冥界からの帰還者

6話 仕事探し

 社会情勢について話し終えたアイス女王は、ティーカップを口に運び、香りを楽しんでから、紅茶を口にした。

「このくらいで宜しいでしょうか?」

「あぁ、ありがとう。俺がいた時代とは随分様変わりしてしまったんだな」

「そうですね・・・貴方が戦場に出る必要も無くなったと言う事ですね」

 アイス女王は、ジン・クロードを見つめる。
 そこには、2つの意味が込められていた。
 一つは、彼が戦争の道具として扱われない事への安堵。
 二つ目は、彼が復活した事により、新たな火種とならないかと言う不安だ。

 ジン・クロードは、かつて魔導王と呼ばれた最強の魔術師だった。
 その力は他の追随を許さず、ドラゴン種であるアイス・ブリザベートですら相手にならなかった。
 彼の存在が在ったからこそ人間達の絶対的優位が成り立ち、亜種族の勢力拡大も起こり得なかったと言うのが実情だ。
 どう言う訳か、冥界から帰還したジン・クロードは、かつての膨大な魔力を全て失っている様だが、昔以上に不吉な力を内包している気がする。

 今、人間達がジン・クロードの力を手にしたら、彼等は亜人種を滅ぼせるだけの力を得る事になる。
 そうなれば、今の平和など簡単に崩れ去ってしまうだろう。

「心配しているのか?」

 ジン・クロードの質問にハッとした様にアイス女王が顔を上げる。

「えぇ、貴方の力は世界を変えるには十分過ぎますから」

「安心しろよ、俺はもう戦争の道具になるつもりは無い・・・被害者面をする気はないけど、俺だって平和が好きだ」

「千年の時は人の性格も変えてしまうのですね」

 かつてのジン・クロードを知っているアイス女王はジンの変化に驚きと喜びを感じていた。

「そうかもな・・・今回はひっそりと力を隠して学園青春ライフを満喫する予定だ。戦争だの政治だの面倒な事に関わる気は無い」

「ふふふ、それを聞いて安心しました。ザザン魔術大学の入学試験は3ヶ月後の20日に予定されています」

 ザザン魔術大学の入学試験は実技・魔力測定・筆記の3種類に分かれており、それぞれの配点は実技50点、魔力30点、筆記20点となっている。
 合格基準は70点以上らしく、実技を重視している様だ。
 だが、1番の問題は金だ。
 受験料は有料らしく、受けるのに銀貨1枚必要との事だ。
 
 因みに貨幣価値を表にするとこんな感じだ。

 銅貨1枚=パン1つ分くらい
 銀貨1枚=銅貨10枚
 大銀貨1枚=銀貨10枚
 金貨1枚=大銀貨10枚
 大金貨1枚=金貨10枚
 白金貨1枚=大金貨10枚

 銀貨1枚はそれ程高い金額では無いが、受験の場合、非常に多くの学生が受けに来るので、冷やかしなどを防止する意味も兼ねて有料にしているらしい。

 だが、今のジンは一文無しの無職。
 たかが1銀貨、されど1銀貨だ。
 
「なるほど、ここらで手っ取り早く金を稼ぐにはどうしたらいい?」

 どの道、当面の生活費も稼がねばならない。
 今のうちに仕事を見つけるのも悪くない。

「お金の工面なら多少はできますが、そう言うのを望んではいないのでしょうね」

「ああ、出来れば自分で生活する基盤を作りたい」

「ならば、冒険者協会に登録するのが宜しいでしょう」

「冒険者協会?」

 ジンは記憶を辿ってみるが、千年前にはそんなものは存在していなかった。

「ええ、戦争が無くなり、傭兵や魔術師達の受皿だった兵士の仕事が激減した事により、失業者が街に溢れたのです。彼等の受皿として魔物の駆除や遺跡の探索などの仕事を斡旋する冒険者協会を国が創ったのです」

「なるほど、便利屋みたいな感じか」

「身分や経歴は関係無く、腕が立つなら誰でも登録可能なので、人間の街に着いたら登録してみると良いでしょう」

「ああ、色々と助かったよ。御礼がしたいけど、今の俺は無一文だからな、何かやって欲しい事はあるか?」

 ジン・クロードの提案にアイス女王は瞳を輝かせて笑顔をつくる。

「宜しいのですか?丁度、貴方に頼みたい事があったのです!」

 アイス女王は、オホンッと咳払いすると、後ろを振り返る。

「来なさい!」

 アイス・ブリザベートに呼ばれて現れたのは、アイス女王にそっくりな1人の娘だった。

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