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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 5

 将嗣は、一瞬ドアの横で立ち止まり、朝倉先生が病室にいる事に驚いた様子だった。だが、直ぐに気を取り直して「ただいま」と言って入って来た。
 朝倉先生の前で、少し緊張した面持ちで美優を抱いたまま挨拶をした。
「こんにちは、遠い所までお越し頂いて……お疲れ様です」

「その節は、失礼しました。朝倉です。今回、事故に遭われて大変でしたね。園原さんや美優ちゃんが元気そうで良かった」

「おかげさまで、夏希には大変な思いをさせてしまいましたが美優が無事だったのが何よりです。事故の責任を取って二人をサポートしていきますのでご心配なく」

 二人のやり取りを息を詰めて見ていて、メチャクチャ緊張して、息苦しくなって、深呼吸をしたら何かヘンに吸い込んでしまったらしく咳き込んでしまった。
 ゴホッ、ゴホッ、
「痛っ!」
 咳が出た時、体のアチコチが痛み声をあげた。
「夏希さん」「夏希、大丈夫か?」
 二人同時に声を掛けられ、自分に意識が向くと何とも居心地の悪い事この上ない。でも、ベッドで動けないまま「大丈夫」と痛みで涙目になりながら返事をした。

イタタマレナイー、タスケテー!!(心のさけび!)

「あの、将嗣、紗月を送ってくれてありがとう」
 重苦しい空気を断ち切りたくて、明るい声を出した。
 
「いや、せっかく来てくれたのに全然楽しんでもらえなくて紗月さんには悪いことしちゃったよ。また、招待するから遊びに来て欲しいってお願いしておいた」
 
 私は、心の中で ” えっ?また!? ”っと思ったけれど、将嗣のお父さんお母さんの事を思えば、美優の顔を見せに来るのも仕方がないんだろう。ココは、右から左へと聞き流しておこう。

「あの、出来れば地元の病院に移れるか、病院の先生に聞いてくれる? 将嗣だって、いつまでも休んでいられないでしょう?」

「わかった、聞いてくるよ」

「あ、美優を朝倉先生に見てもらった方が病院の先生と話がし易いんじゃない?」

 将嗣は、少しムッとした表情になったが、直ぐにいつもの笑顔に戻り、美優に向かって
「大丈夫だよなぁ。美優ちゃんはパパとお利口さん出来るよなぁ」
 と話しかけながら、病室から出て行ってしまった。

 うーん。なんというか。
 将嗣が出て行った後、朝倉先生と気まずい空気が流れる。
 
「翔也さん、ごめんなさい」

「夏希さんは、さっきから謝ってばかりで、そんなに気を使ったら治るものも直らないですよ」
 朝倉先生が柔らく微笑んだ。

「でも……」

「確かにアウェー感はありますね」
 朝倉先生がクククッと笑った。
「夏希さんと美優ちゃんの無事が確認出来て安心しました」
 と、ホッと息をつく。

 朝倉先生の作りだす柔らかく包み込むような空気感がとても心地よかった。
 

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