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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

雨降って地固まる 6

 
 将嗣は、力が抜けたようにフッと微笑んだ。
 柔らかな笑顔に引き寄せられたように、美優が手を伸ばすと、将嗣はそっと抱き上げ頬を寄せる。
 まるで宝物を包み込むように愛おしく抱き上げる様子に心が温かくなった。

 美優は、高い高いをしてもらい、キャッキャッとはしゃぎ、美優を見つめる将嗣の瞳は慈しみに満ちていた。

 たくさん泣いたけど、たくさんの笑顔もくれた。
 美優を授けてくれた大切な人。
 本当に大好きだったんだよ。

「将嗣……。ありがとう」

 将嗣は、クシャと微笑み。

「ああ」
 とだけ言って、再び美優を抱きしめた。
 

 窓の外は、日も落ちて病院の中庭の樹木に施されたクリスマスイルミネーションが点灯された。
 もうすぐ、美優の誕生日。
 陣痛で苦しんで、街路樹に寄りかかって、痛みに苦しんだあの日から1年が経つ。
 自分の人生の分岐点になったあの日。
 苦しんでいた私に手を差し伸べてくれた人が現れた。
 人生何が起こるかわからない。


 そんなことを考えていたせいか、コンコンとノック音がして朝倉先生の「こんばんは」イケボと共にドアが開く。
 美優が朝倉先生に気が付くと、抱っこをねだるように小さな手を伸ばした。

 うーん、我が子ながら、なかなかの世渡り上手かも!?

 私は、ドキドキとしながら将嗣に抱かれた美優の様子を見守っていると、将嗣が朝倉先生に声を掛ける。

「朝倉さん、お疲れ様です。美優のお世話をお願いします。次回火曜日ですね。それと、ご婚約おめでとうございます。何かありましたらいつでもご連絡ください」

 んっ⁈ これは? 応援してくれる感じだったのに牽制している!?
 と、少しドキドキしながら二人のやり取りを見つめた。

「ありがとございます。大切にお世話させて頂きます」
 と、朝倉先生は美優に手を差し伸べ、将嗣の手から美優を譲り受けながら余裕の微笑みを返す。

 将嗣がフッと笑い。
「よろしくお願いします。
  夏希、今日は帰るからな。お幸せに!」
 
「将嗣、ありがとう」
 手をひらひらさせて病室から出て行く、その後ろ姿に向かってもう一度、声を掛けた。
 
 私は、将嗣の背中を見送ったあと深呼吸をした。
 美優の子守の引き渡し場所が病室で、朝倉先生と将嗣が顔を合わせる状況にやっぱり緊張する。それに今日は将嗣と色々話をした後だったし……。

 

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