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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

労多くして功少なし 6

 食事を終えて身支度をしたら、いよいよ将嗣の実家に向かう。
 道中車の中で美優をあやしながら不安になり始めていた。

 自分は知らなかったとはいえ、将嗣が結婚していた期間中に付き合っていたわけで世の中からしてみたら不倫の関係。歯科医医院の後継ぎとして期待されていた将嗣の離婚原因になったとか言われたらどうしようとか、逆に嫁が来たって言われても困るなとか、今更悩んでもしょうがない事をグルグルと考えてしまう。

 そんな、余計な事を考えてしまうぐらい将嗣の実家に行くことに緊張しているんだなと思った。

 そして、車は会津若松市内に入り、程なくして将嗣の実家に到着する。
 将嗣の家は生垣とブロック塀で囲まれた一戸建てで、敷地は広く200坪ぐらいはありそうな雰囲気。手入れが行き届いた庭には、柿の木などが植えられている。瓦屋根の2階建ての家は、きっと将嗣の思い出がいっぱい詰まっているんだろうなぁと見上げた。
 
 車の音で私たちの到着を察したのか玄関が開き、一人の女性が出てきた。

 「わざわざ遠いところ悪かったわね」

 「母さん、こちら谷野夏希さんといとこの紗月さん、そして、この子が美優ちゃん」

 「谷野です。お邪魔します」
 と緊張しながら頭を下げた。

 「将嗣の母の紀子です。今日は良く来てくださったわ。ありがとう」
 将嗣のお母さん、紀子さんが目を細めた。
 その表情を見て、さすが親子だな、よく似ているな。と思った。

 「家に上がって下さい。お父さんも待っているんですよ」
 
 リビングに通されて直ぐに将嗣が声を掛けて来た。

「夏希、悪いけど親父の部屋に美優ちゃんと一緒に行ってくれる?」
 
「いいよ。美優おいで。紗月はちょっと待っていてね」

 美優を抱き、紗月に声を掛けると紗月が頷く。
 お母さんに案内されるように将嗣と一緒に私は美優を抱いて、お父さんの部屋に挨拶に向う。部屋の扉を開けると窓際にベッドが置かれ、その上に痩せた男性が横になっていた。

 「お父さん、将嗣が来てくれましたよ」
 すると痩せた男性は目を覚まし、美優を見つけると嬉しそうな表情に変わる。電動のベッドのスイッチを入れると上半身が起こされた。
 具合が悪い話は聞いていたが、まさかここまで病状が思わしくない様子だとは思っていなかった。将嗣が実家に美優を連れて行きたいと強く希望していた意味が、今、解った。

 
「親父、こちらが谷野夏希さんと美優ちゃん」

「初めまして、谷野夏希です。この子が娘の美優です」
 
「遠い所来てもらってすまないね。抱いてもいいかな」
 と細くなった腕を差し出された。

 病気のせいで実年齢よりも老けて見える面立ちには、深い皺が刻まれている。
 ベッドの上で身を起こしている将嗣のお父さんの側まで行き、差し伸べられた腕に受け渡すと温かい視線で美優を見つめた。

「孫が抱けるとは思わなかった。ありがとう、夏希さん」

 そう言うとお父さんの目が潤み一筋の涙がこぼれ、慌てて涙を拭っていた。お母さんも目を真っ赤にしてその様子を見ている。
 美優にとっておじいちゃんおばあちゃんに当たる二人、将嗣の御両親に美優の存在を喜んでもらえて、胸が詰まった。
 

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