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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

魚こころあれば水こころ 8

 
 腕の中で眠った美優を抱いたまま衣類を整えた。
 そして、意を決して告白した。

「今まで黙っていてごめん。将嗣が言っている通り、美優は将嗣の子供だよ。別れてから赤ちゃんが出来たのが分かったのだけれど、既婚者の将嗣に言っても堕胎する事になりそうで、怖くて言えなかった。だから、黙って産んだの……」

 私は、想いを吐き出すと何の感情かわからない涙が落ちる。腕の中でスヤスヤと眠る美優の重さや体温の温かさが愛おしい。

 すると、将嗣の腕が後ろから私と美優を包み込むようにそっと抱きしめてきた。
 
「夏希、俺の子供を産んでくれてありがとう。夏希が俺に言えなかったのは無理もない俺が悪かった。この前、区役所で夏希が子供を抱いているのを始めて見た時、凄くショックを受けた。他の男の子供かと思うと胸が焼けそうな思いに駆られた。あの後、区役所の案内版に乳幼児健診9、10か月って書いてあるのを見て、もしかしてって思ったんだ。ココに引っ越してきたのだって、偶然、夏希に会えるかもって思ったからなんだ。ヤバいだろう」

 これって もしかして、告白されている?
 私は、将嗣に美優の事を黙っているのは良くないと思っていたし、
 『美優は将嗣の子供だよ』って、伝えるだけで良かった。
 将嗣と復縁する気なんて無かった。
 1年半の月日の中、やっと確立された状況と気持ちの変化のバランスがグラグラと崩れていく。
 私は、どうしたらいいんだろう。
 抱きしめられたままの私は、やっとの思いで言葉を吐き出した。

「……美優のことを受け入れてくれてありがとう。この先のことは、少し考えさせて。私たちは、別れているんだし気持ちの整理がつかないの。放してくれる?」

 将嗣の腕は、私たちを包んだまま解かれない。
 すると、私の首元にポタリと涙が落ちた。

「ちょっと、どうしたの?」
 
「今更、後悔しても遅いのに夏希と別れた事で、失ってしまった夏希と美優との時間が悔やまれる。できることなら、美優が産まれる時も一緒に感動を分かち合いたかった。夏希も一人で不安だっただろう」
 
 将嗣の言葉を聞いて、朝倉翔也先生の事を思いだした。
 陣痛で苦しい時に支えてくれた、私のヒーロー。

 偶然が重なり、朝倉先生に付き添ってもらい出産、それに大きな仕事をもらって、ステップアップした。私は、不思議な縁と運に恵まれている。

「不安がなかったと言ったら嘘になるけど、私は大丈夫」

「夏希、ごめんな。これからは、俺も協力する。美優ちゃんの父親になれるように頑張るから、もう一度やり直せないか?」

 後ろから抱かれた状態で泣いている元カレに何を言えばいいんだろう。
 もう一度やり直したいって言われても辛い思いでリセットしたのに、そんな気持ちになれないよ。
 
「将嗣は、すでに美優の父親だよ。遺伝的にはね。美優にとって良いパパになれるかはこれからなんじゃない? 私とは別れたんだし、別れた時は、もう会いたくないって思った。けれど、将嗣の事情も分かった。まあ、自業自得な所もあるけれどね。だから友達からでいい?」

「わかった、ありがとう。俺、頑張るよ」
 

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