勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る

稲荷竜

67話 「ちゃんと責任もつから!」と言ってる人は責任の想定が甘い回

 ひどい光景が展開されている。

 真っ黒い大群は魔王軍に道を開けさせるとそこを通り、フレッシュゴーレムたちに突撃していった。

 フレッシュゴーレムたちは応戦するのだが、その勢いはだんだんと弱くなっていく。

 というのも……

「……『黒いやつら』に襲われたフレッシュゴーレム、『黒いやつら』になってね?」

 ついついラスボスの姿であることも忘れて魔王はつぶやいてしまう。

 そうなのだ。

『数』と『生産速度』という点であらゆる敵対者に爆アドをとっていたフレッシュゴーレムどもが、その『数』を逆用されているのだった。
『黒いやつら』に触れたフレッシュゴーレムたちはその体を真っ黒いもの(霊体)に侵食されて『黒いやつら』になり、直前まで仲間だったフレッシュゴーレムどもに襲いかかっていっている。

 フレッシュゴーレムは生産されればされただけ『黒いやつら』の補強戦力にされてしまい……
 さらに『学習し対処する』ことでこれだけ人類と魔族を苦しめてきたフレッシュゴーレムたちも、さすがに学習が間に合っていないのか、次々『黒いやつら』に突撃して『黒いやつら』の仲間にされているのだった。

 その光景を見て魔王は、『味方がめちゃめちゃフレッシュゴーレムに相性よくてこのままだと楽勝だよ。やったね!』━━

 ━━とは、ならない。

「……伝令。隊列を組み突撃準備。仮想敵はあの『黒いやつら』」

 あの『黒いやつら』がフレッシュゴーレムを平らげきった時。
 フレッシュゴーレムの『数』と『生産力』を持った『新しい人類』が誕生する。

 新しい人類というのはあらゆる種族にとって歓迎できない害悪だ。

 なにせ、人類が生きていくのには『場所』『食い物』『娯楽』が必要であり、すべてはこの大陸の大きさでまかなえる範囲内という制限がある。

 そんな中で『いくらでも数を増やせる新人類』など誕生されては、共存などと言ってはいられない。
 大陸の内部という限られた土地の中から生まれる限られた資源の取り合いが発生するのだ。

 魔王は今ここが危急存亡の分水嶺であると察した。

 増えすぎた新人類が問題を起こしてから対処しようと思っては遅いのだ。数は力なのだ。そして新人類は数において圧倒的なのだ。
 今、ここ。
 新人類が自分たちに匹敵する『数』を持った敵と戦い、その数を増やし切る前のこのタイミングで殲滅するしか、人類……旧人類が生き延びる術がない。

 ゆえに狙い目は、相手が『フレッシュゴーレムを殲滅しきった』と思った瞬間だ。
 背後から敵対していない軍勢に襲い掛かられれば混乱もするだろう。というかしてほしい。されないともう勝ち目がないので、するものとして考える。

 そこを突いて、一気に殲滅する。

「犠牲は問わない。全員、これより始まるのは『外海からの侵略者』へのものと同等の戦いであると心得よ」

 魔王領東から連れてこられた『経験の乏しい新兵たち』は、急に開始するらしい想定しえないシリアスな状況においてけぼりを食らいつつあった。

 しかしそれでも戦意をみなぎらせ隊列をばらつかせないのは、よく訓練が行き届いている。

 ……いくらやってもまったく減らないように思えたフレッシュゴーレムたちが、あっというまに呑み込まれていく。

 いくらかの残骸はあるものの、ほとんどが『黒いやつら』の仲間となってしまったようで、『黒いやつら』はその数を最初に見た時の三倍以上に膨れ上がらせていた。

『黒いやつら』が動きを止めて、こちらを振り返る。

 魔王軍は攻撃の意思を悟られないようにゆったりと近付いて行き……

 ある程度の距離に迫ったところで、

「全軍、突げ━━!?」

 号令が途中で止まる。

 無理もないことだった。なにせ、これから突撃し殲滅しようとしていた連中が━━

 いきなり、バタバタと死に始めたのだから。

 状況のたびかさなる展開はさすがに魔王から思考力を奪い、彼女を混乱のあまり思考・行動ともに停滞させた。

 それは全軍同じだった。というか、『黒いやつら』の方も同じだった。

 少し考えればなにが起きたかわかるはずの状況だというのに、誰もかれも、なにが起きたかわからず……

「とりあえず全部殺したよ」

 ━━死体。

 戦場にあまたあった味方の死体のうち、リザードマンの風貌を持つ者が、いつの間にか立ち上がり、魔王の足元にいた。

 そいつは感情を感じさせない爬虫類の目に、倫理や常識の通じなさそうな色合いの『なにか』を浮かべて、

「でも、後学のためのサンプルとして千体ぐらいは生かしておきたいと思うんだけれど、どうだろう、魔王領にあれらの保管場所を借りてもいいかな? ちゃんとリッチが世話をしますので……」

『子犬飼いたい』みたいなノリで語るのだった。

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