勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る
64話 でも、それって気分の問題ですよね?回
旧・人類王都━━
ロザリーに率いられた昼神教信徒たちは物静かで不気味な迫力を醸しながら、フレッシュゴーレムたちの囲いを少しずつ切り崩し、王城内部への侵入を果たしていた。
もともと高かったフレッシュゴーレム密度はさらに上がっていた。
それはもはや『敵を蹴散らして進む』というよりも、『壁を掘り進む』とでも言いたくなるような、途方もない密集であった。
その代わり、なのか、ゴーレムたちは王宮の廊下に詰まってしまって満足に身動きもとれない有様で、ロザリーやランツァなどの主戦力が手を出さずとも、安全にその壁を掘り進むことはできた。
ただし、『ペースを気にしなければ』という注釈はつく。
王宮内に侵入してからというもの、昼神教信徒with元女王ランツァの進軍速度は、異常に落ちていた。
ランツァはこの状況について抱いた疑問をこらえきれず、ついついロザリーに問いかけてしまう。
「ロザリーは一人で吶喊したりはしないの?」
そう言うランツァはフレッシュゴーレムがあたりに密集しているためロザリーの間合い内にいるものの、上体を逸らすなどして、微妙に距離を開けようという努力はしていた。
ランツァにとってロザリーは━━そしてその背後にある『昼神教』は━━自分を一度殺した相手であり、また、現状において、自分を完全殺害できる巨大な勢力である。
しかもランツァにとって『聖戦』というものがどういう基準で始まったのか不明瞭であり、つまり、どういう基準で終結するかもまた、不明瞭なのだ。
今でこそ『例外』が赦されるとかで見逃されているが……
いつ『聖戦、終わり!』という宣言が降り、一度蘇生した上に死霊術師と化したランツァの命がまた狙われるか、わかったもんじゃないのだった。
なので警戒は必然であり、ランツァの顔は微妙に引き攣り、青い目には猜疑の色が濃く浮かんでいる。
一方でロザリーの方は穏やかなものだった。
まるで今まで敵対していたり殺し合った事実などないかのように紫の瞳を細め、穏やかに、優しく、ランツァの質問に応じる。
「聖戦なので」
……それがすべての答えになると言わんばかりだが、ランツァにとっては一つも納得できない回答だ。
明らかに宗教の決まり事についての質問なので、どこに相手の逆鱗があるかわからず、うっかり刺激したら完全死亡の憂き目に遭うのはわかりつつ……
ランツァは手にした王杖をぎゅっと握って軽い臨戦態勢になりながらも、『疑問の解消』を止めないことを選んだ。
「その聖戦が、なぜ仲間を置いて突っ込まない理由になっているのかを聞きたいのだけれど」
「……仮にも元女王ともあろうお方が、信ずるべき唯一の神についてあまりにも無知がすぎるのでは?」
ここでロザリーの視線が険しくなる。
死霊術も蘇生も今は赦すスタンスなのだが、『女王のくせに国教について無知だ』というあたりには我慢ならないらしい。
ランツァはなんとなく触れてはまずい範囲を察しつつも、
「式典で困らない程度の知識はあるわ。けれど、わたしを救ってくれなかった神様について、そこまで興味もないもの」
自分でも奇妙なことに、挑発的な物言いになってしまう。
ロザリーはしばらく黙ってなにかを思案しているようだった。
たぶん『ランツァを生かすか殺すか』であり、なぜわかるかというと、拳が握られたり開かれたりしているからだ。
ロザリーが思案を終えて口を開く時、その拳は開かれていた。
「……聖戦の本義は『より多くの信徒の生存』にあります。そもそも、昼神教は争いを好みません」
「はあ?」
「なんですかその心外そうな反応は」
「……いえ、まあ、いいわ。言っても徒労になる予感がするもの」
「そうですか」
ここでリッチなら『言いかけたことを途中で止められるのは気持ちが悪い』などと食い下がるのだが、ロザリーは一瞬で興味を失ったようで、話を続ける。
「昼神教はまず神を守り、次に信徒を守り、最後にまだ神を感じることのできぬ無垢なる者を守ります。ところが神は我らと同じ地平におわしません。で、あるならば、地上でしか過ごすことのできぬ不自由なる我々が守るべき『神』とは、そのお言葉なのです」
「つまり『教義』ね。……はあ、なるほど」
「もう理解が及んだのですか?」
ロザリーはおどろいている様子だった。
ランツァは疲れたように金髪をかきあげて、
「……一人でも多くのメッセンジャーを残すために、一人たりとも信徒を失えない。ただでさえ聖戦というのは『自分たちが殲滅されるかもしれない状況』で行われるものなのだから、同輩を守るのは必定。だからロザリーは『守る』ために吶喊を控えている━━ということでしょう?」
「あなたの人生に真昼の輝きがあらんことを」
肯定なのか話が長くて途中から聞くのをやめたのか、今までのロザリーを見ていると判断に困る反応だった。
さすがに自分が解説しようとしていたことの答えを『話が長いから途中で聞くのをやめて雑対応した』とは思いたくないのだが、ロザリーのこれまでを知っていると、こういう時に雑対応してきそうでもあった。
しかし、ロザリーを『聖女』というイメージでしか知らない者は、おそらく今の言葉を『肯定』と受け取るのだろう。
なにせ目を細めて微笑をたたえながら祈るように手をこまねく彼女の姿は、背景がフレッシュゴーレムの壁だというのに、異常に絵になる。
そこに聖性を見出してしまうのは仕方のないことだろう。
ランツァとしては組み合わされた手がそのままハンマーのように振りかぶられて自分の頭に下されるような気がして、ロザリーの手足が動くたびいちいち警戒心が跳ね上がるのだが……
「……でも、ロザリー、結果から逆算すれば、あなたがさっさと一人で突っ込んで生産拠点を潰して、残った人はわたしと一緒にこのあたりで専守防衛していた方が、時間も被害も少なくて済むとは思わない?」
「そういった可能性も考えられます」
「……話は聞いてた?」
「ですが元女王ランツァよ。あなたの物言いは間違えているのです」
「……どういう意味?」
「わたくしは神にこの身を捧げている者なのです。神を信じる者が『神にこの身を捧げている』と述べた時、どういう感じで身を捧げているかわかりますか?」
「質問の意味がわからないわ」
「特に思考力と判断力を重点的に教義に捧げているのです」
「……」
「なので、わたくしに提案をされても困ります。神が『そうせよ』と仰られるのであればわたくしもそうしましょう。あなたがわたくしになにかを提案する時、まずは神が『そうせよ』とおっしゃっているか、おっしゃっていないか、そういう観点から話をすべきなのです」
つまりロザリーより深い昼神教知識がないと、ロザリーを操ることはできないのだ。
……ランツァは勇者がやけに熱心に昼神教について学んでいた理由を今さら思い知った。
彼は聖女、死霊術師、猫耳バーサーカーレイラを御していたが……
この三名には共通点があったのだ。
すなわち━━『面倒くさがり』。
自分の興味のあること以外にはてんでやる気を出さない、とだけ言うと『普通の人もそうだよ』と言われそうではあるが、あの三人は、度を超えて『そう』なのだ。
興味のないことのためには呼吸さえも惜しむほどの、度を超えた面倒くさがりたち。
呼吸さえ惜しむ者が思考などという労力を割くわけがないのであった。
勇者はこの三人を操るために知識をつけ、話しかける言葉を文字数にいたるまで工夫し、表情や態度で『自分の言うことは信じるに値する正しいことなのだ』というのを示し続けていた。
ランツァはかつて、彼の婚約者であったが……
彼がランツァと二人きりの時に、どこかぼんやりしていたのは、普段から頭を使いすぎて疲れ切っていたからなのだろうかという気が、今さらになってしてきた。
あの三人を思い通りに御するとかいうのは、人生における余力をすべて使い果たしてなお才覚と根気と情熱がいる偉業なのである。
「……勇者は偉大だったのね」
「彼は正しき神のしもべでした。死霊術などというものに手を出すまでは」
ロザリーは祈るように瞳を閉じる。
そこには深い哀悼の意が感じられた。
ちなみに死霊術に手を出した勇者は、勇者の死体を乗っ取ったリッチなので、実質的に勇者は死霊術に手を出していない。
しかしロザリーの中ではそのへんの事実関係は把握されていないようだった。
「……ねぇ、ロザリーというか、『聖戦』なら死者蘇生も禁止じゃないのよね? だとしたら、魔との『聖戦』の最中に死霊術を扱っても、赦されるんじゃないの?」
「そうですね。聖戦の最中、味方ならば赦されます。敵は赦されません。敵なので」
「……じゃあ、女王だったわたしが処刑されたのはなんで?」
「あの時はもう聖戦ではなかったので」
「でも、魔は倒せてなかったじゃない」
「わたくしが強かったでしょう?」
「まあ」
「ゆえに、わたくしが生き残ります。わたくしの生き残る限りにおいて、昼神教の絶滅はありえません。ゆえに聖戦も発動しません」
「……あなた、魔族側の死霊術師にボコボコにされていたころじゃなかったかしら」
「神・神動神仰拳の完成が間近だったので、わたくしの中ですでに聖戦は終わったも同然だったのです」
「つまり、それって、『聖戦』はあなたの気分次第じゃない?」
「それはまあ、わたくしの中の聖戦はそうでしょう。他のみなさんがどう判断なさるかは、各々の信仰に委ねられています」
「……」
話が通じるかなという気配がちょっと出た感じだったが、そのすぐあとにこうまで話の通じない感じをぶちかましてくるのはさすがだった。
ランツァはがんばってもう半歩ロザリーから離れる。
勇者、あなたは偉大だった━━死後に強まる尊敬の念を懐きながら、自分がけっきょくヤバい連中の中に取り残されているのを知って、リッチのことがちょっと恋しくなってきた。
ロザリーに率いられた昼神教信徒たちは物静かで不気味な迫力を醸しながら、フレッシュゴーレムたちの囲いを少しずつ切り崩し、王城内部への侵入を果たしていた。
もともと高かったフレッシュゴーレム密度はさらに上がっていた。
それはもはや『敵を蹴散らして進む』というよりも、『壁を掘り進む』とでも言いたくなるような、途方もない密集であった。
その代わり、なのか、ゴーレムたちは王宮の廊下に詰まってしまって満足に身動きもとれない有様で、ロザリーやランツァなどの主戦力が手を出さずとも、安全にその壁を掘り進むことはできた。
ただし、『ペースを気にしなければ』という注釈はつく。
王宮内に侵入してからというもの、昼神教信徒with元女王ランツァの進軍速度は、異常に落ちていた。
ランツァはこの状況について抱いた疑問をこらえきれず、ついついロザリーに問いかけてしまう。
「ロザリーは一人で吶喊したりはしないの?」
そう言うランツァはフレッシュゴーレムがあたりに密集しているためロザリーの間合い内にいるものの、上体を逸らすなどして、微妙に距離を開けようという努力はしていた。
ランツァにとってロザリーは━━そしてその背後にある『昼神教』は━━自分を一度殺した相手であり、また、現状において、自分を完全殺害できる巨大な勢力である。
しかもランツァにとって『聖戦』というものがどういう基準で始まったのか不明瞭であり、つまり、どういう基準で終結するかもまた、不明瞭なのだ。
今でこそ『例外』が赦されるとかで見逃されているが……
いつ『聖戦、終わり!』という宣言が降り、一度蘇生した上に死霊術師と化したランツァの命がまた狙われるか、わかったもんじゃないのだった。
なので警戒は必然であり、ランツァの顔は微妙に引き攣り、青い目には猜疑の色が濃く浮かんでいる。
一方でロザリーの方は穏やかなものだった。
まるで今まで敵対していたり殺し合った事実などないかのように紫の瞳を細め、穏やかに、優しく、ランツァの質問に応じる。
「聖戦なので」
……それがすべての答えになると言わんばかりだが、ランツァにとっては一つも納得できない回答だ。
明らかに宗教の決まり事についての質問なので、どこに相手の逆鱗があるかわからず、うっかり刺激したら完全死亡の憂き目に遭うのはわかりつつ……
ランツァは手にした王杖をぎゅっと握って軽い臨戦態勢になりながらも、『疑問の解消』を止めないことを選んだ。
「その聖戦が、なぜ仲間を置いて突っ込まない理由になっているのかを聞きたいのだけれど」
「……仮にも元女王ともあろうお方が、信ずるべき唯一の神についてあまりにも無知がすぎるのでは?」
ここでロザリーの視線が険しくなる。
死霊術も蘇生も今は赦すスタンスなのだが、『女王のくせに国教について無知だ』というあたりには我慢ならないらしい。
ランツァはなんとなく触れてはまずい範囲を察しつつも、
「式典で困らない程度の知識はあるわ。けれど、わたしを救ってくれなかった神様について、そこまで興味もないもの」
自分でも奇妙なことに、挑発的な物言いになってしまう。
ロザリーはしばらく黙ってなにかを思案しているようだった。
たぶん『ランツァを生かすか殺すか』であり、なぜわかるかというと、拳が握られたり開かれたりしているからだ。
ロザリーが思案を終えて口を開く時、その拳は開かれていた。
「……聖戦の本義は『より多くの信徒の生存』にあります。そもそも、昼神教は争いを好みません」
「はあ?」
「なんですかその心外そうな反応は」
「……いえ、まあ、いいわ。言っても徒労になる予感がするもの」
「そうですか」
ここでリッチなら『言いかけたことを途中で止められるのは気持ちが悪い』などと食い下がるのだが、ロザリーは一瞬で興味を失ったようで、話を続ける。
「昼神教はまず神を守り、次に信徒を守り、最後にまだ神を感じることのできぬ無垢なる者を守ります。ところが神は我らと同じ地平におわしません。で、あるならば、地上でしか過ごすことのできぬ不自由なる我々が守るべき『神』とは、そのお言葉なのです」
「つまり『教義』ね。……はあ、なるほど」
「もう理解が及んだのですか?」
ロザリーはおどろいている様子だった。
ランツァは疲れたように金髪をかきあげて、
「……一人でも多くのメッセンジャーを残すために、一人たりとも信徒を失えない。ただでさえ聖戦というのは『自分たちが殲滅されるかもしれない状況』で行われるものなのだから、同輩を守るのは必定。だからロザリーは『守る』ために吶喊を控えている━━ということでしょう?」
「あなたの人生に真昼の輝きがあらんことを」
肯定なのか話が長くて途中から聞くのをやめたのか、今までのロザリーを見ていると判断に困る反応だった。
さすがに自分が解説しようとしていたことの答えを『話が長いから途中で聞くのをやめて雑対応した』とは思いたくないのだが、ロザリーのこれまでを知っていると、こういう時に雑対応してきそうでもあった。
しかし、ロザリーを『聖女』というイメージでしか知らない者は、おそらく今の言葉を『肯定』と受け取るのだろう。
なにせ目を細めて微笑をたたえながら祈るように手をこまねく彼女の姿は、背景がフレッシュゴーレムの壁だというのに、異常に絵になる。
そこに聖性を見出してしまうのは仕方のないことだろう。
ランツァとしては組み合わされた手がそのままハンマーのように振りかぶられて自分の頭に下されるような気がして、ロザリーの手足が動くたびいちいち警戒心が跳ね上がるのだが……
「……でも、ロザリー、結果から逆算すれば、あなたがさっさと一人で突っ込んで生産拠点を潰して、残った人はわたしと一緒にこのあたりで専守防衛していた方が、時間も被害も少なくて済むとは思わない?」
「そういった可能性も考えられます」
「……話は聞いてた?」
「ですが元女王ランツァよ。あなたの物言いは間違えているのです」
「……どういう意味?」
「わたくしは神にこの身を捧げている者なのです。神を信じる者が『神にこの身を捧げている』と述べた時、どういう感じで身を捧げているかわかりますか?」
「質問の意味がわからないわ」
「特に思考力と判断力を重点的に教義に捧げているのです」
「……」
「なので、わたくしに提案をされても困ります。神が『そうせよ』と仰られるのであればわたくしもそうしましょう。あなたがわたくしになにかを提案する時、まずは神が『そうせよ』とおっしゃっているか、おっしゃっていないか、そういう観点から話をすべきなのです」
つまりロザリーより深い昼神教知識がないと、ロザリーを操ることはできないのだ。
……ランツァは勇者がやけに熱心に昼神教について学んでいた理由を今さら思い知った。
彼は聖女、死霊術師、猫耳バーサーカーレイラを御していたが……
この三名には共通点があったのだ。
すなわち━━『面倒くさがり』。
自分の興味のあること以外にはてんでやる気を出さない、とだけ言うと『普通の人もそうだよ』と言われそうではあるが、あの三人は、度を超えて『そう』なのだ。
興味のないことのためには呼吸さえも惜しむほどの、度を超えた面倒くさがりたち。
呼吸さえ惜しむ者が思考などという労力を割くわけがないのであった。
勇者はこの三人を操るために知識をつけ、話しかける言葉を文字数にいたるまで工夫し、表情や態度で『自分の言うことは信じるに値する正しいことなのだ』というのを示し続けていた。
ランツァはかつて、彼の婚約者であったが……
彼がランツァと二人きりの時に、どこかぼんやりしていたのは、普段から頭を使いすぎて疲れ切っていたからなのだろうかという気が、今さらになってしてきた。
あの三人を思い通りに御するとかいうのは、人生における余力をすべて使い果たしてなお才覚と根気と情熱がいる偉業なのである。
「……勇者は偉大だったのね」
「彼は正しき神のしもべでした。死霊術などというものに手を出すまでは」
ロザリーは祈るように瞳を閉じる。
そこには深い哀悼の意が感じられた。
ちなみに死霊術に手を出した勇者は、勇者の死体を乗っ取ったリッチなので、実質的に勇者は死霊術に手を出していない。
しかしロザリーの中ではそのへんの事実関係は把握されていないようだった。
「……ねぇ、ロザリーというか、『聖戦』なら死者蘇生も禁止じゃないのよね? だとしたら、魔との『聖戦』の最中に死霊術を扱っても、赦されるんじゃないの?」
「そうですね。聖戦の最中、味方ならば赦されます。敵は赦されません。敵なので」
「……じゃあ、女王だったわたしが処刑されたのはなんで?」
「あの時はもう聖戦ではなかったので」
「でも、魔は倒せてなかったじゃない」
「わたくしが強かったでしょう?」
「まあ」
「ゆえに、わたくしが生き残ります。わたくしの生き残る限りにおいて、昼神教の絶滅はありえません。ゆえに聖戦も発動しません」
「……あなた、魔族側の死霊術師にボコボコにされていたころじゃなかったかしら」
「神・神動神仰拳の完成が間近だったので、わたくしの中ですでに聖戦は終わったも同然だったのです」
「つまり、それって、『聖戦』はあなたの気分次第じゃない?」
「それはまあ、わたくしの中の聖戦はそうでしょう。他のみなさんがどう判断なさるかは、各々の信仰に委ねられています」
「……」
話が通じるかなという気配がちょっと出た感じだったが、そのすぐあとにこうまで話の通じない感じをぶちかましてくるのはさすがだった。
ランツァはがんばってもう半歩ロザリーから離れる。
勇者、あなたは偉大だった━━死後に強まる尊敬の念を懐きながら、自分がけっきょくヤバい連中の中に取り残されているのを知って、リッチのことがちょっと恋しくなってきた。
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