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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

雨降って地固まる 2

「こんにちは」
 朝倉先生のイケボが聞こえた。
 
「こんにちは、朝倉さん。明日まで美優の当番なので、今日は美優を連れて帰りますね。お先に……。夏希、今日は、早めに美優ちゃんを休ませるから明日、また来るよ」
 将嗣は、ひらひらと手を振り美優を連れてドアの外へ歩いて行く。

「えっ? もう?」
と言った声は、将嗣に届いていなかったようで、あっという間にいなくなってしまった。何もそんなに急いで帰らなくてもいいのに……。

 視線を朝倉先生に戻すと朝倉先生は、お見舞いには派手ともいえる赤いバラの花束を抱えていた。
 相変わらずのイケメンさんはバラの花束がよく似合うなぁ。と見惚れているとイケボが聞こえる。

「夏希さん、移動して来て疲れたんじゃないですか? 体調は、大丈夫?」

「ひゃい」

 思考を引き戻されてビックリしてヘンな声が出た。
 朝倉先生は、クスッと笑い目が細くなる。
 恥ずかしくって、伺うように朝倉先生を見ると視線が絡み、優しい瞳に私が写っていた。

 不意に何かを思い出したのか、その表情が陰る。

 朝倉先生は、私の頬に手を添えて、今にも泣きそうな表情をしていた。
 きっと、福島の病院に駆けつけて私の顔を見るまで、たくさん心配してくれたんだろう。前の奥さんの事も思い出して、最悪のパターンも想像したのかも知れない。
 私は、朝倉先生の顔に手を両手を伸ばした。右手は、点滴が漏れた痕がまだ残っているし、左手は裂傷のため包帯が巻かれたままだけど、指先は血が通っていて温かい。少しでも体温を伝えたくて朝倉先生の頬を包んだ。

 視線が絡んだまま、お互いがお互いの瞳の中に留まった。
 どんな時間ときもお互いがお互いを必要としている事を伝えたくて、ただ見つめた。
 ゆっくりと朝倉先生の口が動き、紡がれた言葉。

「夏希さん……。私と結婚してください」

 私は、緊張しながら朝倉先生の顔を自分の方へ引き寄せキスをした。
 唇を少し離し
「はい、よろしくお願いします」
 と、囁くと今度は翔也さんからキスを返された。

 唇を合わせるキスから 唇を味わうようなキス。そして、舌が唇を割り込んで深いキスに変わった。
 「んっ、、」
 息が苦しくなるほどお互いがお互いを味わって、呼吸のため少し離れると寂しくなって、もう一度キスをした。

「本当は、美優ちゃんの誕生日にプロポーズをしようと思っていたのですが、福島の病院で早く入籍しましょうと何回か、言いかけてしまって……」

 言われてみると何かを言い掛けていた事が何回かあった気がする。

「夫婦になれば、お互いに何かあった時に一番最初に連絡が来ます。もう、今回のように人伝ひとづてに、事故の知らせを聞くような事は無くなります。それに両親が揃った家庭から子供を取り上げるような事も起こらないでしょう」

 朝倉先生の気持ちが嬉しくて、たくさん心配掛けた事が申し訳無くて、イロイロな気持ちが入交じり、胸がいっぱいで涙が溢れた。

「夏希さん……」

 朝倉先生は、私の涙を拭うと左手を取り、薬指に指輪をはめた。
 ピンクダイヤモンドがメインのデザインで、横に同じ色の小さいピンクダイヤが寄り添っている。
 

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