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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

雨降って地固まる 1

   入院4日目は、将嗣と美優がお見舞いに来ただけで平穏無事に過ごす事が出来た。
 将嗣は、昨日、家に帰ってからご両親と美優の親権の事を話合ったそうだ。
 お母さんは、将嗣との復縁を頼みにきたのに朝倉先生が病室から出てくるのを見て逆上してしまったらしい。お母さんの勝手な言い分と行動を注意してくれたと言う事で安心した

 入院5日目、転院の日
 点滴を外され久ぶりにスッキリ。首のコルセットも小さい物になって楽ちんだ。
 将嗣が美優を連れて病室に来るとホッとした。
 このまま、家に帰れる訳ではないけど、なんとなく地元の病院に移るだけでも気持ちが違う。
 地元の病院に移ったら、朝倉先生や紗月にも会える。
 
「荷物これだけ?」
「うん、あと、紙袋も」

 紙袋の中には、朝倉先生からもらったプリザーブドフラワーのアレンジメントが入っている。地元の病院に移っても眺める予定。

「じゃあ、車いすに乗せるからな」
 と、将嗣に膝裏と背中に腕を回され抱き上げられた時は、あまりの近さとお姫様抱っこの状態にドキドキしてしまったのは、ナイショの話。

 ワゴンのタクシーに乗り込む。長距離のため運転手2名の交代制。
 なんでも病院の紹介で手配が出来たそうで、将嗣と美優と私は3人で後ろの席にVIP扱いだね。と笑った。
 久しぶりに美優を膝の上に乗せて、自由になった右手で支え抱き留める。
 ほんの1週間ほどの間に少し重たくなった気がする。
 美優ももうすぐ1歳になるんだなぁ。と、成長を実感した。
 
 私と美優の様子を目を細めて見ていた将嗣が、いたずらっ子のような表情をして、ゴソゴソとシートの脇から袋を取り出す。
 袋の中身は、一昨日、病室で言っていたお菓子。
 薄皮饅頭や香の蔵、それにママドールとゆべしまで出てきた。

「うわー! ありがとう」

「お土産、事故で買うことも出来なかったからな。とんだ旅行になってごめんな」

「事故は、将嗣のせいじゃないよ」

「でも……。ウチの親も酷い事を言って……」

「それも将嗣のせいじゃないよ。私は、親を早く亡くしてしまったから親のための苦労は少ないけど、自分の親でもどうしようもない事があるのはわかるよ」

 将嗣は、眩しそうに目を細めてクシャと微笑んだ。

「夏希、ありがとう」

 将嗣の切ない瞳を見ると胸が詰まる。
 気持ちを切り替えるために、努めて明るく振る舞い、お土産を手に取った。

「何を食べようかな?」

「美優ちゃん、ママはダイエットするって、言っていたの覚えていますよね。ママは忘れちゃったみたいですよ。教えてあげましょう」

「覚えてます! まだ、着いていないもん!」

「美優ちゃん、ママが子豚さんにならないようにママの事を二人で見張りましょうね」
 
「んっもう!ひどい!」
 いつもの軽口にふふふっと、笑いがもれた。



 早めのトイレ休憩を挟みながら車は順調に地元の市大病院に到着。
 地元の見慣れた景色を眺めているだけでもホッとする。
 車イスを押されて病室に入いると、そこは個室だった。福島の病院で個室だったのは事故に遭ったばかりだったし、何となく納得していたのだけれど、回復してきた今でも個室だなんて……。

 私は目を丸くしながら将嗣に言った。
「贅沢じゃない?」
 重傷でもないのに個室だなんて、幾らするんだろう?

「良いんだよ。差額は俺が持つから、相部屋だと美優がゆくっり出来ないだろ?」

 確かに乳幼児を連れてのお見舞いは、相部屋では気を使う。
 将嗣の思いやりにほっこりして、素直に感謝の言葉が出てきた。
 
「うん、ありがとう。助かる」
 
 言葉を紡ぐと頭をクシャっと撫でられる。

「俺も美優や夏希の事が大事なんだよ」
 ぽそりと呟かれた。
 
 嬉しいような、困ったような、何とも言えない気持ちになった。

 コンコンとノックが聞こえる。
 将嗣との気まずい空気を断ち切るような訪問者に感謝をしつつ返事をした。

「はーい」


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