話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり7

 
洗面所に行って鏡を見た時、自分のズタボロの格好に唖然とした。

「マジ、マイナスだよコレ」

 急いて顔を洗い、支度を始めた。
 娘を押し付けたまま朝倉先生をお待たせするわけも行かず、サッと化粧をし着替えた。
 マイナスから30点ぐらいには、なれただろうか?

 子供も連れて出かけると言うのは、大仕事である。おむつの替え、ミルクの準備に水筒にお湯をいれ哺乳瓶、ステックのミルク。ぐずった時用のおやつ。ハンドタオル、何かと役立つバスタオル。
バタバタと動きまわり支度を終えた。
 それでも今日は朝倉先生が、娘をあやしていてくれたからスムーズだ。
 大きなマザーズバッグを肩から下げ、娘を抱こうとしたら朝倉先生が娘を抱き上げ、「いいよ。まかせて」と茶目っ気たっぷりに微笑んで、そのまま玄関からスタスタと出て行ってしまった。

 笑顔が眩しい……。神なのか?
 
 しかし、家の前に止めてあった車まで行って、朝倉先生は固まっていた。

「しまった。赤ちゃん用のチャイルドシートが無い」
 
 真剣に困っている様子を見て思わずありがたい気持ちで拝みたくなる。
 そして、私の重たい腰をここまで上げてくれたことに感謝して朝倉先生に言った。

「先生。今日はありがとうございました。ここまでで大丈夫です。自分の車で行きますから」
 
「なんだ、車があるんだ」
 と、言って手を差し出された。なんの意味か分からず首をかしげた。
すると、朝倉先生が言う。

「そっちの車で行こう。鍵貸して」

「そんな、悪いですよ」
 私は、勿論遠慮した。そこまで甘えるわけにはいかない。

「ショップで子供がぐずったらどうすんだ?」

 ぐっ、それを言われると言い返す言葉が見つからない。

 ショップで携帯電話の交換をしてもらっている間も朝倉先生は待合ソファーに腰掛け、娘を膝の上に乗せて上手にあやしてくれた。そのお陰で、スムーズにお店の人とやり取りが出来、新しい携帯電話を手に入れた。
 子供がいると普段何でもない事がスムーズに行かず、周りの人に迷惑を掛けながら生活している気がする。
 パートナーがいるとこんな風に何事もなく事が運ぶのだなぁ。
 っと、ため息一つ。

「朝倉先生、ありがとうございました」
 と、声を掛けた。何だか店中の視線を浴びている気がする。
 あっ、朝倉先生ほどのイケメンが、子供をあやす図は、イケメンがイクメンになって、尊い構図だ!
 それをこんな30点のチンチクリンが声を掛けたら ” なんだ~。 ” って、なるわ。

 あー、視線を送る全ての人に言いたい!
 ” 神降臨かと思えるほどの良い人でイケメンの朝倉翔也の新刊を是非買って下さいっ! 私は、表紙担当です。今日は、心配してショップに付き合ってくれただけです! ” 

「谷野さん?」

 はっ!妄想に浸ってしまった。いけない、今日のお礼しなくちゃ。

「朝倉先生、良かったらウチでお食事していきませんか? お礼にご馳走させて下さい」


 

「名無しの(仮)ヒーロー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く