羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

6章:突然訪れた夜(3)

 解散のあと、宮坂さんは新田先生に送ってもらうことになった。新田先生のほほえみに宮坂さんの身を案じたけど、宮坂さんも新田先生の顔を見て微笑み合っていた。大人だ……。

 私はというと、先輩と話したいのもあって、酔い覚ましもかねて、先輩と二人で街を歩いていた。

 そして人通りが少なくなったところで足を止めると、
「あんなの聞いてませんでしたよ」
と言う。

「うん、言ってなかったからね」
 先輩は意地悪に続ける。「でも、言ってたら賛成した?」

「それは……」

 たぶん賛成はしなかっただろう。

「信頼できる人間は増やしておいた方がいい。みゆが信頼しないから相手も信頼しない。ね?」

 私が眉を寄せると、先輩は苦笑する。

「これまで一緒に仕事してきたからわかるよ。宮坂さんは聡明だから、変な判断はしないよ」
「……信頼してるんですね」
「うん」

 そうはっきり言った先輩の顔を私は見つめていた。

 先輩は、こういうところが昔からすごいと思う。いつも彼の周りは先輩のことを好きな人であふれてた。今なら、みんなのその気持ちわかる気がする。





 次の週になり、少し緊張していたのだけど、宮坂さんは周りに言いふらすこともなかった。
 時々あまりに行きすぎそうなファンがいれば、たしなめてくれるようにもなっていた。


 仕事でも宮坂さんに助けてもらって、プライベートでもいろんな人に助けてもらって……私は自分のことが自分で情けなくなってきていた。

 なんてダメな人間なんだろう。それを宮坂さんに言うと、

「人に頼るのが下手なのよね、柊さんは」
と笑われた。「そろそろ素直にならないと、羽柴先生、誰かに取られても知らないから。あんな風に、付き合ってもくれない女のことで真摯に頭下げる男なんて、ファンタジーの世界か羽柴先生くらいよ!」

 宮坂さんは真剣に言う。私は唇を噛み締めた。
 私だってちょっとずつ分かってきている。

 でも、長く拗れた感情が、私を素直にさせてはくれない。
 素直になるって、どうしたらいいんだろう。

 私は、こんなところまで、いつまでも子どもだ。
 こんな私の本音を知って、羽柴先輩が呆れてしまったらどうしよう。

 そんなことを考えると泣きそうになる。
 するとそんな私を見て、宮坂さんは私の肩を叩いた。

「肌を合わせればわかることもあるわよ」
 宮坂さんは笑った。

「は、肌って……!」

 なんかヤラシイ! ヤラシイです! 宮坂さん!


 でも、今週、宮坂さんの雰囲気ががらりと変わって、さらに女性らしく、柔らかくなっていることに私は気づいていた。

「あ、あの、宮坂さんと新田先生って……」
「付き合ってるし、もうしたわよ。もちろん」

 そう言って笑った。

(お、大人だ……)

「そう言うことしたら……何か変わりますか」
「うん。当たり前でしょ。そんな待ったばかりかけて、いいことあるの? 感情がうまく表現できないならなおさら、言わなくても伝わる方法選ぶけどな」

 宮坂さんはそう言うと、その場を後にした。


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