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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 12

 病室のドアをピシャリと閉めて、ツカツカとベッドの脇にやって来た。
 ついさっきまで、朝倉先生と甘い雰囲気だった病室が、今はピリピリとしている。私は緊張しながら将嗣のお母さんに声を掛けた。

「こんにちは、お話って何でしょうか?」
 
 お母さんは、キッと眉山を上げて言った。
「他でもない。将嗣と美優ちゃんの事よ。あなたは、美優ちゃんの母親としての役目を果たせていないわ」

「えっ?」
 いきなりの喧嘩腰に驚きを隠せなかった。
 心臓がバクバクと言っている。

「お身内の縁も薄くて、こんな緊急事態の時に助けてくれるご実家も無いようですし、美優の父親である将嗣があんなに良くしているのに何が不満なのかしら? 将嗣の手前、煩い事は言わなかったけれど、不倫をしたのもあなたに原因があったんじゃないのかしら?」

「そんな……」
 
「今だって、美優の子守を将嗣にさせて、他の男と会っていたのでしょう? 将嗣の何が不満なの? あなたに良くしてあげていたじゃない? そうやって色々な男の人にいい顔をして、自分の付加価値を上げようという作戦なのかしら?」

 ひゅっと息を吸い込む。
 朝倉先生とすれ違った事で逆鱗に触れてしまったのか……。
 突然の攻撃に頭が真っ白になって、何も言い返せなかった。

 自分の息子との間に子供まで作っていたのにプロポーズを断って、ほかの男と会っている女は、悪い女に見えるのだろう。

 家に伺った時に他に『好きな人がいる』と言ったのはがいけなかったのか?
 変な期待を持たないように、はっきり言った方が良いとあの時は思ったのだけれど、余計な事など言わずにやり過ごせば良かった。
 一度口から出た言葉は、取り消しが効かない。正直に言った事が返ってマズい結果になってしまったようだ。

「あのね、子供をないがしろにして、自分の色恋にうつつを抜かしているようだから、親権について弁護士さんに相談させて頂く事にするわ」

「えっ? 美優の親権……」
 
 心臓がバクバクと煩い程に鼓動を速めて、将嗣のお母さんの声が遠くに聞こえる。

「収入も家庭環境も将嗣の方があなたより条件が良いでしょう? 何せ、将嗣は歯科医師ですもの。きっと家裁に申し立てすれば、ウチが美優ちゃんの親権を取れる筈よ」

 子供の親として自分の子供や孫が可愛いのは分かるけど、これはあんまりな申し出だ。怒りで手が震える。
 
「美優は、私がお腹を痛めて産んだ子です。私の子供です」
 半ば、悲鳴のような声を上げた。
 
「近々、弁護士さんから連絡を差し上げます」
 将嗣のお母さんから冷たい声が聞こえる。
 
 直ぐそばに美優がいない事にも不安が煽られる。

「将嗣は……。将嗣さんは、何て言っているんですか!?」

 私は、将嗣のお母さんを見据えて訊ねた。

 将嗣のお母さんは視線を泳がせる。
「とにかく 男といちゃついて、子守をしない母親に子育ての資格なんてないのよ。弁護士先生から連絡を待っていなさい」
 と冷たく言い放ち、病室から出て行った。
 

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