勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る
49話 因縁がある相手との決着は自分でつけたいというのは一定の理解を示します回
こういう突発的事態にリッチが弱いのは、そもそも研究者肌であり、戦闘という時間の流れに合わせた思考速度を獲得するのに、一瞬の準備時間が必要だからだ。
加えて言うならば治癒魔術と死霊術を高度に修めたリッチは、後手に回ってもなんとかなるという油断がある。
なにせたいていのケガは人類・アンデッド問わずに治せるし、死んだって蘇生できる。
ところが蘇生した者が肉体に死ぬほどの怪我を負っていた時、蘇生後すぐ死んでしまうし……
ロザリーに殴られた者はチリになる。
治癒もなにもない。体がこの世から消滅してしまうのだ。
「本当にリッチの天敵だなあいつ!」
まさか第一説法で死者を出すわけにもいかないリッチとしては、非常にまずい状況だった。
だが……
とりあえず手近な者をぶん殴ろうとしたロザリーの動きが止まる。
それは、霊体の黒い帯による拘束のせいだった。
幾重にも中空から湧き出す霊体の帯は、リッチをして一瞬で出せる量ではない。
基本的に筋力ではちぎれない帯が体中に絡みつき、さすがの聖女ロザリーも動きを止める。
だが、リッチは断じてなにもしていない。
この霊体の帯は、彼女が準備していたもののようだった。
「……とりあえず、また会ったら言ってやろうと思っていたことがあるのだけれど」
いつのまにかオーディエンスにまぎれて、ロザリーのそばまで移動していた彼女は、片手に王杖を持ちながら、空いている手で金髪を梳く。
そして青い瞳に微笑をたたえて、ロザリーの真正面に歩み、
「人類はあなたに密告されて殺されたこと、実は根に持っているのよ」
元女王ランツァは、優雅に、高圧的に、そんなことを述べた。
彼女はもはや無力な傀儡女王ではない。
体は成長し、身長だけで言えばロザリーとさほど違いがない。
筋力はさほどでもないが、最低限長距離移動に耐えうる体力と、なにより『死霊術』という力を身につけている。
……だが、ランツァの死霊術は、やはり、リッチと比べるとまだ熟達の域にはないようだ。
かつて、夜が迫ったこの時間、リッチの放つ霊体の帯ならば、ロザリーさえも完全に拘束してみせた。
けれどランツァの帯を、ロザリーはなんらかの力で引きちぎった。
筋力ではちぎれない。仮称するなら信仰の力、だろう。
あるいは今のロザリーであれば、リッチの放つそれさえひきちぎるのかもしれない。
彼女も成長しているのだ。
だが、ランツァは備えていた。
ロザリーと幼女ッチの会話中に、そこらじゅうに霊体の帯を『あとは放つだけ』の状態で置いておいたようだった。
ロザリーが帯をちぎっても、また別の帯が絡みつく。
しかしロザリーはあきらめることを知らない。
拘束されるたびに帯をちぎり、一歩一歩、ランツァの方に近づいて行く。
あの元聖女の歩みを阻むまでに成長したランツァがすごいのか。
それとも筋力ではちぎれない帯を当たり前のようにちぎりながら歩めるロザリーがすさまじいのか。
ともあれロザリーは、ランツァと言葉を交わすだけのなにかを見出したようだった。
「……ああ、誰かと思えば。死霊術を学んでいた悪しき元女王ではありませんか」
ロザリーの口調が固いので皮肉にも聞こえるが、ただ忘れていただけという線が濃厚である。
だが、ランツァはロザリーの知性にまだ希望を持っているので、それを皮肉と判断したようだった。
「あなたも、人々の危機だっていうのにどこかにこもって姿も見せなかった元聖女のようでなによりだわ」
「理解をなさっていないのですか? 我々は礼拝により人類を救いました。ここにいるのは、すべて救われた者どもです。ただ……信仰心の不足により、自分たちを救済したのが神ではないなどという、勘違いが横行しているようですが」
「……本当に話にならないのね。わかりました。あなたを屈服させるには、あなたの信仰を砕くしかないようです」
「つまり筋肉にわからせると? 不可能です」
「わたしの帯に動きを阻まれておいて、ずいぶん言うじゃない」
ランツァは不敵な笑みを崩さない。
だが、『筋力ではちぎれないはずの拘束』を、ちょっとの時間をかけるとはいえ、ほぼ間断なく引きちぎりながら、一歩一歩接近してくる『殴った相手を殺せる聖女』は、ランツァにひどいプレッシャーを与えていた。
向こうが一歩進むごとに一歩下がれば理論上は永遠に追いつかれないけれど、ロザリーを抑え込む帯を移動しながら放てるほど、ランツァは戦闘慣れしていない。
……ロザリーは、おおげさにため息をついた。
「女王陛下、あなたはなにも、わかっておられない」
「……あなたより、いろいろなことを理解してると思うんだけど」
「かつて、昼神の使徒たる我らが、夜神の使徒どもを駆逐する、『正しき戦争』が行われていた時代……我ら四人は、膠着した戦線をたった四人で動かしたのです」
かつて、勇者パーティーと呼ばれた者たちがいる。
勇者。
主な活躍の舞台は社交界や王宮ではあったが、そのリーダーシップで相性の悪い三名の強力な兵を統率した不世出の英雄。
表向きには『ドラゴン殺し』の異名を持つ。
戦士レイラ。
巨人殺しの異名を持つ少女。
幼い見た目からは想像もつかない怪力を持つ、食欲と暴力欲に支配された獣人。
非常に気まぐれかつ行動原理が読めない彼女は、最初、人類側で荷駄などを襲う山賊であった。
死霊術師。
ただの研究者を自認するこの人物が、いくら資金集めを目的としたといえど、前線で戦うにいたったのは、勇者の交渉術と、そもそも彼を発見した情報収集力の賜物に他ならない。
その戦功は、同じ戦場に立った誰にも理解されなかった。
そいつが戦場に立っただけで敵がバタバタ死ぬなどという現象は、死霊術が実質的に禁じられた世界において、理解が難しすぎたのだ。
そして、聖女ロザリー。
「我らはおそらく、二度と同じ旗のもとには集わぬ四名……いえ、三名です。特に、わたくしと死霊術師は、勇者という仲立ちなしでは、出会った瞬間に殺し合うことになるでしょう」
「まあ、そうね」
ランツァの意識が一瞬、リッチを探した。
けれどリッチはどうにも、いつの間にか舞台にはいないようだった。
ロザリーが声を発して、ランツァの意識が前方に戻る。
「覚えておきなさい元女王ランツァ。あなたでは、わたくしを御すことはできません。もしも、わたくしを意のままにできていると思うならば」
「……思うならば?」
「それは、わたくしがそう見えるように振る舞っているだけなのです。━━もう、間合いなんですよ」
言った瞬間、ロザリーは自分を締め上げていた帯のすべてを一瞬で振り払い、ランツァとの最後の距離を詰めた。
先ほどまで全身の力を込めて一本一本ちぎるしかなかったはずの帯、そのすべてが、急にちぎられたのだ。
迫り来るロザリーに応じる術は、ない。
当たった者すべてをチリにする拳がランツァの胸に迫る、寸前━━
「ねぇランツァ、ところでこれは疑問なのだけれど……」
ロザリーの背後から、甘く甲高い鼻にかかった声がして。
ランツァに迫るその一瞬前、ロザリーの肉体はまた拘束された。
幼女ッチは歩いてロザリーとランツァのあいだに立ち、
「君はこの状態から、どうやってロザリーに対応するつもりだったんだい? 霊体の帯はもう、こいつ相手には拘束以上の意味をなさない。というか━━」
ロザリーがリッチの帯さえ引きちぎる。
けれど、引きちぎった瞬間、すぐにまた拘束される。
「━━たぶんね、こいつはわけのわからない、信仰とかいう力で、霊体のほどきかたを確立してる。確立というのは、再現可能なまでに理論化し、実践可能なレベルで習熟しているということだ。なにせ以前、こいつをこうして拘束したことがあったからね。わけのわからない情熱で学習したんだろう。それで……ここからどうするんだい?」
「……『死のささやき』も撃ってるんだけど、効かなくて、どうしようかと思っていたところなの」
ランツァが気弱に述べた。
リッチはうなずき、
「こいつの適応能力の高さは、本当にすごい。理屈じゃないんだ。以前は気合の叫びをあげながら『死』を退けていたんだけれど、もう、デフォルトで死なない。……ランツァ、俺はね、あまり先達ぶったことを言うのは好きではないのだけれど……『勇者パーティー』と呼ばれる連中は、全員、こうして適応して活躍していたんだ。一度誰かが使った技能は二度と通じないと思った方がいい。君の習熟度なら、なおさらだ」
「じゃあ、どうするの?」
「うん。死霊術は戦闘の引き出しがあまり多くないという弱点を抱えているね。いや、リッチの死霊術は、かな。太古の魂との対話をメインテーマにしているせいもあるけれど……でも、そろそろリッチも適応しないといけないよね。ううん、大丈夫かなあ」
「なにをするの?」
「する、というか。……ロザリーを殺した」
リッチが霊体の帯をほどく。
すると、ロザリーの体は力を失って地面に倒れ込んだ。
「ここまではまあ、どうにでもなるところなんだけれど……これ以降がなあ。ちょっと実験段階というか、まさかこんなに早く遭遇するとは思っていなくて検証不足というか……」
「どうやってロザリーを殺せたの!?」
「それはあと。今は時間がありません。……ううん、やっぱり君しかいないか。ねぇランツァ、お願いしてもいいかな」
「なに?」
「死んで」
「え? いいけど……」
「で、ロザリーの魂を君の肉体に憑依させた状態で、君も蘇生してほしいんだ」
ランツァはさすがに、とっさに理解できなかった。
リッチは構わずに言葉を続ける。
「今のリッチとこの肉体の持ち主みたいに、一つの体に二つの魂を入れるわけだね。まあ、おそらくだけれど、死霊術に造詣が深い方が主人格をとれると思う。たださっきも言ったように検証不足で、最悪、君の魂がロザリーのわけのわからない力に消されるけど、どう? やってくれる?」
理論上はいけるから、とリッチは言った。
ランツァは━━
「……わかりました。わたしが、ロザリーの魂を体に入れる」
その実験を承諾した。
なぜ、そんな危険なことを承諾してしまったのだろう?
ランツァは考えた。
助けられた恩とか、学ぶことの楽しさを教えてもらった恩とか、魔王領で世話になった恩とか、それっぽい理由がいくつも思いついては消えていき、最後に残った、『リスクを負うに足る理由』は、
「わたしも、結果に興味があるわ」
学術的好奇心、なのだった。
加えて言うならば治癒魔術と死霊術を高度に修めたリッチは、後手に回ってもなんとかなるという油断がある。
なにせたいていのケガは人類・アンデッド問わずに治せるし、死んだって蘇生できる。
ところが蘇生した者が肉体に死ぬほどの怪我を負っていた時、蘇生後すぐ死んでしまうし……
ロザリーに殴られた者はチリになる。
治癒もなにもない。体がこの世から消滅してしまうのだ。
「本当にリッチの天敵だなあいつ!」
まさか第一説法で死者を出すわけにもいかないリッチとしては、非常にまずい状況だった。
だが……
とりあえず手近な者をぶん殴ろうとしたロザリーの動きが止まる。
それは、霊体の黒い帯による拘束のせいだった。
幾重にも中空から湧き出す霊体の帯は、リッチをして一瞬で出せる量ではない。
基本的に筋力ではちぎれない帯が体中に絡みつき、さすがの聖女ロザリーも動きを止める。
だが、リッチは断じてなにもしていない。
この霊体の帯は、彼女が準備していたもののようだった。
「……とりあえず、また会ったら言ってやろうと思っていたことがあるのだけれど」
いつのまにかオーディエンスにまぎれて、ロザリーのそばまで移動していた彼女は、片手に王杖を持ちながら、空いている手で金髪を梳く。
そして青い瞳に微笑をたたえて、ロザリーの真正面に歩み、
「人類はあなたに密告されて殺されたこと、実は根に持っているのよ」
元女王ランツァは、優雅に、高圧的に、そんなことを述べた。
彼女はもはや無力な傀儡女王ではない。
体は成長し、身長だけで言えばロザリーとさほど違いがない。
筋力はさほどでもないが、最低限長距離移動に耐えうる体力と、なにより『死霊術』という力を身につけている。
……だが、ランツァの死霊術は、やはり、リッチと比べるとまだ熟達の域にはないようだ。
かつて、夜が迫ったこの時間、リッチの放つ霊体の帯ならば、ロザリーさえも完全に拘束してみせた。
けれどランツァの帯を、ロザリーはなんらかの力で引きちぎった。
筋力ではちぎれない。仮称するなら信仰の力、だろう。
あるいは今のロザリーであれば、リッチの放つそれさえひきちぎるのかもしれない。
彼女も成長しているのだ。
だが、ランツァは備えていた。
ロザリーと幼女ッチの会話中に、そこらじゅうに霊体の帯を『あとは放つだけ』の状態で置いておいたようだった。
ロザリーが帯をちぎっても、また別の帯が絡みつく。
しかしロザリーはあきらめることを知らない。
拘束されるたびに帯をちぎり、一歩一歩、ランツァの方に近づいて行く。
あの元聖女の歩みを阻むまでに成長したランツァがすごいのか。
それとも筋力ではちぎれない帯を当たり前のようにちぎりながら歩めるロザリーがすさまじいのか。
ともあれロザリーは、ランツァと言葉を交わすだけのなにかを見出したようだった。
「……ああ、誰かと思えば。死霊術を学んでいた悪しき元女王ではありませんか」
ロザリーの口調が固いので皮肉にも聞こえるが、ただ忘れていただけという線が濃厚である。
だが、ランツァはロザリーの知性にまだ希望を持っているので、それを皮肉と判断したようだった。
「あなたも、人々の危機だっていうのにどこかにこもって姿も見せなかった元聖女のようでなによりだわ」
「理解をなさっていないのですか? 我々は礼拝により人類を救いました。ここにいるのは、すべて救われた者どもです。ただ……信仰心の不足により、自分たちを救済したのが神ではないなどという、勘違いが横行しているようですが」
「……本当に話にならないのね。わかりました。あなたを屈服させるには、あなたの信仰を砕くしかないようです」
「つまり筋肉にわからせると? 不可能です」
「わたしの帯に動きを阻まれておいて、ずいぶん言うじゃない」
ランツァは不敵な笑みを崩さない。
だが、『筋力ではちぎれないはずの拘束』を、ちょっとの時間をかけるとはいえ、ほぼ間断なく引きちぎりながら、一歩一歩接近してくる『殴った相手を殺せる聖女』は、ランツァにひどいプレッシャーを与えていた。
向こうが一歩進むごとに一歩下がれば理論上は永遠に追いつかれないけれど、ロザリーを抑え込む帯を移動しながら放てるほど、ランツァは戦闘慣れしていない。
……ロザリーは、おおげさにため息をついた。
「女王陛下、あなたはなにも、わかっておられない」
「……あなたより、いろいろなことを理解してると思うんだけど」
「かつて、昼神の使徒たる我らが、夜神の使徒どもを駆逐する、『正しき戦争』が行われていた時代……我ら四人は、膠着した戦線をたった四人で動かしたのです」
かつて、勇者パーティーと呼ばれた者たちがいる。
勇者。
主な活躍の舞台は社交界や王宮ではあったが、そのリーダーシップで相性の悪い三名の強力な兵を統率した不世出の英雄。
表向きには『ドラゴン殺し』の異名を持つ。
戦士レイラ。
巨人殺しの異名を持つ少女。
幼い見た目からは想像もつかない怪力を持つ、食欲と暴力欲に支配された獣人。
非常に気まぐれかつ行動原理が読めない彼女は、最初、人類側で荷駄などを襲う山賊であった。
死霊術師。
ただの研究者を自認するこの人物が、いくら資金集めを目的としたといえど、前線で戦うにいたったのは、勇者の交渉術と、そもそも彼を発見した情報収集力の賜物に他ならない。
その戦功は、同じ戦場に立った誰にも理解されなかった。
そいつが戦場に立っただけで敵がバタバタ死ぬなどという現象は、死霊術が実質的に禁じられた世界において、理解が難しすぎたのだ。
そして、聖女ロザリー。
「我らはおそらく、二度と同じ旗のもとには集わぬ四名……いえ、三名です。特に、わたくしと死霊術師は、勇者という仲立ちなしでは、出会った瞬間に殺し合うことになるでしょう」
「まあ、そうね」
ランツァの意識が一瞬、リッチを探した。
けれどリッチはどうにも、いつの間にか舞台にはいないようだった。
ロザリーが声を発して、ランツァの意識が前方に戻る。
「覚えておきなさい元女王ランツァ。あなたでは、わたくしを御すことはできません。もしも、わたくしを意のままにできていると思うならば」
「……思うならば?」
「それは、わたくしがそう見えるように振る舞っているだけなのです。━━もう、間合いなんですよ」
言った瞬間、ロザリーは自分を締め上げていた帯のすべてを一瞬で振り払い、ランツァとの最後の距離を詰めた。
先ほどまで全身の力を込めて一本一本ちぎるしかなかったはずの帯、そのすべてが、急にちぎられたのだ。
迫り来るロザリーに応じる術は、ない。
当たった者すべてをチリにする拳がランツァの胸に迫る、寸前━━
「ねぇランツァ、ところでこれは疑問なのだけれど……」
ロザリーの背後から、甘く甲高い鼻にかかった声がして。
ランツァに迫るその一瞬前、ロザリーの肉体はまた拘束された。
幼女ッチは歩いてロザリーとランツァのあいだに立ち、
「君はこの状態から、どうやってロザリーに対応するつもりだったんだい? 霊体の帯はもう、こいつ相手には拘束以上の意味をなさない。というか━━」
ロザリーがリッチの帯さえ引きちぎる。
けれど、引きちぎった瞬間、すぐにまた拘束される。
「━━たぶんね、こいつはわけのわからない、信仰とかいう力で、霊体のほどきかたを確立してる。確立というのは、再現可能なまでに理論化し、実践可能なレベルで習熟しているということだ。なにせ以前、こいつをこうして拘束したことがあったからね。わけのわからない情熱で学習したんだろう。それで……ここからどうするんだい?」
「……『死のささやき』も撃ってるんだけど、効かなくて、どうしようかと思っていたところなの」
ランツァが気弱に述べた。
リッチはうなずき、
「こいつの適応能力の高さは、本当にすごい。理屈じゃないんだ。以前は気合の叫びをあげながら『死』を退けていたんだけれど、もう、デフォルトで死なない。……ランツァ、俺はね、あまり先達ぶったことを言うのは好きではないのだけれど……『勇者パーティー』と呼ばれる連中は、全員、こうして適応して活躍していたんだ。一度誰かが使った技能は二度と通じないと思った方がいい。君の習熟度なら、なおさらだ」
「じゃあ、どうするの?」
「うん。死霊術は戦闘の引き出しがあまり多くないという弱点を抱えているね。いや、リッチの死霊術は、かな。太古の魂との対話をメインテーマにしているせいもあるけれど……でも、そろそろリッチも適応しないといけないよね。ううん、大丈夫かなあ」
「なにをするの?」
「する、というか。……ロザリーを殺した」
リッチが霊体の帯をほどく。
すると、ロザリーの体は力を失って地面に倒れ込んだ。
「ここまではまあ、どうにでもなるところなんだけれど……これ以降がなあ。ちょっと実験段階というか、まさかこんなに早く遭遇するとは思っていなくて検証不足というか……」
「どうやってロザリーを殺せたの!?」
「それはあと。今は時間がありません。……ううん、やっぱり君しかいないか。ねぇランツァ、お願いしてもいいかな」
「なに?」
「死んで」
「え? いいけど……」
「で、ロザリーの魂を君の肉体に憑依させた状態で、君も蘇生してほしいんだ」
ランツァはさすがに、とっさに理解できなかった。
リッチは構わずに言葉を続ける。
「今のリッチとこの肉体の持ち主みたいに、一つの体に二つの魂を入れるわけだね。まあ、おそらくだけれど、死霊術に造詣が深い方が主人格をとれると思う。たださっきも言ったように検証不足で、最悪、君の魂がロザリーのわけのわからない力に消されるけど、どう? やってくれる?」
理論上はいけるから、とリッチは言った。
ランツァは━━
「……わかりました。わたしが、ロザリーの魂を体に入れる」
その実験を承諾した。
なぜ、そんな危険なことを承諾してしまったのだろう?
ランツァは考えた。
助けられた恩とか、学ぶことの楽しさを教えてもらった恩とか、魔王領で世話になった恩とか、それっぽい理由がいくつも思いついては消えていき、最後に残った、『リスクを負うに足る理由』は、
「わたしも、結果に興味があるわ」
学術的好奇心、なのだった。
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