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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

魚こころあれば水こころ 4

 車に荷物を積み込むと、車のトランクはいっぱいになった。
 すると「この後、時間ある?」と将嗣に聞かれる。

「私、まだ生鮮食料品を買わないといけないから無理。忙しいの」
 まだ考えがまとまっていないから将嗣の前から逃げだしたかった。

「じゃあ、買いに行こう。荷物持ち手伝うよ」

「えっ!えええっ!!」

 もっと、言葉を選んで返事をすればよかったと自己嫌悪。

 何故か私は娘・美優と元カレ将嗣と三人で買い物をする羽目に陥った.
食料品売り場の入口は、お客様感謝デー・広告の品の野菜が段ボールに入れられ、どれでも1つ48円で売られていた。自分で好きな野菜を自分で選んで必要な数だけビニール袋に入れられるシステムだ。
 私は、買い物カートに娘を入れて野菜を選ぼうと娘を抱え直した時に将嗣が手を差し伸べる。

「良ければ、俺が子供抱いているよ。その方が買い物しやすいだろ?」 
と、ふわりと優しい笑顔を向けた。

「えっ!本当?」

「あまり抱いた事はないけれど、嫌いじゃないし、泣かせちゃうかも知れないがそれでも良ければ、抱いているよ」

 元カレ将嗣の意外な言葉に驚きつつも、感激で胸が熱くなる。

 どうしよう、涙が出そう。
 美優が将嗣に抱っこしてもらえるなんて、少なくとも娘が大きくなった時に
『あなたは実の父親に抱っこしてもらった事があるのよ』って言ってあげられるんだ。

 私は、将嗣に娘を預けようと差し出した。

「名前は、なんて言うの?」

「美しいに優しいで、みゆう」

「そうか、美優ちゃんおいで」

 将嗣の腕に美優が抱かれる。
 娘・美優が実の父親に名前を呼ばれて抱いてもらった瞬間だった。
 おっかなびっくり娘を抱き上げる将嗣に少し緊張した表情の娘・美優。
 二人を見ていると親子である事を黙っているのは、大変罪深い行為だと思った。例え、どんな結果になろうとも将嗣には、真実を打ち明けなければいけない。

 この初めての様子を心に止めて置きたくて、携帯電話のカメラでパシャリと写メを撮った。

「なに写真なんか撮って」
と将嗣が柔らかく笑う。
「だって、緊張している顔が面白くて」
と私も笑った。

「やっと、笑ったね。夏希、俺と会ってからずっと怖い顔をしていた。笑った方が可愛いよ」
 
 ひゃー。お客様感謝デーのスーパーの店頭で、将嗣は、ナニこっぱずかしい事を言っているんでしょうかね。
 
 私は、野菜を選びながら熱くなった頭を冷やした。
 付き合っている時は、優しくて少し強引で大好きだった。
 ただ、私に結婚していた事を言わなかった。
 浮気をする人なんて、信じられないとすっぱり別れた。

 だって、父親の浮気にいつも泣いていた母親を見て育ったのだ。いつも我慢して影で泣いていた母。だから浮気は悪い物だと思っている。
 浮気をする父を許せなかったように浮気をする男は許せない。この図式は、トラウマとなって私の心の奥にある。
 でも、大人になるに連れて、夫婦にも色々な事情がある事も理解はしている。
 私は、将嗣の話を聞いて、私も将嗣に娘の父親である事を話す事が、正解なのだと思った。
 

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