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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

魚こころあれば水こころ 3

 アッ!いいこと思いついた!
 私は、お財布から一万円札とポイントカードを取り出し、元カレ将嗣にカートを押し付ける。

「ごめん、これでレジで精算して置いてね。私、この子が泣きそうだから表のベンチで待っているわ。よろしく」
っと、さっさとその場を離れた。

「おいっ、夏希!」
 呼ばれても知らんぷりで店外へ、少なくとも将嗣は、お金を持ち逃げしたり、カートを放置する人間ではない。
 娘が、ぐずる直前に抜け出すことが出来てホッとする。
 買い物も出来て将嗣との会話も避けられ一石二鳥だ。
 人の熱気で熱くなった店内は、赤ちゃんにはふさわしくない。
 適温に保たれたビルの中のベンチは、ゆったりとした作りで赤ちゃんとくつろぐには丁度いい。

 それにしても何で平日の水曜日に将嗣がいるんだろう?
 暫くするとドラックストアの店内から荷物を積んだ将嗣がこちらに向かって歩いてくる。
 雑用をいきなり押し付けられたにもかかわらず、何故か満面の笑みを浮かべていた。

 こわっ! 意味がわからない。
 
「夏希、ちゃんと買ってきたぞ。凄い量だな。車だすか?」

 将嗣は、そう言いながら先程預けた一万円札とポイントカードを渡してきた。

「あなたに日用品を買ってもらう事は出来ない。なんで、渡したお金で払ってくれなかったの!」

「カードの方が便利だろう? レジも混んでいたしな。たいした金額じゃないし気にするなよ。荷物いっぱいだろう? 家まで送るぞ」

 仮にも元カレ、家の場所を知っているんだった。


「自分の車で来ているから、送って貰わなくても大丈夫」
 
「じゃあ、車まで荷物を運ぶよ」

 本当は、将嗣にさっさとお金を払い逃げ出したいが、実際問題、運んで貰えたらどんなに楽だろう。
くっ! 
この提案は、甘んじて受け入れるしかない。

「お願いします」

 地下駐車場へと続くエレベーターのスイッチを押すと扉がスッと開き、乗り込む。
 混んでいる日にも関わらず、エレベーターの中は私達だけだった。
 サイアク!

 将嗣は、私の方に向き直ると真剣な眼差しで
「夏希、あの時、俺は結婚していたし、それを隠して付き合っていて悪かった。夏希が怒ったのも無理はない。けれど俺の話しを聞いて欲しい」

 それを聞いて今更どうするのか? と思ったが、この子の父親である事を告げるチャンスだった。
 今、重要な分岐点に立っている事は分かる。
 だけど、決心が付かない。

 頭の中は大パニック、ぐるぐると色々な思いが過ぎる。
 んんっ 
 ココで、あることに気が付いた。

 区役所で会った時は、ただの偶然で懐かしくて声を掛けたのかも知れないけど、今日、声を掛けて来たのは不自然だ。
 それなのに私に声を掛けて来たという事は、もしかて、美優の事を自分の子供だと気が付いたのだろうか?
 でも、知らない間に父親にされてしまって、こんなに自然と声を掛けてくる事が出来るとも思えない。
 ただ、過去の過ちを謝罪したいだけなのだろうか?
 
 本当に、将嗣の目的ってなんなんだ?
 

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