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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 8

 
ドアが開くと将嗣のお母さんが立っていた。

「……少し、いいかしら?」
 と声を掛けられ、ベッドの横の椅子を勧めるが、座ってくれない。ベッドの横で深刻な表情で立っていた。そして、大きく息を吐い込むなり謝罪の言葉を吐きだした。

「夏希さん、わざわざ来てくれたのに、こんな事故に巻き込んでしまってごめんなさい」
 
 将嗣のお母さんに頭を下げられ、事故はお母さんのせいでも将嗣のせいでも無く、信号無視をしてぶつかった車の運転手のせいだから気にしないでと伝えると、ようやく頭を上げてくれた。
 ホッとしたのも束の間、将嗣のお母さんはパッと目を輝かせ私に宣言するかの如く言い放つ。

「夏希さんは、ご両親がいらっしゃらないから、入院中は、お世話させて頂くわ。美優ちゃんのお世話も任せてね」

 美優の世話を自分で見れない以上お願いするしかないが、その張り切り様に不安が募る。

「病院は完全看護なので私は大丈夫ですが、美優のことは将嗣にお願いしてあるので、ご迷惑をお掛けします」

「美優ちゃん、可愛いわよね。孫だと余計に可愛いのかしら? お友達で孫自慢する人の気持ちがわかるわー。やっと、私も孫自慢が出来るのよ」

 嫌がらずにお世話をしてくるのはありがたい事と思って、将嗣のお母さんのおしゃべりに暫く相槌を打っていた。お母さんは、普段の生活の事を中心にお父さんの介護の事や将嗣の事など色んな話しをされた。

 私は、両親共にも就職して直ぐに亡くしているから、親の世代と話す事に慣れていなくて、愚痴とも取れる世間話を聞くのは随分久しぶりの出来事だった。
 悪いけど、お相手をするのが、ちょっと辛くなってくる。少し眠りたいなとか、将嗣が早く帰ってこないかなぁと考えていたら看護婦さんがやって来て午後の検査のお迎えだった。
 将嗣のお母さんには悪いけど、正直言って解放されるのは助かった。

「今日は、来て頂いてありがとうございました」

「夏希さん、美優ちゃんの事は任せてね」

「はい、よろしくお願いします。今日は来て頂きありがとうございました」

 普通に挨拶をしたはずだった。
 ただ、この時点で将嗣のお母さんが色々考えを巡らせているなんて私には想像もつかなった。

 

 午後の検査も終わり、病室でウトウトしていると軽いノック音と美優の声が聞こえた。
「夏希、悪い寝てた?」
 心配そうに私を見る将嗣とご機嫌な美優が入ってきた。

「美優がご機嫌さんだね」
「そう、いい子だよなぁ」
と二人で親バカ状態で美優をホメ合う。

「さっき、将嗣のお母さんが来て、事故の事謝ってくれて、美優のお世話をお願いしたら引き受けてくれたよ」
 
「ごめんな。うるさかっただろ。落ち着いたら連れて来てやるって言ったのに勝手なことして……」

「なんだか張り切っていたよ。お父さんの介助もあるのにパワフルだね」

「ムダに元気だよな。その元気、親父に分けてやれって思うよ」
 ハハッと、力なく笑った様子が少し気掛かりだった。

「お父さん早く元気になるといいね」

「うん、そうだな」
 将嗣が悲しそうに笑い、その事が病気の重さを物語った。
 お家に伺った時もお加減は良くなさそう様子で、将嗣はお父さんと二人で長く話をしていた。
 静かに命の炎を灯している。家族としてその炎がだんだんと小さくなって行くのを見つめるのは辛いだろうな。

「美優がいると将嗣のお父さんとお母さん疲れちゃうね」

「そうそう、” 孫は来て良し、返って良し ”って、言うだろ?」

「何それ、初めて聞いた!」

 将嗣の説明だと、孫が来るのは楽しいが、来ている期間はとっても大変で帰るとホッとする。祖父母の話だと言う。
 将嗣のことわざ創作疑惑は拭えないが、説得力があるのでウンウンと頷いておいた。

 看護師さんが、検査の結果を話たいのでと声を掛けられた。
 私の代わりに将嗣が行ってくれる。委任状を出しておけば代理で話が出来るのは便利だけど、夫婦でもない将嗣が代理なのは、どうなのかな?と思いつつサインをした事を思い出した。
 

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