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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 10

 
 朝倉先生が病室に入って来ると、和やかだった空気がピンと張り詰めたような気がした。
 緊張したような将嗣の表情を見ると自分もつられて緊張してしまう。

「こんばんは、今、大丈夫かな?」

 朝倉先生の柔らかい声が聞こえると、さっきまで将嗣の膝の上で大人しくしていた美優が「あー」と朝倉先生に向かって手を伸ばした。
 その様子を見た将嗣がクシャっと笑って、美優を朝倉先生の腕に渡した。
 少し驚いた様子の朝倉先生は美優を腕に抱くと、優しい瞳で命を愛しむように見つめた。

「お姫様は、ご機嫌だね。美優ちゃんが無事で良かった」
と、微笑んだ。
  
「朝倉さん、夏希の転院が5日後の土曜日に決まりました。転院先の病院は、市大病院です。夏希の入院期間中の美優のお世話の御助力をお願いします」
 将嗣が、朝倉先生に向かって頭を下げた。

「園原さん、喜んでお世話させていただきますよ」

「朝倉先生、私からもお願いします」

「夏希さんも早く治してください」
 と、優しい瞳がこちらを向いて、私は「はい」と返事をした。

 そして、2人で美優のお世話のシフト決めが始まる。

 私は、横でドキドキハラハラしながら見守っていたが、意外にもスムーズに話が進んで、ホッと息を吐く。

「もう、こんな時間か」

 時計は、午後6時を過ぎたところ

「美優ちゃんのご飯の時間だし、風呂にも入れないといけないから、帰るな。朝倉さん、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 将嗣が美優を連れて病室を後にした。
「翔也さん、良かったんですか? ほとんど翔也さんが美優を見てくれるようなプランになってしまったんですけど……」

 基本、朝倉先生の自宅で美優は世話をされて、将嗣の仕事の休日前の夜から次の夜まで将嗣の当番、それが週2回。
 結局、週5で朝倉先生。週2で将嗣のシフトになった。
 
「私のところは心強い助っ人が、いっぱい来るだろうから大丈夫だよ。それより園原さんが任せてくれる気持ちになってくれて良かったよ」
 
「そうですね、子供の預け先を色々調べたみたいですが、仕事の時間と預け先の時間の兼ね合いで、難しい事がわかったみたいで……」

「どの仕事も9時17時の労働時間って訳ではないだろうし、預けたい園に空きが無ければ、通勤とは関係の無い地域まで行って預けないといけないから働きながら子育てをするのは大変だよな」

 保育園がやっと決まったとしても全ての道具に名前を入れたり、なにか行事が有れば参加したり、道具を作って持たせたり、仕事と家事と育児の合間に色々やらないといけない事が増えて大変だと友人から聞いて、げんなりした記憶がよみがえった。
 預け先を見つけるのも大変で、見つけてからも大変なのか……本当に子育ては楽じゃない。

「翔也さん、ありがとう。美優の事をよろしくお願いします」

「園原さんには悪いけど、美優ちゃんの事は自分の子供のように思っているんだ。なにせ、産まれた時から一緒だしね」
 朝倉先生は、人差し指を口にあて、内緒だよッと、いたずらっぽく笑った。


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