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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

楽は苦の種苦は楽の種 2

再び携帯電話が震える。今度はトークだった。
 『 日曜日、14時に迎えに行く 』
 と、書いてあり返信メールを送る。

 『 チャイルドシートが無いと美優が車に乗れないよ 』

 『 もう、用意したから大丈夫 』
 こういう事に気が回るのは、将嗣らしいと思った。

 『 了解 』
 送ると直ぐに既読がついて、ハーッと息をつく。
 
 面倒な事だけれど、美優の将来のためにクリアにしなければならない問題だ。勝手に産んだとはいえ、相手のいる問題は、デリケートで難しい。
 
 一年半前に別れた相手に対する想い。あのころ抱いていた恋心は、彼の裏切りによって砕け散ってしまった。
 あの時は、ショックでいっぱい泣いて過去の物になった。
 それを今更、やり直そうと言われても困る。
 
 既婚者なのに独身だと噓をつかれていたのは、ショックだった。
 でも、知らなければ、どうなっていたんだろう。
 ずっと、騙されたままだったのかな。
 騙されたまま、妊娠、出産……。そう思うとゾワリとした。
 それとも、あの時、別れずにいたとして、妊娠を機に将嗣は私との結婚を考えたのだろうか?
 もしも、あの時は、誰しも考える事。けれど、考えてもあの時には決して戻れない。
 そして、離婚して今は独身に戻りました。というだけで、やり直そうと言われても無理なものは無理だ。あの頃の気持ちは、既に過去のものになっている。

 それに今は、朝倉先生が私の心を占めている。


日曜日
 玄関のインターフォンが鳴り、深呼吸をして美優を抱き上げ玄関ドアを開けた。
 そこには、笑顔の将嗣が立っている。
 うーん。なんて声を掛けたらいいのか?
「いらっしゃい」でもないし「ようこそ」とも違う。

 仕方がないので「お疲れさま」と言った。
 将嗣は、上機嫌な様子で美優に手を伸ばす。
「やあ、夏希。美優ちゃん、こんにちは、パパだよ、おいで」
 美優も「あー」と言いながら抱っこされに行く。

 こんな、ささやかな行動にも親子を感じてしまうが、なんだか面白くない。
 ため息をつきながら美優を将嗣に受け渡し、車まで歩いた。

 将嗣の車に着くと、話の通り後部座席にチャイルドシートが設置されいて、私は美優と並んで座る事ができた。

「ねえ、今日はどこで話をするの」
 運転席にいる将嗣に声を掛ける。

「俺ん家で、良いだろう?」

 朝倉先生と付き合い始めたのに元カレでもある将嗣の家に上がり込むのに抵抗があり、返事に困り、考えあぐねていると声が掛かる。

「小さい子供がいるとお店でゆっくり話も出来ないし、美優ちゃんもかわいそうだろう? 美優ちゃんにルタオのプリンがあるんだ。それと、フロマージュも」

「えっ、フロマージュ 」

「そう、夏希、好きだったよな」

 そう、あの口の中で蕩けるような至福の味わい。濃厚な味わい。北海道メーカーならではの美味しさ。口に入れた時のしあわせ、くぅ~!

「お・と・り・よ・せ!」
 ニヤリと笑う将嗣に敗北感を感じる。
 

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