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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

労多くして功少なし 7

 美優にしてみれば、知らない家で知らない男の人に抱かれた状態で、ビックリして泣き出してしまった。

「ああ、すまないね。泣かせてしまった」
 将嗣のお父さんがオロオロしていると、将嗣がスッと手を伸ばし抱き上げヨシヨシとあやせば、機嫌を直す美優。
将嗣に抱っこされて甘える仕草を見せる美優を将嗣の御両親は目を細めていた。

「将嗣によく似ている」
 とお母さんが呟き、お父さんが嬉しそうに頷く。
 その様子を眺めてたら、将嗣のお父さんが私の方に向き直りゆっくりと頭を下げた。

「谷野さん。詳しい話は将嗣から聞いている。このバカが申し訳ない」

「やめてください……」

「いや、結婚していながらよそ様のお嬢さんに手を出すなんて、どうしようもない。きちんと責任を取らせるからどうか許してやってくれないか」 

 ”きちんと責任” という言葉を聞いて、スッと背筋が冷えた。
 親の世代での ”きちんと責任” という意味は、” 結婚して責任を取る ”という意味である。
 
「将嗣さんは、認知という形で責任を取ってくれました。それに復縁をお断りしたのは私の意思なので、許すも許さないもないんです」

 体調の良くない将嗣のお父さんに対して、あまりショックなことを言いたくなかった。でも、変な期待を持たせるのもどうかと思い、咄嗟に言葉を選んだつもりだったが自分が言った言葉がショックを与えていないか、不安で爪の痕が付くほど手を握りしめていた。
その不安を察したように将嗣が私の事を見ていた。
 そして、少し寂し気な表情で言葉を紡ぐ。
「親父、夏希の言うとおり、俺はフラれているの。これからは、美優ちゃんのパパを頑張る事で責任を取るんだよ」

「しかし……」

「俺が、半端な事をして夏希を傷つけた。それでも美優ちゃんを産んで育ててくれて、こうして親父も孫を抱く事ができた。夏希には感謝している。俺は夏希に対して、これからも出来る限りのことをしていく。今の時代の責任の取り方をする」

 そう言うと将嗣は、美優を高い高いしてあやした。
 その目は赤くなり、涙が零れそうなのを誤魔化しているようだった。
 
 将嗣の深い想いに応えられない申し訳なさと、切なさと、有難さに胸が詰まる。
 
「まあ、年を取るとね。つい、色々と口を出したくなってしまうの。夏希さん、ごめんなさいね」
 とお母さんが、重くなった空気を払うかのように明るく声を掛けてくれた。

 そして、お父さんのベッドの電動ボタンに手を伸ばし
「さあ、お父さんも少し休まないと疲れるといけないから……」

 
「ああ……」
 お父さんの返事と共にベッドが平になっていく。

「夏希さん、すまなかったね」
 お父さんがポソッと言った。

 私は、首を横に振り将嗣のお父さんに笑顔を向け返事をした。
「今日、お会い出来て良かったです。美優を抱いてくださってありがとうございました」

 お父さんが細く痩せた腕を伸ばす。私はその手に握手するように添えて言った。
「また、遊びに来ます」

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