話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

魚こころあれば水こころ 5

 商品を選んでいると、高級黒毛和牛薄切りが勝手に私の買い物カゴの中にいる。
 あれ? 入れたつもりは無いのに間違え入れちゃったのかな? 
 なんて事は無い、犯人は将嗣、お前だ!
 キッと睨んで棚に戻そうとすると、横から声がする。
「俺が買うんだから入れて置いて、今夜は黒毛和牛のスキヤキ♪」

 くそ~。母子家庭の切りつめた財政をなめんなよ。そんな高級食材なんて、2年は食べていないわ。

「俺ん家、この上だけど食べに来る?」
 そう言って、人の事をチラ見する。

 そうだ、コイツこの上のタワマンに住んでいたんだ。でも、家に上がり込むのってどうなの? 私が考えあぐねていると声が掛かる。

「もらった資生堂パーラーのチーズケーキがあったなぁ」

 うっ、濃厚な味わい、1本3500円もする高級チーズケーキ。あれ、大好きなんだよね。

 コイツ、さすがに人の弱い所をついてくるなぁ。

「夏希が来るなら黒毛和牛を追加しようかな?」
 と、返事待ちされる。

 これは、もう、負けました。

「ご馳走になります」

 私は、負けた。
 完全な敗北。
 いや、これは話をするチャンスなのだ。
 決して、自分の食い意地汚さに負けたのではない。
 と、言う事にしておこう。





「は~、美味かった。スキヤキって、一人じゃ食べないから今日は助かったよ」

 チャッカリ、ウッカリ、上がり込んだ将嗣の部屋で高級黒毛和牛のスキヤキをご馳走になったにも関わらず何故かお礼を言われている。

「こちらこそ、ご馳走さまでした」
「チーズケーキ切る?」
「今、無理、まだ入らない」
「じゃあ、帰りに持って帰っていいよ」

 めっちゃいい人に見えてきた。ヤバい! 食べ物につられまくっていない?

 お礼にと食器を片付けている間、将嗣は娘の事をかまって『高い高い』をして遊んでいた。娘もキャッキャッとはしゃいでいる。
 子供は嫌いじゃないと言っていたけれど、これが自分の子供だって知ったら衝撃だろうな。
 娘も普段、人見知りが激しいのに将嗣には平気だなんて……。
 あっ!朝倉先生にも平気だった。

朝倉先生は産まれた時に助けてくれたヒーローで、将嗣は実の父親でこの二人は美優にとって特別なんだと思った。

 食事も終わったし、これ以上無駄に引き延ばしてしまうと折角固まった気持ちが崩れそうだ。
 食後のお茶を入れ、テーブルの上に置いた。
 そして、深呼吸をしてから言葉を吐き出す。

「将嗣、話をしましょう」
 

「名無しの(仮)ヒーロー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く