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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

ひょうたんから駒 3

 
 これは、もう、気まずすぎる。トホホ。

「朝倉先生、申し訳ございません」
 私は、美優を抱えた状態で、頭を下げた。
 気持ちとしては、土下座をしたいぐらいだった。どんだけ迷惑をかければいいのか。

「取り敢えず、上がらせてもらっていいかな」
 朝倉先生にそう言われ、ハッとした。
 家の玄関先で何をしているのか……。

「ドウゾ、オアガリクダサイ」
 ツライ、辛すぎる。

 美優をベビーサークルに下ろそうとすると、朝倉先生が美優を受け取るように手を差し伸べる。素直に朝倉先生に美優を預けた。
 視線が合うと先程の一件の気まずさから目を逸らしてしまう。
 それを誤魔化すように「お茶を入れますね」と声を掛け、キッチンに移動する。

 どうしよう。何から話す?
 だいたい、どこから話たらいいの?
 まったく、将嗣が変な時に来るのがいけない。仕事相手が来るから帰れって、言っているのにグズグズ帰らず、朝倉先生に余計な事を言って、なにが” 美優の父親 ”だって 
 つい、この前、知ったばかりなのに何なの?
 朝倉先生を牽制するようなことを言って、朝倉先生は、ただ親切で私たち親子の事を助けてくれているのに……。

 はぁーっと、大きなため息をついた。

 先生の前にお茶を置いて美優を受け取ろうと手を伸ばした。すると、朝倉先生の手が私の手首を掴む。

「先生?」

「この子の父親と会っているのか?」

 私は、朝倉先生の行動と言葉に困惑する。普段の穏やかさからとは、違う荒々しさに朝倉先生の怒りの大きさが伝わってくるようだった。
  
 美優の実の父親がいるのに散々迷惑をかけて怒っているのだろうか。

 朝倉先生の問いになんて答えたらいいのだろう。
 私は、小細工や言葉の駆け引きが出来る様な器用なタイプではない。本当の事を言うしかない。

「この前、偶然会ってしまったんです。今日も勝手にやって来て、朝倉先生には、ご迷惑をお掛けしてすいません」

 すると、朝倉先生のため息が、ふぅーっと、聞こえる。
 ふたりの視線が絡む、朝倉先生が掴んでいた私の手首が引き寄せられる。
 私は、ストンと美優を抱えた朝倉先生の空いている方の胸に抱き留められている状態になった。

 えええぇ??

 朝倉先生のウッディな香りが鼻腔をくすぐる。
 と、いうか……。ち、近い。
 これって、どういうこと?

「ごめん、頭に血が上ってしまった」
 と朝倉先生は私と美優を抱きしめたまま動かない。
 
 それにしても何で朝倉先生が ”ごめん”なんだろう?
 散々迷惑を掛けられて怒って当然だと思うんだけど……。
 今日の朝倉先生の行動は、わからないことだらけだ。

「朝倉先生?」
 と声を掛けると朝倉先生は、ハッとして、私を腕の中から解いた。
「ごめん、ごめん」
 いつもの柔らかな笑顔に変わる。

「谷野さんのプライベートに口を挟んでしまって、すまなかったね」

 私は、朝倉先生の謝罪の言葉に首を振った。
「そんな、朝倉先生には、この子の産まれる前から助けてもらっています。
産院で(仮)パパまでして頂いているんですもの。朝倉先生無しでは、私たち親子はこうして暮らせなかったかもしれません。朝倉先生には感謝しています。美優も私も朝倉先生のことが大好きですよ」
 
 私の言葉を聞いた朝倉先生は、ふわりと微笑んだ。

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