名無しの(仮)ヒーロー
沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 6
   
驚き過ぎて何から考えたらいいのか、頭の中は真っ白だ。
朝倉先生と私は、二人で暫くフォトフレームとお互いを交互に見ながら確認作業のようにうなずいていた。
そして、私は、突然床に突っ伏して、頭を下げた。
ザ・土下座の姿勢である。
「その節は、大変お世話になりました。そして、ご迷惑をお掛け致しました」
「谷野さん、やめて下さい。たまたま通り掛かっただけなんですから」
恩人を目の前にして引くわけにはいかない。
「いえ、こうして私たち親子が無事にいられるのは、あの時、声を掛けて下さった朝倉先生のおかげです」
「いや、貴重な体験をさせてもらいました。感動しましたよ。命が生まれ落ちる瞬間に立ち会えるなんて、あの時に産まれた子が、こんなに大きくなったんだね。また、感動だ」
と、温かい瞳でベッドの上に眠る娘を見つめた後、私を床から起こしながら言った。
「谷野さん、頑張ったんだね」
その言葉に胸が詰まった。そう、私は私なりに精一杯頑張っていた。
たった一人で不安と戦いながら、ずーっと、気を貼って頑張っていた。
でも、本音を言うと少し疲れていた。
あの日のヒーローに ” 頑張ったんだね ” と認めて貰えて、大変だった日々が報われた気持ちになり胸がいっぱいになった。
ベビーベッドの上で娘がフニャフニャ言い出した。
私は、先生に「ちょっとすいません」と声を掛け、娘のおむつ替えをして抱っこをした。
すると、朝倉先生が「私にも抱かせて」と言う。
娘を渡すと先生は意外にも手慣れた手つきで抱き、あやしてくれた。
「朝倉先生、子守り、お上手ですね」
「ちょっとしたものだろう? 女きょうだいが3人もいると姪っ子、甥っ子がたくさん居てね。その子たちの子守りは強制的義務だからね」
と、照れたように微笑む。
「あ、mayuyuさんも姪っ子だっておっしゃっていましたね」
「そう、一番上の姉貴のね。女きょうだいって、何であんなに強いんだろう。いや、女の人は、子供を産むから強く出来ているのかな? この子もいずれ、男の子を尻に敷くぐらい強くなっちゃうのかな?」
娘は、朝倉先生にあやされてキャッキャッとはしゃぐ。人見知りの激しい時期で、散歩の途中に近所の人に声を掛けられても直ぐに泣いている娘が朝倉先生になついている。やっぱり、娘にもあの日のヒーローだってことがわかるのだろうか? と、不思議な気持ちで二人を眺めていた。
「携帯電話無いと困るんじゃない?」
不意に朝倉先生に声を掛けられた。
「はい、困ります。カスタマーサービスに連絡入れて新しい携帯を送ってもらえるまでどのくらい掛かるのか……。その間、孤立無援です」
赤ちゃんを連れて携帯電話ショップに行っても窓口で子供が泣いたら困る事は目に見えていた。だから、ネットでカスタマサービスを利用しての一択だった。
「仕事は、PCのメールでどうにかなるにしても子供がいるのに緊急の連絡も取れないのは良くない。まだ、ショップが開いている時間だから急いで行った方がいい。車で来ているから連れていくよ」
そんな、迷惑を朝倉先生に掛けられない。けど、先生の言っていることはもっともだ。うーん。迷う。
「ほら、早くしないとショップの時間に間に合わなくなるよ。会社は?」
壊れた携帯電話を見て、その通信会社の近いショップを自分の携帯電話で検索している。
朝倉先生にせかされて、私は、出かける支度を始めた。
驚き過ぎて何から考えたらいいのか、頭の中は真っ白だ。
朝倉先生と私は、二人で暫くフォトフレームとお互いを交互に見ながら確認作業のようにうなずいていた。
そして、私は、突然床に突っ伏して、頭を下げた。
ザ・土下座の姿勢である。
「その節は、大変お世話になりました。そして、ご迷惑をお掛け致しました」
「谷野さん、やめて下さい。たまたま通り掛かっただけなんですから」
恩人を目の前にして引くわけにはいかない。
「いえ、こうして私たち親子が無事にいられるのは、あの時、声を掛けて下さった朝倉先生のおかげです」
「いや、貴重な体験をさせてもらいました。感動しましたよ。命が生まれ落ちる瞬間に立ち会えるなんて、あの時に産まれた子が、こんなに大きくなったんだね。また、感動だ」
と、温かい瞳でベッドの上に眠る娘を見つめた後、私を床から起こしながら言った。
「谷野さん、頑張ったんだね」
その言葉に胸が詰まった。そう、私は私なりに精一杯頑張っていた。
たった一人で不安と戦いながら、ずーっと、気を貼って頑張っていた。
でも、本音を言うと少し疲れていた。
あの日のヒーローに ” 頑張ったんだね ” と認めて貰えて、大変だった日々が報われた気持ちになり胸がいっぱいになった。
ベビーベッドの上で娘がフニャフニャ言い出した。
私は、先生に「ちょっとすいません」と声を掛け、娘のおむつ替えをして抱っこをした。
すると、朝倉先生が「私にも抱かせて」と言う。
娘を渡すと先生は意外にも手慣れた手つきで抱き、あやしてくれた。
「朝倉先生、子守り、お上手ですね」
「ちょっとしたものだろう? 女きょうだいが3人もいると姪っ子、甥っ子がたくさん居てね。その子たちの子守りは強制的義務だからね」
と、照れたように微笑む。
「あ、mayuyuさんも姪っ子だっておっしゃっていましたね」
「そう、一番上の姉貴のね。女きょうだいって、何であんなに強いんだろう。いや、女の人は、子供を産むから強く出来ているのかな? この子もいずれ、男の子を尻に敷くぐらい強くなっちゃうのかな?」
娘は、朝倉先生にあやされてキャッキャッとはしゃぐ。人見知りの激しい時期で、散歩の途中に近所の人に声を掛けられても直ぐに泣いている娘が朝倉先生になついている。やっぱり、娘にもあの日のヒーローだってことがわかるのだろうか? と、不思議な気持ちで二人を眺めていた。
「携帯電話無いと困るんじゃない?」
不意に朝倉先生に声を掛けられた。
「はい、困ります。カスタマーサービスに連絡入れて新しい携帯を送ってもらえるまでどのくらい掛かるのか……。その間、孤立無援です」
赤ちゃんを連れて携帯電話ショップに行っても窓口で子供が泣いたら困る事は目に見えていた。だから、ネットでカスタマサービスを利用しての一択だった。
「仕事は、PCのメールでどうにかなるにしても子供がいるのに緊急の連絡も取れないのは良くない。まだ、ショップが開いている時間だから急いで行った方がいい。車で来ているから連れていくよ」
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