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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 11

 
 お茶を飲んで一息ついたので、PCの前で打ち合わせを始めた。
 先生は、イラストの制作現場を見るのが面白いらしく、ぺンタブレットに興味深々の様子。
「ここに書いて、PCで見れるの?」
と聞いてくる。
 いきなりペンタブでは大変かな?と思いながらも、ソフトを使いキャンバスを新たに起こした。

「好きな絵をどうぞ」
「えっ!いいの?」

ペンを渡すと朝倉先生が悩みながらペンを動かす。
 にわかイラスト教室の開催である。
 朝倉先生は椅子に腰かけ、私は斜め後ろに立ち声を掛ける。

「難しいなぁ」

ブツブツ呟きながら悪戦苦闘。それでも子供のように目を輝かせキャンバスに向かう。私は、その様子を微笑ましく眺めていた。
 暫くすると「ああっ!」と、声をあげ、何やら焦っている。

「朝倉先生、ココの矢印を押せば一つ前に戻れるんですよ。後は、消しゴムがコッチで……」と指をさしながら説明。

「ね。カンタンでしょう?」
先生の方を見ると今にもキスをしてしまうぐらい顔が近づいていた。

 びっくりして目を見開く、朝倉先生の顔は目の前、香水のウッディーな香りが鼻腔をくすぐる。
 私の心臓はドキドキを跳ね。朝倉先生に聞こえてしまうのでは?と、思うほどだった。

 焦って、私は跳ね除き慌てて謝った。
「す、すいません!」

「いや……こちらこそ……」
 
 わざとじゃないにせよ。覆い被さるような形で顔を近づけてしまった。
 気まずさと恥ずかしさに言葉が詰まる。

 私達は、大人だ。たとえ唇が触れてしまったとしてもお互いファーストキスでもないし、事故だと認識出来る。
 けれど、仕事相手で、恩人でもある朝倉先生と唇を触れ合ったら後々支障出るだろう。
 今は、子供との生活を守ることが第一に考え、行動していかなければならない。例え、思わぬ距離に自分の心臓が跳ねたとしても気が付かないフリをする。

 朝倉先生は、イラストの続きを書きはじめた。
 そう、こんな事故は、無かったことにするのが一番だ。

 そもそも、私のようなシングルマザーの30点の女が、恋心を抱いたとしても ザ・パーフェクトな朝倉先生に迷惑なだけじゃないか。
 あの日のヒーローが朝倉先生だと知って何かベクトルの向きが変わり出したとしても、憧れは憧れとして取って置いて、アラサーなんだから分別を持って、現実を生きる。

 あの日は、出産という特殊な環境下だった。それを助けてくれたのだから
” 特別 ”を感じてしまうのは、仕方のない事。
 それを勘違いしないように自分に言い聞かせた。

 

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