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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

一難去ってまた一難 1

「夏希?」
 私を呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりと目を開けると、心配そうに私を覗き込む将嗣の顔が見えた。

「夏希……気が付いたか、ああ、良かった」

 将嗣の言葉に段々と意識が覚醒して来る。
 自分に迫る車、降り注ぐガラス、美優の泣き声がフラッシュバックした。

「美優! 痛っ」

 ベッドから起き上がろうとしてしたが、体に痛みが走り上手く起き上がれない。視線を彷徨わせて美優を探した。

「美優は?」

「美優ちゃんも紗月さんも無事だよ。今、待合室で紗月さんがあやしてくれている。ごめんな。痛いだろ? お前の席にモロに突っ込まれたもんな……」

 将嗣は、私の頬に手を当て今にも泣き出しそうな顔をしている。

「将嗣のせいじゃないよ」

 コンコンとノックされ、看護師さんが入って来て、検温や血圧などをしてくれた。
 指先動きますか? 手足にしびれを感じませんか?など聞き取りもされ、段々と不安が募る。

「あの、私、どうなっているんでしょう?」

「左足の細い方の骨が折れているのと足首のじん帯傷めてしまったのが一番重傷で、あとは首のむち打ちと、左腕前腕を5針縫ったけど傷は深くなかったから抜糸をしたら動かせるようになります。入院1か月、全治3か月よ」

「えっ! 1か月も入院って……」

 もう、何がなんだか頭が真っ白になってしまって、その後、看護師さんと何を話したのか、「はい」と返事を返していた事しか覚えていない。
 
 看護師さんと入れ違いに美優を抱いた紗月が病室に入って来た時には、ホッとして声を上げて泣いてしまった。

「夏希ちゃん、連絡しておくところある?」

 私が落ち着きを取り戻した頃に紗月に声を掛けられ、ハッとした。
 仕事も自宅に帰らないと出来ない。仕事先に連絡をしなければ……。
 朝倉先生にも連絡したいけど、どうしよう。

「病室って、携帯電話ダメなのかな?」

「うーん、病院って電子機器はお切りください。なイメージだけど看護師さんに聞いてくるね」

 と言って、紗月は美優を抱いたまま病室を出て行った。

「1か月入院って、ココ福島の病院だよね。どうしよう」

 紗月や将嗣だって、明後日から仕事だろうし、見ず知らずの土地で美優を抱えてどうしていいのか、途方に暮れる。

「俺、何日か休みをもらえるように調整してもらっている。紗月さんは、明日帰るとして、俺は少しなら残れるから一緒に考えよう」

「うん」と返事をして白い天井を見上げると入院期間や退院してから完治するまで満足に動けない状態での子育てに不安ばかり募り、また、泣きそうになった。

「美優ちゃんの事も一緒に考えよう」

 認知届を出したことによって、将嗣もパパとしての責任が生まれた。シングルマザーとして一人で美優のことを心配していたけど頼れる人がいるのは心強い。

 病室のドアが開き、紗月が戻ってきた。
「病室で電話OKだって、手術室とか放射線のあるところはダメなんだって、昔とイメージ違うんだね」

 病室で電話OKだと聞いてホッとした。右手に点滴、左手に裂傷の包帯でも通話ボタンぐらい押せる。と、思ったら首が動かない、腕が曲げられない状態で、スマホの画面が見えない。
 自分の状態が思っていたのと違う。
 誰かに操作してもらってからハンズフリーで通話するしかない状況。
 かと言って、将嗣に朝倉先生への通話をお願いするのは無神経な気がする。
 


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