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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 4

家から遠く離れた土地で事故に遭い、美優のことが一番の心配だった。

 将嗣もいつまでも仕事を休めないだろうし、将嗣のお母さんもお父さんのお世話がある。このままだと役所に相談して児童施設に一時預かりになりかねない。

 もし、朝倉先生に見てもらえるなら安心だと思う。
 しかし、美優のことは、認知届を出した事で将嗣にも父親としての責任がある。そして、そのことで私が一人で決められないという側面もある。

 私が返事に詰まっていると朝倉先生は、心配そうに私の顔をジッと見つめた。

 本当は、朝倉先生の申し出をこの場で受けてしまいたい。でも……。
「翔也さんのプランは嬉しいのですが、入院期間や今後の予定が午後に検査があって、その結果待ちになりそうなんです。あと、美優のことは園原と相談しないと……」

 心苦しいが、自分一人で決められない。
 私が視線を泳がせると、朝倉先生は私の右手にそっと手を重ねた。
 その手が、少し緊張しているような気がした。

「いや、無理を言って悪かった。つい、心配で……気持ちが先走ってしまったようだ。それに少し寂しかったんだよ」

「えっ?」

「夏希さんが、大変な事故にあったのに私はそれを知らなかった。担当編集が、連絡をくれなかったらずっと知らないままだった。夏希さんの一番近くにいたはずなのに……急に遠い存在になってしまったように感じた」

 ああ、そうだった。朝倉先生は、事故で奥様とお腹のお子さんを亡くされていた。なのに私は自分の事ばかりで、朝倉先生がこの知らせを聞いてどんな思いをしたかまで、考えが及んでいなかった。
 事故の知らせを聞いて、慌てて駆けつけてくれた朝倉先生。
 病室に着くまでどんなに不安だったのだろうか。 
 私は、周りの事など気にせずに朝倉先生に電話をすれば良かった。

「翔也さん、連絡できずにいて、心配かけてごめんなさい」

「夏希さんを責めたり、困らせたいわけではなくて、夏希さんのために何も出来ない自分が歯痒かった」

 少しこわばった手を重ねられたまま、真剣な瞳でそんなことを言われたら胸が、ギュッと掴まれたようになって視線を逸らせない。
 
「翔也さんが来てくれて、顔が見れて安心しました。遠いところを駆けつけてくれてとても嬉しいです」

「私も夏希さんの声を聞く事が出来て、顔を見る事が出来てとても嬉しい。生きていてくれて良かった」
 朝倉先生が重ねた手に力が籠った。

「夏希さん……」

 朝倉先生が、何かを言い掛けた時、コンコンとノック音が聞こえた。
 重なる手が離れて、朝倉先生がため息をつく。
 私は、「はい」とノックをしたドアの向こうの人に返事をする。

 ドアが開くと美優を抱いた将嗣が入って来た。

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