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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 3

「病院の先生とも今後の予定を話してみるからな」

「うん、よろしく」
 一日も早く家に帰りたい気持ちを抑えて将嗣に返事をした。
 
「紗月、ごめんね。大変な旅行になっちゃったね」

 正直言って、この後、紗月が帰ってしまうのは、知らない土地でアウェー感が凄くて心細くなってしまう。

「私は大丈夫。それより夏希ちゃん、早く治して帰って来てね」

「ありがとう。ごめんね」

 先に帰ってもらうだけだというのに、凄く寂しい。
 紗月は何度も振り返りながらバイバイと手を振り、私も点滴の付いた右手を小さく振った。
 紗月を駅まで送る為、美優を連れて将嗣も居なくなってしまった。
 また、病院で何も出来ない時間が始まる。

 ため息まじりに天井を眺めているとコンコンとノック音がする。
 みんなが出て行ってから10分位しか経っていないのに何か忘れ物でもあったのかな? 

「はーい」

 返事の後にドアが開く。
 そこに現れた人が思ってもみなかった人で驚き過ぎて言葉が出なかった。

「夏希さん」

 私を呼ぶ声は、紛れもなく私が聞きたかった声だ。

「……翔也さん」


「翔也さん、どうしてココに……」

 朝倉先生は、はーっと息を吐き出した。

「昨晩、担当から電話を貰いました。事故に遭ったと聞いて居て立ってもいられず、病院名だけ教えてもらって来てしまいました 」
 
 朝倉先生の慌てた様子が、嬉しくって笑ったのに涙が零れた。
 
「心配掛けて、ごめんなさい。それに連絡が出来なくて、ごめんなさい」

 本当は、朝倉先生の一番最初に声を聞きたかった。それなのに電話一つ満足に掛けられない自分の状態をもどかしく思っていた。
 今、慌てて駆けつけて来てくれた朝倉先生の声が聞こえて、私の涙を拭ってくれる手の体温を感じる事ができる。 
 添えられた手が温かい。朝倉先生の優しい瞳に出会えた。
 
「驚いたよ。大変だったね。美優ちゃんは?」

「不幸中の幸いで、美優は無事で元気にしています。今は、園原が見てくれています」

「そう……」
 朝倉先生は、私のケガの状態や入院期間の事を聞き、その後、私のことを見つめながら少し考え込むような仕草を見せた。
 そして、意を決したように真剣な表情を私に向けて言葉を紡ぐ。

「出来れば、家の近くの病院に転院して、美優ちゃんの世話を任せて欲しい」
 
「えっ?」

「昨日からずっと考えていたんだ。ウチなら姉貴たちや真由美に頼めるから夏希さんも安心かと思う。退院後もウチに来たらいい」
 
 

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