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名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 4

 
 暫くして出版された朝倉翔也先生の新刊は好調で、私が良く行く書店でも店頭に平積みで置かれているのを見かけた。
 平積みで置かれていると表紙が目に付きやすい。
 自分の書いたイラストが、本屋の店頭に並ぶ日が来るなんて夢のようで、嬉しくてコッソリ写メを取り家に帰ってから眺めては、ニヤニヤしている。

 おかげさまで、仕事の方も好調。とは言え、子育てをしながらの作画なので、朝倉先生の作品を優先に多くない量を受けている。
 それでも仕事が切れずにあるのはありがたいし、ギャラも今までとは比べ物にならない程の金額になった。
 娘、美優の為に貯蓄をする余裕が出来た事がうれしい。

 美優は、ほふく前進からハイハイ、そして、つかまり立ちへと行動範囲を着実に増やし、マスマス目が離せなくなってきている。
 危険の無い様に見張るのも限界で、赤ちゃんサークルを買ったが、そこに入れても5分としないうちに出たいと言って泣く。

 離乳食を食べる量も増え、うんちも段々キョーレツな芳香を放つものになって来て、子育ては日々戦いであると実感。

 子育てと仕事の両立の大変さは、産まれた時より段々と増していく。
産まれる前は、体のバランスが悪かったり、体重だったりと自分の心配だけだった。そして、産まれれば、うつ伏せで寝ることが出来るとか、コーヒーが飲めるとか、お酒が飲めるとか、自由になる気がしていた。

 出産は、妊娠のゴールであるけれど、それ以上に長い子育てのスタートだったのだ。
 産まれてみれば、王様と召使?いや、下僕と言っていいほどの上下関係。
 赤ちゃんに24時間お仕えさせていただきます。の、世界だった。

 産まれて直ぐは、3時間おきの授乳、その合間のおむつ替え、お風呂など、自由な時間はおろか睡眠時間さえもロクに取れない日々が続き、育ってくれば目が離せない事が増えていく。
 買い物などでも泣きだせば、早々に切り上げて帰り、荷物と子供を抱え足早に歩く。泣いている子供を抱えながら「こっちが泣きたいよ~」と何度思ったことか。

 そして、今、生後8か月になり、人見知りと夜泣きが始まった。
 10キロ弱ある子供を一晩中抱っこして歩きまわるという、ハードトレーニングのような毎日が続いていた。
 ワンオペでの育児の限界を感じる。寝不足と疲労で、体力の限界になっていた。
 世の中のお母さんって、すごいな。これは、もう、実感を込めてリスペクトする。

 産むのも痛くて大変だったけれど、人間を育てる事の責任の重さとその労働たるや半端じゃない。
 夜泣きの話は、育児書を読んで知っていたがここまで過酷だとは、思わなかった。
 会社務めのお母さんってどうしているんだろう。旦那さんと交代で抱っこしたりしているのかな。
 そう思うと、シングルマザーで子育てをしている事が、少し切なく思えた。
 頑張って一人で育てる事を決めたけれど、たまには、弱音を吐いたり、寄りかかったり、甘えたくなる。

「あー、でも、あの無責任ヤローでは無理かな……」
 別れた娘の父親を思い出すとイラッっとする。既婚者だというのに噓をついていた男なんてアテには出来ないのだ。別れた後に妊娠が発覚したからあの男は自分に娘がいる事すら知らない。
 一人で産んで育てると決めた以上頑張るしかない。
 肩がパンパンになろうとも寝不足でフラフラになろうとも一人でパパ役もママ役も両方こなさないとならない。
 やらなくてはいけない事が多すぎてパニックになりそう、だけど、受けた仕事だけはきっかり仕上げて、その後のことはなるようになれ。
 ボサボサの頭も散らかった部屋も出来る時に綺麗にすればいい。

 娘の様子を見ると、さっきまでぐずっていたのがやっと寝てくれそうな気配だった。ベビーベッドの上に娘をおろしホッと息をつく。
 仕事の続きをして、そうしたら少し寝よう。
 と、思っていた所で携帯電話の着信メロディーが鳴り出す。
「やだ、せっかく寝たのに勘弁してよぉ」
 着信履歴は朝倉翔也先生だった。

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