでなければこの勇者は仲間に迎え入れなかっただろう。
……名もなき四人が『勇者とその仲間』と呼ばれるまで、さして時間はかからなかった。
死霊術師のささやきは多くの敵を一瞬で絶命させた。
神官の拳はあらゆる者を一撃で討滅した。
戦士の小柄な体が跳ね回ると地形が変わるほどの力がそこらで爆発した。
この三人はそれぞれが集団行動を絶望的に苦手としていて、その力を振るうのに『組織』というものが邪魔でしかなかったのだ。
勇者はチームワークを強要しないことでこれをうまく活かし、そして世間や社会といったものが仲間たちに牙を剥いた時━━あるいは向く前に、仲間たちをこの見えない力から守った。
仲間たちは勇者を信じ、頼り、それぞれに戦果を挙げていった。
ただし。
勇者以外のメンバーとの仲は、出会った当初から一貫して最悪だった。
というより、時を経るごとに悪くなっていったとさえ、言えた。
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