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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

無理が通れば道理が引っ込む 6

 
「美優ちゃんを抱かせてくれる?」

 一通りの手続きが終わり弁護士事務所を出る時に将嗣から手を差出された。
 その差し出された腕に迷うことなく美優を預けた。将嗣は満面の笑みを浮かべて美優を抱き寄せる。

「美優ちゃん、パパだよ」
 とても嬉しそうに美優を見つめていた。

 将嗣は手続きを終えて正式に美優のパパになったのだ。
 美優のこれからの人生の責任を自らの意思で背負ってくれた。

「将嗣、ありがとう。ごめん」

「いや、夏希には苦労を掛けてすまなかった。これからは美優ちゃんのパパとして頑張るからな」

 そう言われて複雑な心境になった。
 将嗣の言っている事は、間違っていない。美優の父親として、誠実に対応している。
 私は、美優の母親として美優の幸せのために行動しているのだろうか?
 
 帰りの車の中で美優をあやしていると将嗣に提案される。
「ウチでお祝いしようよ。それぐらい付き合ってくれるだろう?」

「そうだね。新米パパさん」

 将嗣と美優の時間を作るのも美優のために出来る事なのかなと思った。

「じゃあ、松の葉寿司で出前でも取るか」

「お祝いだから?」

「そう、お祝いだよ」

 嬉しそうに笑う将嗣を見ていると恋人だった頃を思いだす。
 食いしん坊な私のために美味しいお店を調べて連れて行ってくれたり、楽しい時間を過ごすために色々工夫してくれた人だった。
 二人で軽口をたたきながらいつも笑っていたこともあった。あの時、将嗣が既婚者でなかったら別れることもなくこうして親子三人で楽しい家庭を築いていたかも知れない。
 過ぎ去ってしまった時間は戻せないけれど、楽しかった過去ときを思い出し切なくなった。

 「乾杯!」
 ふたりでグラスを鳴らした。
 とはいえ、帰りの事も考えてノンアルコールビールで気分だけのもの。もちろん、将嗣のおごりで出前の特上寿司を頬張った。

 子供を産んでからめっきり外食をしなくなってしまった。外食だと料理が出て来るまでの待ち時間や食べている間など、ジッとしていない乳幼児には退屈で、騒ぎ立て廻りに迷惑をかけるのではないかとハラハラするぐらいなら、家でのんびりご飯を食べる方が気楽でいいからだ。

 今も美優は、ジッとしている事が出来ずにつかまり立ちをしては、ご機嫌な笑顔を浮かべ、オモチャを掴んで自慢げに持ち上げていた。
 そして、将嗣の家には、子供用のオモチャが増えていた。

「こんなに買ったの?」

「いやー、見るとつい買っちゃうよね。子供の物を買うのがこんなに楽しいとは思わなかったよ」

「子供なんて直ぐに大きくなっちゃうから使う期間短いし、もったいないよ」

「親バカだと思って見逃して、気に入ったの持って帰ればいいし」

「うん、ありがとう。パパさん」

 美優のために心を尽くしている様子に感謝の言葉が出る。
 すると将嗣は言いにくそうに話し出す。

「ごめん、後で両親に手続き完了の連絡を入れるんだ。この前の田舎に行く話の返事を聞いていいかな」

 
 
 

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