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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

和を持って貴しとなす 3

 
 扉が開き、朝倉先生の背中越しの人影から声が聞こえた。
「翔也、人の事追い返そうだなんて、100年早いわ!」

 開口一番、朝倉先生のお姉さんが発した言葉に思わず吹き出してしまう。
 ザ・パーフェクトの朝倉先生もお姉さんに掛かれば赤子同然の扱いで、なんだか、ツボに入ってしまったのだ。
 ククッっと、笑いをこらえているとリビングに朝倉先生とお姉さんそして二十歳ぐらいの女の子が入ってきた。

 その二人を朝倉先生が紹介をしてくれる。
「姉さん、こちらは結婚を前提としてお付き合いしている谷野夏希さんとそのお嬢さんの美優ちゃん。谷野さん、私の一番上の姉、由佳と姪の真由美、真由美はmayuyuと言った方がわかるかな?」

 すると、真由美さんことmayuyuが声を上げた。
「キャー! 夏希さん、会ってみたかったんだ。イラストありがとうございました。夏希さんのイラストに変えてから読者さんが増えてランキングも一気に上位になったんですよ」

「はじめまして、由佳さん。真由美さんもありがとうございます。こちらこそ、mayuyuさんがご依頼くださったご縁で朝倉先生からお仕事を頂いたんですよ」

「私、キューピット!」

「真由美、まだ挨拶も終わっていないうちからはしゃぎ過ぎよ」
由佳さんが真由美さんを窘めた。

「こちらこそよろしくね。5分ぐらい翔也をお借りするけどいいかしら?」

「お母さんと翔兄が話している間、わたしが夏希さんと話をするから大丈夫」
と、由佳さんに真由美さんが返事をしてしまい。由佳さんと朝倉先生は別の部屋に入ってしまった。
 二人で何を話すのか心配でもあったが、聞き耳を立てるわけにもいかず、諦めるしかない。
 うーっ、気になる!

 真由美さんがニコッと私に笑いかけ口を開いた。
「夏希さん、赤ちゃん居たんだ」
 
「シングルマザーなんだけどね」
 
「翔兄が、気にしないならいいんだ。翔兄もあんな事があって辛かっただろうけど、乗り越えたんだね」
 
 私は、真由美さんの言葉を聞いて、以前、滝沢さんが言っていた「いつまでも過去の事を引き摺っていないで、落ちて来た幸せを見逃しちゃダメよ」という言葉を思い出した。
 朝倉先生の過去を私は知らない。

「あんな事って?」
 自分で訊ねておきながら、聞いていいのか分からずドキドキしてきた。

「えっ、ごめん。知らなかったの? てっきり知っているのかと思って、ごめん。わたしから聞いたって言わないで」
 
私は頷いた。

「実はね。今から4年前、翔兄の奥さんが、妊娠8か月の時に交通事故で亡くなってしまって暫く翔兄ショックでヒドイ状態だったの。当時は翔兄が自殺でもするんじゃないかって、みんなで心配して大変だったんだ。すっかり立ち直って良かった。今回の夏希さんとの付き合いの話を聞いて、お母さんも喜んでいたんだよ」

 真由美さんが話し始めてくれた内容は私にとって、とてもショックな話だった。部屋の片隅に置かれたベビーベッドを見る。さっきまで美優が眠っていたその場所は、本来なら朝倉先生の赤ちゃんが眠った場所だったのではないだろうか。
 私の心の中で、何だかわからない感情がグルグルと渦巻く。
 
 
 

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