冥界からの帰還者

2話 終焉を喰らう龍ルドラ

 冥界へ繋がる扉の上に存在する迷宮は一万階層ものフロアが積み重なって出来ている。
 階層間の壁はアダマンタイトの岩盤で出来ており、あらゆる魔法や物理攻撃でも貫く事は出来ない。
 更には階層毎に階層主と呼ばれるSランクの魔物が守護しており、一般の魔物ですらBから Aランクの高ランクな存在しかおらず、伝説と呼ばれる魔物達の宝庫となっていた。
 
「地上まで結構あるな」

 ジンは上を見上げる。
 魔物を倒しながらチマチマ登れば、少なくとも数年は掛かるであろう。
 しかし、ジンはそれ程気長な性格では無い。
 既に千年と言う永い年月を冥界で費やした。
 現世に帰って来た今、一刻も早く青春ライフを謳歌したい。

「顕現せよ、終焉を喰らう龍ルドラ」

 ジンの身体から負のオーラが噴き出し、黒い霧の様に空間を埋め尽くして行く。
 霧は次第に形を持ち始め、巨大な龍の姿へと変わって行く。
 それは全長100mを越える巨大な黒龍だった。
 その漆黒の鱗は冥界に存在する闇の鋼と同質であり、あらゆる魔法と物理攻撃を無効化する。

「随分と小さくなったな」

 ジンは、本来のルドラのサイズを思い出して呟いた。
 冥界でルドラと戦った時は、全長100kmはあったはずだ。
 この迷宮という狭い空間では、本来のサイズでは顕現出来ないので、無理矢理身体のサイズを縮めたのだろう。

「我を呼び出すとは、国でも滅ぼすのか?」

 ルドラは、腹の底を突き破る様な声で人の言葉を話した。

「ハハハ、せっかく密かに帰還したのに、俺がそんな目立つ事をするわけないだろ?」

「では、何用で我を呼び出したのだ?」

 終焉を喰らう龍ルドラは、ジンが創り出せる最強の7体の魔物の一つだ。
 ジンは負のオーラでありとあらゆる存在を滅失し吸収する事ができる。
 殆どの存在は、自我も全て無になり、単なるジンのエネルギーに変換されるが、中には吸収されても自我を残して消えない存在がいる。
 神にすら匹敵する強大な存在力と自我を持つ存在は、ジンの中で一つの個を形成する。

 ジンはそんな強大な力を持つ存在を召喚し、使役していた。

「地上に出たいんだけど、天井が邪魔なんだ・・・消してくれる?」
 
「承知した」

 ルドラは、巨大な口を開き、天を向いた。
 喉の奥に凄まじい破壊のエネルギーが凝縮されて行く。

「カッ!」

 ルドラの口から漆黒の光と共に破壊のブレスが放たれた。
 まるで黒い雷を数万本束にした様な凶悪な黒いブレスは、溶けたアイスクリームの様にアダマンタイトの岩盤を突き破り、そのまま地上まで貫通した。
 射程上に存在する全ての魔物は消し炭すら残さず消滅し、空を覆っていた雲に巨大な風穴を空けた。 
 その日、永久に降り続けると言われていた吹雪が止んだ。

 

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