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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

待てば海路の日和あり 1

 
 高級マンションのエントランスホールで部屋番号のパネル盤の前に立ち、緊張しながら部屋番号を入力した。
 最後に大きく深呼吸をして、呼び出しボタンを押した。すると、「開けたよ」と朝倉先生のイケボが聞こえ、エントランスの扉が開いた。

 コツコツと音のするピカピカの大理石の床を歩いていると、ココで転んだら大ケガだなと心配になってしまった。
 今日は美優が起きていて、自分で歩きたいと腕の中で暴れている。こんな大理石の床で頭でも打ったらと思うと絶対に下ろせない。見た目は綺麗でも子供にとって優しくないものがある。

 エレベーターの前につき開くのスイッチを美優に押させてあげるとピカッとスイッチが光りドアが開いた事で、満足げなドヤ顔を見せていた。
 独特の浮遊感を伴い、エレベーターが動きだし、その階数に開くと扉が開く。
 大きく目を開けてキョロキョロと様子を伺う美優。何にでも興味を示し自分でやりたがる美優は順調に成長している。産まれた時を思い起こすと子供の成長はアッという間だなと思った。

 部屋のインターフォンも美優に押させてあげた。
 ピンポーン。っと、鳴ったのに気を良くした美優が続けてピンポーン、ピンポーンと押してしまった。
 まるで、私が朝倉先生を急かしている様で、自分から誘うような事を言ってしまった手前、恥ずかしさ倍増。

「美優、やめてぇ」と焦っていると笑いながら朝倉先生がドアを開けて
「お待たせ」と言って出迎えてくれた。
 ご機嫌の美優が朝倉先生に抱っこをせがんで手を伸ばす。
「お姫様は、今日はご機嫌だね」っと朝倉先生が美優を抱き上げた。

 朝倉先生の後に続いて、おじゃまします。と、上がらせてもらう。
 リビングに入るとマザーズバックから保冷剤に包まれたお土産をガサゴソと取り出した。
 北海道のフレッシュクリームチーズでパッケージに可愛らしい月の絵柄が描いてあるもので、ワインの付け合わせに美味しいはず。

「これ、チーズなので要冷蔵なんですが……」

「冷蔵庫、開けても大丈夫だから入れてもらってもいい?」

 美優と遊ぶ朝倉先生に言われ、キッチンに入った。
 システムキッチンの贅沢な作り、自分の部屋とは比べ物にならない。まあ、キッチンが良くなったからと言って料理の腕が上がったりはしないからなぁ。っと、くだらないことを考えなら一人暮らしの男性の物とは思えないほど立派な冷蔵庫を開らくとマネキネコのスパーリングワインを発見!

 それだけで今後の事を意識してしまう。
 手の平を自分の頬にあてると火照っているのが分かった。
 火照りを冷ますかのよう、流しに向かいカランを押し上げ手を洗う。

 意識し過ぎなのは、自覚していたけれど自分から誘うなんて事をしたのは、初めての経験で、意識するなと言う方が無理なのだ。
 
 でも、浮かれてばかりでなく、朝倉先生に話しておかなければならない事もある。
 私は、リビングに戻ると楽しそうに美優と遊んでくれている朝倉先生の姿に目を細め、愛おしい二人といつまでも一緒にいたいと思った。


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