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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

雨降って地固まる 5

「お前の事を泣かしてばかりで、ごめんな。俺が結婚していたのを隠していたのがバレた時も凄い泣いていたもんな」

「だって、不倫なんて思っていなかったから……」

「妊娠したのがわかった時だって、相談出来ずに泣いたんだろ」

「結婚している人に子供が出来たなんて、相談出来ないよ……」

 将嗣は、ギュッと拳を握りしめ、ゆらゆら揺れる瞳からひとすじの涙を流した。

「ごめんな……俺が、ちゃんと前の結婚を片付けていたら夏希の事を泣かせなくても済んだのに……いろいろ……遅すぎた」

 そう、私たち二人の関係は、いつも嚙み合わない。
 
「夏希を取り戻したくて、美優の良いパパになりたくて、頑張ったけど結局、事故に遭わせて、イヤな思いをさせただけだった」

 そして、私の指輪を見つめながら呟くように言った。

「アイツが夏希の事も美優の事も大事にしているの……わかるよ」
 
 私に抱かれている美優の頭を撫でながら、涙で濡れた瞳を美優に向ける。

「すっごい我儘だってわかっているんだけど、夏希があいつと結婚して、谷野夏希と谷野美優が、朝倉夏希と朝倉美優になるのは仕方ない。けれど、俺は美優の父親でいたいんだ。父親が二人になって美優が混乱するかも知れないけど、俺は美優の父親をやめたくないんだ」
 
 美優の事を大切に思ってくれている将嗣を、美優の人生から追い出すような事はしたく無い、今、言える全ての想いを込めて将嗣に言葉を紡ぐ。

「この先、美優が大人になっても、結婚してどんな苗字になっても、将嗣が美優のパパなのは、ずっと、ずっと変わらない。DNAが受け継がれていて、やめたくてもやめられない事実なんだから!」

「……ありがとう」
 将嗣の震える声が聞こえた。
 もう、将嗣の想いが溢れて心が痛くて涙が止まらない。
 泣きじゃくる私を将嗣も泣きながら抱きしめた。
 ただ、二人でボロボロと涙をこぼしながらギュッと抱き合った。 

「将嗣のこと……本当に好きだったんだよ」

「うん、わかっているよ。ごめんな。俺がいい加減だったから……。
夏希が一番大変な時にそばにいられなくって……」

「……うん」

「もう遅いってわかっているけど、言わせて……。
         夏希、心から愛してる……」

 将嗣に ” 愛してる ” と言われても ” ごめん ” としか返せないのが切なくて、声に出せずに将嗣を見つめた。

「最後だから……」

 涙で濡れた瞳にキスを落とされた。
 将嗣の熱い唇が、涙を拭いながら頬にすべり、そして唇に重なった。
 将嗣の熱が唇から伝わる。胸が苦しくて、息が上手く出来ない。
 唇が離れると冷たい空気を感じた。
 ゆらゆらと揺れる瞳を見つめる。
 今、離れたばかりの唇から言葉が紡がれる。

「夏希、幸せになれ」




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