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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 12

朝倉先生の出来上がったイラストは、子供の落書きのような可愛いらしいものだった。
「朝倉先生、個性的なイラストですね」

「言葉を選んだね」と、朝倉先生が笑う。

 その笑顔が見れてホッとする。
 けれど、魅力的な笑顔にまた心臓が跳ね出す。
 イケメンの悩殺的な笑顔など間近に見るものじゃない。
 
 私は、朝倉先生から視線をPCに戻し、依頼されていた作品を表示して、仕事に気持ちを切り替えた。
 実際に画面を見ながらレイヤーを重ねて配色や変更点を話し合う、朝倉先生もイメージがつかめやすいのか、いつも曖昧な指示が、具体的なものに変わり、打ち合わせはスムーズに終わった。

 打ち合わせの間、娘は、たくさん遊んでもらったせいか、お利口さんにスヤスヤ眠っている。
 朝倉先生は、ベッドに眠る娘に優しい眼差しを向けた。

「いい子だね。ママに似ている」
 
 娘が産まれた瞬間に立ち会ってくれたヒーローの優しい瞳が、私の方を向く。私は、ただドキドキとその瞳を眺めていた。

 朝倉先生の唇が動く。

「また、来ていいかな?」

「はい」

 夢見心地で返事をしていた。



  朝倉先生を見送り、玄関に戻ると体の力が抜けてへたり込んでしまった。

 ジェットコースターのような一日だった。
 娘と一緒に大泣きしたと思ったら、朝倉先生が現れて、先生があの日のヒーローだったなんて……。
 そして、朝倉先生の優しさに触れる度に心臓がドキドキと跳ねる。
 
 ああ、もう!30点の女が何言っているの!
 万が一にもザ・パーフェクトの朝倉先生となんて、あるわけないんだから
憧れと恋心を間違えたりしない。
 心に硬い鍵を掛けよう。

「さあ、今のうちに仕事!仕事!!」

 私は、両手で頬をパチンと叩き、気合を入れて立ち上がった。
仕事をするためデスクに向かい、PCを立ち上げ、アプリを起こす。
 PC画面のギャラリーの中にあるイラストを選ぶ時、朝倉先生の書いたイラストも表示されていた。
 その子供の落書きのようなイラストを眺めていると朝倉先生とキスをしそうになった距離のことを思い出す。鼻腔をくすぐるウッディーな香りが漂う近さ、間近に迫った顔。
 ドキドキと心臓が跳ねる。

 なるべく考え無いようにと思っているのに、気を抜くとホワホワと朝倉先生の事を考えている。自分では制御不能な状態で、朝倉先生の事で頭が一杯になっている。
 



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