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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 2

 
 将嗣の前で誰に電話を掛けたらいいのか考えあぐねた挙句口を開いた。
「ごめん、編集さんに電話したいんだけど、画面が見えないから通話できるようにしてくれる? ハンズフリーでね」
「スマホの電話帳開けていいのか?」
「うん、お願い」
 電話帳の あいうえお順だとどう考えても上の方に朝倉先生の名前がある。
 若干の抵抗はあったけれど、自分で画面が開けない以上どうしようもない。
 スマホの操作をする将嗣は表情を変える事もなく出版社の名前を見つけ、タップするとコール音が聞こえ始めた。
 将嗣は、スッと立ち上がり紗月と美優を連れて廊下へ移動してくれた。
 
 旅先で事故に遭った事で、仕事の締め切りが難しくなってしまったお詫びをして、調整出来るものと調整の利かないものと振り分けをする手筈になった。
 やっと、軌道に乗り始めた仕事がココで他の人に回ってしまうのは、フリーでやっている自分としては、かなりの痛手だけれど、締め切りがあって自分が書けない以上どうしようもない。そして、担当さんに朝倉先生へ予定変更の連絡をお願いをする。

 後で手が自由になったら一人の時に朝倉先生に連絡をしよう。
 頃合いを見計らって病室に3人が戻って来ると、ホッとする。

「夏希ちゃん、明日、面会時間になったら来るからね。適当に買い物してくるから、夏希ちゃんのバッグ漁って美優ちゃんのものと夏希ちゃんのものに振り分けちゃうよ」

「ありがとう。ごめんね。すごく助かる」

「いーよ。困った時はお互い様、身内なんだし気にしないで!」

「紗月には、お世話になりぱなしでごめんね」

「明日、来るからね! ほら、美優ちゃんママにおやすみって」
 と、紗月が美優を側に寄せてくれた。

 満足に美優を抱くことも出来ない体をもどかしく思いながら、ケガをしたのが美優でなくて自分で良かったと思った。もしも座る位置が反対で美優の座っていた所に車が突っ込んでいたらと思うとゾっとした。
「将嗣よろしくね」
「ああ、明日な」
「うん、明日」
 色々、不安や不満はあるけれど、明日を約束できた状況で良かったと思う事にした。

 翌朝、目が覚めると昨日痛くなかった所が激しく痛む。昨日はショックで体が興奮状態だったのか痛み止めが効いていたのか。今日は、とにかく痛い。
 看護師さんに言って、痛み止めを追加して貰った。

「ネガティブ思考になりそう」っと、ため息をつく。
 
 病室の壁に掛かっている時計を見ると午前10時半になっていた。
 ベッドの上で、ただ時間だけが過ぎるのを待っているのは辛く、美優のこと、仕事のことが気になる。心細くて、朝倉先生の声が聞きたかった。

 今、体を捻ることも出来ない状態で、ベッドの脇にあるチェストの上にあるスマホを自力で取る事も出来ない自分が歯痒く思いながら時計を見つめる。

 パタパタと足音が聞こえるとコンコンとドアをノック音がした。
「はい」
 返事をすると、美優を抱いた将嗣と紗月が入って来る。
「おはよう」
 明るい声を掛けられ、落ち込んだ気持ちが浮上した。
 将嗣に美優の昨晩や朝の様子を聞くと元気に過ごしていたようでホッとする。
 美優は私の顔を見るなり、抱っこしてもらいたくて泣き出してしまった。
 痛み止めが効いているとはいえ、左手の裂傷、右手は点滴につながれ、首にコルセット、左足にギブスで満足に抱く事も出来ずに切ない。私が困った顔をすると代わりに将嗣と紗月が一生懸命に美優をあやしてくれる。

「これ、夏希ちゃんの荷物、着替えのパジャマや下着とか多めに買って入っているからね。洗濯とか困るでしょう」と紗月に耳打ちされた。

 確かに、このままだと取り替えた下着を洗濯するのを将嗣にお願いするしかない状況。トホホ。
 せめて、車いすで移動できるまでにならないと。

「今日、紗月さんを駅まで送って、その後は、俺は実家に泊まる事にした。警察とかディーラーとか保険屋とも話さないといけないしな」

「美優のこともお願いね」

「ああ、母親もいるしな。どうにかなるよ」

「でも、将嗣のお母さん。お父さんのお世話もあるのに美優の世話までしたら疲れちゃうよ」
 
「そうだね、ほどほどにしておくよ。母親までダウンしたら大変だしな」
 
 自分で美優の世話が出来ない以上、周りの人に迷惑を承知で甘えるしかない。甘える事に慣れていない自分としては、少し辛かった。
 
 

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