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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 15

 
 私にとって将嗣は『美優のパパ』で、好きだった人。
 ” もしもあの時 ”と思う事はたくさんあるけれど、私と将嗣の歯車は、いつも微妙に嚙み合わない。
 空回りをしたり、軋んだり、運命の輪が上手く回らない。
 
「将嗣、ごめん」
 ポツリと呟いた。
 
「なんで、夏希が謝るんだよ」

「えっ? なんとなく」

「”ごめん” よりも ”ありがとう” が、聞きたいよ」

 将嗣が切ない表情を向ける。将嗣も私にずっと謝ってばかりで ”ごめんね” しか聞いていない気がする。私だって ”ありがとう” を聞きたい。

「美優の子守、ありがとう」

「なんだか、素直で気持ち悪いな。あっ! わかった。なんか美味い物食いたいんだろ。明日、薄皮饅頭買ってこようか? それとも香の蔵? ママドール?」

「全部!」

 いつもの軽口が出て何だかホッとする。
 美優のパパとママ。
 夫婦ではない微妙な距離感。
 きっと、親の世代……いや、一般的に認められないのかも知れないけど、将嗣と私は、この距離が一番歯車がかみ合う気がする。

「美優ちゃん、ママは食いしん坊なんで、退院する頃には、きっと10キロぐらい太って、別人になるかもですよー」

 くそぉー。痛いところをついてきたな。

「転院したらダイエットするもん」

「美優ちゃんも聞きましたね。ママがダイエットするって、本当かなぁ?」

「絶対にする!」

 私がムキになって言うと、将嗣が笑った。
 やっと、笑顔が見えて安心した。


「母さんには、しっかり言い聞かせておくから、ごめんな」

 将嗣はそう言うと美優を連れて帰って行った。
 私が目が覚めた時に、美優がそばにいる方が安心するだろうと、気づかいをしてくれたのがわかった。

 一人病室に残され、自由がきかない状態で少し退屈をしながら、液漏れで色が変わった右腕を眺めていた。
 薄い黄色や赤黒い部分、慌てて腕を引張って、スマホを探した代償。

 パニックを起こした、あの時の無力な自分を振り返る。
 日々困らない程度の収入はあるけれど、シングルマザーの自分がケガや病気になった時にそれを支えるほどではない。

 そして、今、美優の預け先だってみんなに迷惑を掛けまくっている。頼れる身内は紗月だけで、彼女の仕事が無い時間ならお願いはできるけど、長時間や長期では無理。

 こんなんだから将嗣のお母さんに母親としての適性を疑われ、親権を取り上げると言われてしまうのだろうなぁ。まあ、それだけじゃないけどね。
 世の中のパパやママは、病気やけがになった時、どうやって乗り越えているんだろう。
 夫婦助け合って……。実家の親が……。
 どちらも自分には無いもので、その上お金も無いんだから、どうしようもない。
 漠然とした不安が押し寄せる。
 
 今まで、自宅ワークで仕事と育児の両立を目指してきたけれど、万が一の時のために保育園や民間幼稚園をあらかじめ調べて置いたり、長期入院の時の対策も考えて置かないといけないな。
 美優のために何が出来るのか、考えないといけない。

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